異世界人と竜の姫

アデュスタム

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第4章 見つけた

06 発見 そして 目

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・・・56日目・・・


「こんにちは」
 カモメの暖簾をくぐるとおいしそうな匂いが功助たちを出迎えた。
「いらっしゃい。あっ、コースケ様!」
「あれ、トリシアさん?」
 昼時の岬のカモメ亭はたくさんの客で満席だ。その満席のテーブルの間をあっちこっちに給仕しているトリシアを見て驚く功助たち。
「はい。ここが忙しい時だけですがお手伝いさせていただいてるんです。マギーさ~ん」
「は~い。あ、いらっしゃいコースケさん。ミュゼリアさん。フィルも一緒やんか。さあ入って入って」
 カウンターの奥から女将のマギーがおいでおいでと手招きをする。
「あっ、お婆ちゃん。今日はお昼ご飯三人でお願い」
「はいよ。じゃ奥で待っててや」
「あ、はい。失礼します」
 三人はカウンターの横からこっちこっちと手招きするマギーに着いて奥に入っていった。そしてこじんまりとした四畳半ほどの部屋に通された。そこにはコタツのような正方形の机と座布団が用意してあった。三人はそれに座ると一息つくのだった。
「へえ。こんな部屋もあるんだ」
 と功助はぐるっと部屋を見渡す。窓は大きく光がいっぱい入って着て部屋の中はとても明るい。
「なんか落ち着きますねコースケ様」
 とミュゼリア。
「この部屋のことは知ってましたが入ったの初めてです」
 とフィリシアも部屋の中を見渡した。
「失礼します」
 そういって扉を開けて入って着たのはお茶の入った湯呑をお盆に乗せたトリシアだった。
「今ご用意しますのでしばらくお待ちください」
 トリシアは一礼すると扉を閉めた。
「さあ、今日のお昼はなんだろうな」
 少しわくわくする功助。それを見て微苦笑するミュゼリアとフィリシア。

「ああ、食ったくった。おいしかったぁ」
 と少しふくれた腹を摩り満足に微笑む功助。
「はい。私ももう食べられません」
「私も。いつ食べてもお婆ちゃんのご飯はおいしくて困るのよねえ」
「おおきになフィル」
 ガラッと扉を開けて入ってきたのはマギーだった。
「あ、マギーさん。ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」
「おおきにコースケさん。ミュゼリアさんも喜んでくれはったみたいやな。ほんまよかったわ」
 とニコニコのマギー。
「それでお店の方はまだ忙しいですか?もし時間があるならトリシアさんにお話があるんですが」
「大丈夫やで。店の方も一息つけるようになったしトリシアさん呼んでくるわな」
 一礼すると扉を閉めるマギー。そして時間をあけずトリシアが扉をノックして入って着た。
「失礼します、改めましてお久しぶりですコースケ様、ミュゼリアさん、フィリシアさん」
 トリシアは畳の上に正座すると一礼をした。
「ほんと久しぶりです。まさかお店を手伝ってるとは思いませんでしたよ」
「うふふふ。マギーさん、いつもお一人でお忙しそうだったのでお手伝いしてあげたいって思ったもので」
「そうですか。ありがとうございますトリシアさん」
 フィリシアがペコッと頭を下げる。
「あの、フィリシアさん。私なんかに頭などお下げにならないでください。私も好きでお手伝いさせていただいているので」
 すこし苦笑するトリシア。
「それでコースケ様。私にお話があるとお聞きしたのですが?」
 トリシアはコースケに身体を向けるとなんでしょうと姿勢を正す。
「あ、はい。フログス伯爵のことです」
「フログス様の?」
 と小首を傾げる。
「フログス伯爵の処遇がだいたいわかりました」
「えっ、こんなに早くわかったのですか?」
 と驚くトリシア。
「はい。半年の幽閉と財産没収になりそうです」
「幽閉と財産没収…。そうですか。でも幽閉が半年だなんて。私そのようなことにはうといのですが幽閉とは期限がついているものなのでしょうか?」
 と怪訝な顔のトリシア。
「俺もそう思いました。普通なら幽閉は終身刑となるんじゃないかと思うんですけど、今回は異例も異例、超特別な国王陛下の温情のようです」
「そうでしたか。それはよかった。それで刑が明けたらどうなるのでしょうか?」
 とまだ不安そうな目で功助を見る。
「はい。おそらくは元のフログス領に戻って自領の復興に携わると思います」
 それを聞いてトリシアはパチンと手を叩いた。
「あっ、失礼いたしました。ついうれしくて手を叩いてしまいました。すみません」
 と頭を下げる。
「そんなこと気にしなくていいですよ。慕っている伯爵が戻ってくるって聞けばうれしくて手を叩いて喜ぶ気持ちはわかりますから」
 と微笑む功助。ミュゼリアとフィリシアも同じように微笑んだ。
「ありがとうございます。嬉しいです。ほんとよかった」
 トリシアは頬を流れる涙を指でそっと拭った。
 そのあとテトが入って来て、ミュゼリアの魔法をせがみ、結婚式はいつにするのと無邪気な質問をしてみんなを微笑ましくしてくれた。

