異世界人と竜の姫

アデュスタム

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第4章 見つけた

05 フログスの涙

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・・・55日目・・・


「コースケ様。ライラ副侍女長から連絡がありました!」
 朝食後、食器を厨房に持って行ったミュゼリアがあわてて戻ってくると功助に報告した。
「ライラ副侍女長から?もしかしてシオンの予定がわかったのかな?」
「はい。予定では本日の昼食後2時間と明日の午前中なら大丈夫とのことです」
「そうか、わかった。いつにするかなあ。白い牙のとこにも行きたいしなあ。でもやっぱり早い方がいいか。ミュゼ」
 目だけを上に向けて考えていた功助は頷くとミュゼを呼んだ。
「はい」
「今日の昼食後にしようと思う。それをシオンとバスティーアさんに伝えてきてくれるかな。それと白い牙のところへは明後日向かいたいが可能かって聞いてきてくれるかな。頼める?」
 とすまなさそうにミュゼリアを見る。
「はい。わかりました。姫様とフログス伯爵の謁見は今日の午後、そして白い牙のところへは明後日向かいたいと。それでよろしいですか?」
「うん。それで完璧。連絡頼むよ」
「了解いたしました。それでは行ってまいります。しばらくおまちください」
 ミュゼリアはそう言い一礼すると部屋を出た。

「ということで今日の昼からと明後日一日休ませてもらいたいんですがいいですか?」
 魔法師隊控室。今日の昼にシオンとフログス伯爵を会わせることと明後日白い牙のところへ行くのだと功助はシャリーナとラナーシアに報告した。
「了解いたしましたコースケ隊長」
「わかったわダーリン。それにしても忙しいわねダーリン」
 ラナーシアは頷き、シャリーナは小さく肩を竦めた。
「あはは。仕方ないですよ。さて、時間もないし午前の訓練始めましょうか」
 三人は控え室を出て魔法師見習いのいる広場に向かった。