「今日は楽しかったですねコースケ様」
 ニコニコとお茶を入れてくれるミュゼリアを見て功助も楽しそうに返事する。
「そうだな。みんな楽しそうに話できてよかった。テトなんかミュゼから離れようとしないんだもんな」
「あはは。そうですね。でもコースケ様もリンリンが離れようとしませんでしたけどね」
 と苦笑した。
「またフィルとミュゼに助けられたからなあ。あはは。リンリンも悪い人じゃないのはわかってるんだけどさ」
 またまた苦笑する功助。
「それから、トリシアさんがおっしゃってましたが、フログス伯爵が魔族に操られていたという発表が公になってからトリー村に替えるのだそうです」
「そっか。いつごろ公に発表するんだろうな」
「そうですね。いつになるのでしょう?」
 二人して首を傾げた。



・・・57日目・・・


 時間は朝の七時。
 功助たちは今白竜城から少し離れた草原にいる。
 今から功助がこの世界で目覚めたという白き牙の屹立しているところまで行くためミュゼリアとともにここに来たのだった。
「コースケ様。おはようございます」
 バスティーアが一礼するとその後ろで立っていた三人の男も左胸に右拳を当て敬礼をした。
「おはようございますバスティーアさん。今日はよろしくお願いします」
 バスティーアは恐れ入りますと軽く一礼した。
「コースケ様。紹介いたします。こちらが我が白竜城諜報部の精鋭でございます」
 バスティーアが横に移動すると目の前には屈強な三人の男がさわやかに微笑みながら立っている。。
「右から全身がバネのようなジャンプ力を持つコルーイ、真ん中が水魔法のスペシャリストリフー、そして左側は分身術を得意とするトーマイでございます」
 バスティーアがそれぞれの名前を紹介すると三人は何やら目配せをしてうんうんと頷いた。
 まずトーマイが指笛を鳴らした。すると一瞬の内に目の前に直径5メートルはある円板状のものが現れた。そしてそれに三人は身軽にピョンと飛び乗るとなんと歌を歌い始めた。
「♪超三人組は諜報部員~、世界のためならエンヤートットドッコイショ!ラリホーラリホーラリルレロン♪」
「なんじゃそりゃ?」
 思わず突っ込みを入れてしまう功助。
「は、はあ。申し訳ございません。この三人は優秀なのですがちょっと変わった三人組で。しかしご心配ありません。この三人が目的地までコースケ様を安全にお連れいたしますので」
 バスティーアは頭を下げた。三人組はまだ楽しそうに歌っていた。
 そして功助とミュゼリアは超三人組とともにその円盤に乗り出発した。

地上数メートルを浮かびその円盤は軽快に進む。速度は恐らく自転車程度だろう、だが地上三メートルほど浮上し風を切って進むのはなかなか気持ちがいいと功助は周りをキョロキョロ見渡した。
「本来ならただいまの速度の十倍は出るのですよ」
 と功助の心を読んだようにトーマイがドヤ顔で説明した。
「そうなんですか。今の十倍か。……って今でたぶん自転車くらいだし、150から200キロくらいでるのか。それはすごいな」
 と感心し流れゆく景色を眺めた。
 シオンベールとともに竜帝国に来た時にはまったく気づかなかったが竜帝国とカガール平原の間は広大な荒野だった。地平線の向こうに少し緑が見えているがそこがカガール平原だということだ。
 約一時間ほどでカガール平原に到着した。そして超三人組は何やら水晶の球らしきものを見つめると進む方向を確認しているようだ。
 それからまた一時間ほど進むと超三人組のトーマイが声を出した。
「コースケ様っ!到着いたしましたぁ!」
 その円盤はゆっくりと下降し草原の上に着陸した。
 着陸した円盤を降りると十メートルほど前に白い牙が四本屹立しているのが確認できた。
 功助はゆっくりとそこに向かって歩を勧める。ミュゼリアは心配そうに功助の後ろに続く。
「これか…」
 すぐ前で止まりその白い牙を見る功助。牙と名がついている通りそれは大理石のように白く輝きほんの少し弯曲している。
「ここがコースケ様が目覚めたところですか?」
 功助の後ろから四本の牙で囲まれた草の上を見るミュゼリア。
「あれ?コースケ様あれはなんでしょうか?」
 ミュゼリアはその牙より50メートルほど向こうの方を指差して首を傾げた。
「ん?どこだ?ああ、あれ。なんか光ってるな。なんだろ」
 ミュゼリアの指さした方を見て功助は少し怪訝になる。
「あれ?!あれは!!」
 功助はそれをじっくり見ると驚愕の声とともに走り出した。
「あっ、コースケ様?」
 あっと言う間に目の前から飛び出した功助をあわてて追いかけるミュゼリア。そしてミュゼリアの後を追いかける超三人組。
「こ、これは…!」
 功助が拾い上げたものは失くしたと思っていたものだった。
「これ、俺のスマホ…。こんなとこに落ちてたのか…」
 それを見たミュゼリア。
「コースケ様、なんですかそれは?少し厚めの板のようですが…」
「ああ、これか。これは…」
 と顔を上げるとミュゼリアと超三人組を見て少し苦笑する。
「これは元の世界の道具でスマホっていうんだ。本当はスマートフォンって言うんだけど略してスマホだよ。でも、シオンに追いかけられて失くしたと思ってたけど、こんなとこにあったとは」
「へえ。スマホっていうんですかそれ。へえ、元の世界の道具ですか…。で、どうやって使うんですか?」
「えっ。ああ。どうだろう、もうバッテリーがないだろうし、使えないかと…」
 功助はそう言うと真っ黒なディスプレイを見る。
「着かないだろうなあ」
 とつぶやきながら電源スイッチを押した。
「うーん。やっぱり電池切れだ。だめだこれ、もう動かない。電池が切れてる」
「でんち?なんですかそれ?」
 と不思議そうにスマホを覗き込むミュゼリア。
「えーと、ん~。どういえばいいのか…。そうだ、寒い冬とかにさ金属に触った時にバチッてなるだろ?」
「え、はい。たまにバチッてなってびっくりします。、が?」
 それがどうしたんですかとミュゼリアの目が功助を見る。
「うん。そのバチッていうのが電気なんだ。静電気って言うんだけど、その電気を使ってこの道具は動くようになってるんだ。まあ俺の知識だとこれ以上詳しく教えられないけど、まあ、その電気が無くなっててもう使えないんだこれ」
 と寂しそうにモノ言わぬスマホを見る。
「そうなんですか。魔力じゃダメなんですか?」
「魔力?」
「はい。こちらの世界では魔力で動くものがたくさんあります。この諜報部の方々の乗り物も魔力を使っているようですし、お城では井戸から水を汲み上げるのも、ご飯を調理する時のコンロも魔力で動く道具を使っています。だからそのすまほ…でしたか、それも魔力でどうにかなるかなあって」
「はは。どうだろうな。電気と魔力か。なんとなく似て非なるもののようだけど…」
 そう言いながらスマホを見つめる功助。
「(城に戻ったら試してみるのも暇つぶしになるかな)」
 そんなことを考えながら懐にスマホをしまうと少し周囲を歩き回る功助。
「コースケ様…?」
 何かを捜すように歩き回る功助。
「他には何も落ちてないようだな。んじゃミュゼ、帰ろうか」
「もういいのですかコースケ様」
「うん。これが見つかっただけでも有意義だったよ。えーと、諜報部員の方、ありがとうございました。帰りましょう」
「はっ!」
 超三人組はすぐさま円盤を功助の近くまで移動させるとそれに功助とミュゼリアを乗せた。そして数メートル浮上するとゆっくりと動き出した。
 白竜城に替える途中、バスティーアたちがシオンベールを見つけた小川の畔にも寄ったがあの石を投げた時にぶつけて倒れた木も削れた地面もそのままだった。それを功助から聞かされたミュゼリアは削れた地面を見てへえと苦笑した。