 謁見室。ここは功助が以前国王と謁見した部屋ではなくシオンベールやルルサ王妃など国王意外との謁見に使われる部屋だ。
 正面には数段の階段、そしてその上に豪華な椅子が威厳をたたえるように鎮座している。だがまだその椅子には主は座しておらずその後ろには青の騎士団副団長のハンスが微動だにせず立っている。
 その謁見の部屋の扉が静かに開くと二人の治療師に付き添われたフログス伯爵がゆっくりと入ってきた。
 ゆっくりと赤いカーペットを進み階段の手前で立ち止まるとフログスは片膝を床に付け首を垂れる。治療師もその後ろで膝立ちをし深く頭を下げた。
 するとステージの横の方から一人の男を伴った女性がゆっくりと入室してきた。華美な装飾もないシンプルな薄紫のドレスを着たシオンベール王女だった。そして王女をエスコートしているのは黒髪の英雄コースケ・アンドーだった。
 功助は王座にシオンベールを座らせると正面の階段を二段ほど降りそのすぐ横の椅子に腰かけた。
「フログス伯爵。面を上げてください」
 シオンベールの透き通るような声が謁見の部屋に響いた。
「はっ」
 フログスはカーペットを見つめていた顔を上げると豪華な椅子にちょこんと座るシオンベール王女を見つめた。
「フログス伯爵。体調はいかがですか?」
 シオンベールはフログスの体調を案じ声をかけるとフログスは頭を下げる。
「ご心配痛み入ります。体調は徐々に回復してきております。杖も持たずに歩行ができ食欲もでてきております」
「それはよかったですね。完全に体調が戻るまでもう少しのようですね。しっかりと養生してください。それと、フログス伯爵は膝が悪いと聞いております。誰かフログス伯爵に椅子をご用意してください」
「はっ!」
 返事をしたのはシオンベール専属騎士のハンス副団長だった。ハンスは正面とは別の横の階段を駈け降りると壁際に置いてあった椅子を持ちフログスの許に持って行った。二人の治癒術師がそれを受け取るとフログスをその椅子に座らせる。
「感謝いたします王女様。なんというお優しいお心のお方であろうか。このフログス恐悦至極に存じます」
 深々と叩頭するとフログスは椅子に座った。
「シオンベール王女様。私めに発言の許可をいただきたいのですがよろしいでしょうか」
「はい。許可いたします」
「はっ。ありがとうございます」
 そして頭を下げたフログスはカーペットを見つめながら話出した。
「シオンベール王女様。このグァマ・フログス、王女様に対し行なってきた非礼の数々。時には王女様の愛でる動物を殺め、仲の良い朋友を辱め、事もあろうに王女様の人竜球を破壊し、あまつさえこの白竜城を我が手に収めようといたしました。この命を懸けても償え切れない所業の数々。どのような処罰もお受けする所存でございます」
 フログスは下を向いたまま、しかしはっきりとした声でシオンベールに言葉を届ける。
「フログス伯爵」
「はっ」
 シオンベールの目がとまどいながらフログスを見つめそして問う。
「あなたは契約の紋章で魔族に操られていたのだと聞いています。真ですか?」
「……はい。私の心の隙間をこじ開け魔の心を植え付けられておりました」
「そうですか。一つ聞かせてください。もしかして操られていた時に自分がしたことを覚えているのですか?」
 フログスは目を閉じ眉間に皺を寄せて苦痛に耐えているようだ。
「…はい。すべて覚えております。主である王女様を呼ぶ動物たちの苦痛の叫びも朋友たちの恐怖に怯える顔も…。そして人竜球を壊され痛みに苦しむ王女様のお姿も…。すべて覚えております」
「……、あなたはそれを見、それを感じ、でも身体が自分の意志を無視し、ただ自分の暴挙を見ているだけしかできなかったのですね」
「……はい。その通りでございます。自分の意志では勝手に動く自分の身体をどうにもできなかったのです。しかし、乱行に及んだのは紛れもないこのグァマ・フログスでございます。とてもお許ししていただけるとは思ってもおりませぬ。しかし、一度でいい、一度だけでかまいません。謝罪させていただきたく思います」
 フログスはそう言うと膝が悪いのも構わず椅子からカーペットの上に降りると平伏しカーペットに額を擦りつけた。
「申し訳ございませぬシオンベール王女様。申し訳ございませぬ、申し訳ございませぬ」
 その声はだんだんと噎び泣きとなり謁見の部屋に響き渡った。
 それを見たシオンベールはゆっくりと椅子から立ち上がると目の前の階段を降りる。ハンスも功助もそれをただじっと見つめていた。
 ゆっくりと歩くシオンベール。そしてその足は床で平伏しているフログスの前で止まった。
「辛かったのですね。悔しかったのですね。でも、もう大丈夫ですよ。もうあなたは魔族になど操られることはないのです。これからは昔の心穏やかなあなたに戻り魔族に奪われた時を取り戻してください。この白竜城もそして私もあなたのご支援を惜しみません。共に頑張りましょうフログス伯爵」
 シオンベールは膝を付きフログスの背中を優しく撫でる。
「……シオンベール王女様…」
 顔を上げたフログスは自分に無垢な微笑みを向けているシオンベールを見つめるとその細い目から涙が流れるのを止めることはできなかった。フログスは次から次と流れる涙を拭おうとせず微笑むシオンベールを見つめていた。

「お疲れシオン」
「ありがとうございますコースケ様」
 テーブルを挟んだ椅子には功助とシオンベールが向かい合って座り、シオンベールの後ろにはシオンベール専属騎士のハンスが立っている。そして功助とシオンベールそれぞれの専属侍女はお茶を淹れたり軽食を用意したりしている。
「どう思った?」
「はい」
 シオンベールがお茶を一口飲むとカップをソーサーの上にコトンと置いた。
「私の知っているフログス伯爵とはまるで別人だと思いました。でも、あれがフログス伯爵の本来のお姿なのでしょうね。魔族のあの契約の紋章の恐ろしさを再認識いたしました」
 と少し険しい顔になるシオンベール。
「それで本当にシオンはフログス伯爵を許すことができたのか?」
 功助もお茶を一口飲むとそう尋ねた。
「…そうですね…。完全に許すとは申せません。魔族に操られていたのは責めることはできないかもしれませんが、これまで受けてきた嫌悪する出来事を無かったことにはできかねます」
 と悲しそうに功助を見る。
「そうだよな。いくらシオンが優しくてもそれが本心だと思う。俺もシオンの立場なら魔族のことがあってもフログス伯爵からされてきたことを無かったことにはできないと思う」
 と功助も一口お茶を飲む。
「ハンス」
「はい、姫様」
「フログス伯爵はこれからどのような処罰を受けるのでしょうか?わかりますか?」
「はい。自分が聞いているのは半年ほどの幽閉と財産没収だそうです」
「幽閉ですか。しかし半年という期限がついているのはどうしてでしょうか?」
「はい。陛下の温情だとベルクは言ってましたが」
「そうですか」
 と複雑な表情のシオンベール。
「それと」
 と話をつづけるハンス。
「フログス伯爵が狂乱だったのは魔族に操られていたからだと世間に発表するようですよ」
 それを聞いてシオンがホッと息を吐く。
「そうなんですかハンスさん」
 とハンスを見る功助。
「ああ。ベルクが言っていたからそうなんだと思うぞ」
 それを聞いた功助は振り向きミュゼリアと目を合わすと微笑む。
「コースケ様。これでトリシアさんに報告できますね」
 とうれしそうなミュゼリア。
「そうだな。それでハンスさん。フログス伯爵が幽閉から解放されたあとはどうなるんですか?」
「うーん。それは俺にもわからんが」
 と首を捻る。
 功助は頭の後ろで手を組むと天井を見上げる。
「そっかあ、でも、フログス伯爵が治めてた領地をもう一度栄えさせて欲しいよなぁ」
 とつぶやいた。
「コースケ様、私から父上に進言してみましょうか?」
「えっ、シオンから?」
「はい。フログス領は以前はかなり栄えていたと聞いております。元のフログス伯爵に戻ったのですから自領をまた繁栄させたいと思っているのではないでしょうか?」
「うーん。そうだなあ」
 功助はトリシアの言葉を思い出していた。
 ’また以前のようにフログス伯爵様に町や村を栄えさせていただきたい’
 叶うといいなと小さくつぶやいた。
「そうだな。それじゃ悪いけどシオンから陛下に進言してもらえるかな。それとフログス領から来た母子の嘆願書が陛下の許にあると思うし、なんとか伯爵が自領に戻れて再建できるようにして欲しいって」
「はい、わかりました」
 そういうとシオンベールはほっと息を吐いた。

 自室。
「コースケ様。お疲れ様でした」
 ミュゼリアはテーブルの上に熱いお茶を入れた湯呑をコトンと置いた。
「あれ?なんで湯呑?」
 湯呑を持ち上げて香りを嗅ぐと緑茶の香りがした。
「さっきフィルからもらったんです。コースケ様にも差し上げてくれと岬のカモメ亭のマギーさんからいただいたそうなんです」
  ミュゼリアはにこやかに笑うとテーブルに置いた十センチほどの壺の蓋をそっと開けてコースケにこれですよと中を見せる。
「へえ。お茶っ葉だ。いい香りだなやっぱり。うれしいよミュゼ。あとでフィルにもマギーさんにも礼を言いたいな」
 とうれしそうな功助。
「フィルに伝えておきます。でも」
「ん?」
「もしよければですが、明日は岬のカモメ亭に行ってお昼をいただくというのはどうですか?フィルにもマギーさんにも直接お礼言えますし、なによりトリシアさんたちにフログス伯爵様のことを教えてあげられますので。どうでしょう?」
 と良いアイディアでしょうと言わんばかりのミュゼリアはドヤ顔だ。
「う、うん。そうだな。そうしようか。それじゃまたミュゼにあちこち連絡に行ってもらわないといけないけどいいかな?」
「はい。もちろん連絡は私にお任せください!それではフィルのところとラナーシア副隊長のところに行って参ります。しばらくお待ちください」
 いつもどおりペコッと一礼すると廊下に出て行った。
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