 昼ちょっと過ぎ、城に戻った功助とミュゼリアは昼食を済ませるとバスティーアに白い牙の報告をした。そして偶然見つけたスマホを見せると不思議そうにそれを見た。
「これがコースケ様の元の世界の道具ですか?」
「はい。でも今は電池が切れてしまってて使えないんでただの板ですけどね」
 と苦笑する。
「しかし、この表面はとても光沢がありますな。それでもガラスではないのですよね」
 とディスプレイの表面を指で触るバスティーア。
「はい。バッテリーが戻ればそこをトントンと指先で叩いて操作するんですよ」
 と苦笑を浮かべながらスマホを受け取った。
「ふむ」
 と顎に手をやり考え込むバスティーア。
「どうしたんですか?」
「これは申し訳ありません。ちょっと考え込んでしまいました。実は魔具に精通している者がおりまして、相談してはどうでしょうか?なんとかなるやもしれません」
「へえ、そんな方がおられるんですか?そうですねえ。一度その方に会ってみたいですね」
手に持ったスマホをチラッと見るとバスティーアに視線を戻す。
「はい。わかりました。それではすぐに連絡をいたします。時間はおかけしませんのでご安心ください」
 バスティーアは一礼をすると退室していった。
「コースケ様。動くようになるでしょうか?」
 ミュゼリアは功助の手元の真っ黒なディスプレイのスマホを見る。
「そうだな。まあ、動かなくても仕方ないよ。ほとんどあきらめてるし」
 とそのスマホをテーブルの上に置いた。
「うーん。ふう」
 手を伸ばしググッと伸びをして溜息をつくとコキコキと首を鳴らす。
「なんかさっぱりしたい。シャワー浴びてくるよ」
「うふふ。わかりました。ではお着替え用意しておきます」
「うん。ありがとう」
 功助はソファーからピョンと立つと浴室へ向かうのだった。

 その日の深夜。
 白竜城の南にあるマピツ山。うっそうとした木々に囲まれてはいるが茶色い土がむき出しになった山肌に何本もの亀裂が起こった。そしてボロボロと小石が崩れ落ちたかと思えば亀裂の間から不気味な腕が現れた。
 その腕は一度山の中に戻ると、その腕の開けた穴の中から赤くよどんだ光が外をうかがうように明滅する。
 赤い光の中心には淀んだ黒い点がじっと穴の向こうを見ているようだ。そう、よく見るとその赤く光淀んだ黒い点は『眼』だった。そしてその視線の先には広大な白く輝く白竜城が神々しく聳え立っていた。
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