異世界人と竜の姫

アデュスタム

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第7章 魔王

06 白竜神

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「あ……、うぅ……」
 とたんに全身に走る恐怖にモーザの身体が震えだした。
 「な、なんてことじゃ……。くっ……、ひ、膝が……」
「ジェ、ジェドン……、あわわわわ」
 フランサもイリスも膝がガクガクしていた。
「死ね」
 ゼドンは掌に魔力球を作ると見習いたちに放とうとした。
「させないわよ!喰らえ、螺旋風塊すぴらるソリッド!」
 ゼドンに伸ばしたその腕から視認できるほど圧縮された風の塊が放たれた。それは螺旋を描きながらゼドンに真っすぐ飛んで行った。
「ん?うごっ!」
 それはゼドンに命中すると100メートル以上弾き飛ばした。
 シャリーナはその隙に見習いたちの前に降り立つ。
「みんな大丈夫?」
「た、隊長。だ、大丈夫です……。隊長……。うわぁぁぁぁん!」
 モーザがシャリーナに抱き着いた。
「おっとっと」
 怖かった怖かったと泣きじゃくるモーザ。
「わかった、わかったから。ね、ここから早く移動するわよ」
「ふ、ふぁい。クスン」
 と手の甲で目を擦る。
「さあ、あんたたち、移動するわよ」
「ふぇ、ふぇぇぇぇん」
 今度はイリスが泣き出してしまった。
「あらら」
 苦笑するシャリーナ。
「貴様らぁぁぁぁぁ!」
 吹き飛ばされたゼドンが怒りの形相で戻ってきた。油断してたとはいえ吹き飛ばされたのを激怒しているようだ。
「ちっ!もう戻ってきたの!仕方ない、あんたたち逃げなさい!」
 ゼドンを睨んだまま見習いたちに逃げるように指示するシャリーナ。
「わかったのじゃ!イリス、モーザ逃げるぞ、急ぐのじゃ!」
 フランサがメリアを背負いイリスとモーザに叫ぶ。
「う、うん、行くよイリス!」
「ふぁ、ふぁい」
 イリスは再び功助を乗せたエアークッションを引っ張った。
「逃げられると思ってるのか!」
「逃がすのよ!」
 シャリーナはゼドンに伸ばした右腕から竜巻を作り出す、そして左腕からは炎を作り出し両腕を合わせ炎の竜巻を作り出し放った。
「うぐおわっ!」
 炎の竜巻に呑み込まれるゼドン。
「何してんのあんたら!早く逃げなさい!」
 もたもた逃げている見習いたちに怒号を飛ばした。
「はいぃぃぃ!」
 すると高速で逃げていく見習い魔法師たち。
「仕方ないか。まずはお前からだな」
 ゼドンは腕を一度振ると炎の竜巻を瞬時に消滅させた。
「くっ!もうちょっとダメージを与えられると思ったのに!どうしよう」
 両手をゼドンに伸ばし眉間を寄せるシャリーナ。
 ゼドンは掌の上に炎の球を出した。青白く燃えるその炎はメラメラと燃え上がる。それをシャリーナに投げようとしたその時。
「キュワワーーー!」
 その声と同時に青白く輝く竜のブレスがゼドンを再び吹き飛ばした。
「ぬわぉ!」
 吹き飛びゴロゴロ転がるゼドン。ゼドンは数百メートル吹き飛ばされた。
「ミュ、ミュゼちゃん?!」
 そこには青紫の竜と化したミュゼリアが立っていた。ミュゼリアはその身体を白く輝かせると人の姿に戻った。
「シャリーナ隊長、ご無事ですか?」
 シャリーナに駆け寄るミュゼリア。
「ミュゼちゃんありがとう。助かった。さ、ゼドンが戻ってくる前にみんなのところに戻りましょう」
「はい」
 二人は超高速で白竜軍に戻った。

「許さん!絶対に許さん!滅してやる、滅してやる、滅してやるぞぉぉぉぉぉぉ!」
 数百メートル離れたところで立ち上がったゼドンは怒りを露わに黒い靄をその身体の周囲に浮かべた。
 するとその身体が少しずつ巨大化していった。そして十数秒後。ゼドンの身長は倍以上になった。その高さ約5メートル。
「くそっ、あいつ巨大化しやがった」
「魔族というのは巨大化するのだな。知らなかったぞ」
 ベルクリットとハンスが歯噛みする。
「だがこれでブレスが当てやすくなった。青竜ども!攻撃開始だ!」
「グワルルルルルアアアアアア!」
 一斉に咆哮をあげると同時にブレスを吐き出した。

 白竜軍の後方約300メートルほどのところに見習い魔法師の四人とエアークッションに乗せられた功助がいた。
「はあはあはあ。し、死ぬかと思ったぁ」
 モーザが地面にペタンと座りこむ。
「ほんとじゃ。ふう、はあ、ふう、はあ」
 フランサもその隣に座り込む。フランサのそのまた隣にはぐったりとメリアが横たわっている。
 だがイリスの姿がない。そう思って首を動かすとすでにエアークッションを消し地面に横たわらせた功助の前にいた。
イリスは息が上がりふらふらの身体で功助を包み込む黒い靄に向かい風魔法を放っていたのだ。
「……イリス……?」
「……イリスがコースケ隊長を助けようとしておる。そ、そうじゃ。こうしてはおれん!モーザ!」
 フランサがふらふらと立ち上がるとモーザも続いて立ちあがった。
「そうね。今私たちは休んでる暇はないのよね」
 二人はイリスの許に小走りで駆け寄る。
「もう!消えてよ消えてよ!どっかいけ黒い靄ぁぁぁぁ!」
 イリスはいろいろな風の魔法を黒い靄に向かって放つ。攻撃すると靄は少し剥がれるがまたすぐに再生してしまう。
「イリス!」
「どうじゃイリス、効いておるか!」
 イリスの横に立ったモーザとフランサが問う。
「だめ……。何度も何度も吹き飛ばしてるんだけど、全然消えてくれないの。どうしようモーザ、フランサ」
 今にも泣きだしそうなイリス。
「それじゃ今度は私がやってみる」
 モーザは水魔法を使い黒い靄に当てる。水刃は靄に刺さるがすぐに消滅。、水矢もしかり。それでもダメならと氷剣アイスブレードでそぎ落とそうとするもすぐに再生してしまいすべての攻撃が無力化される。
「今度は我がやってみる」
 フランサの火属性魔法もこの黒い靄には効かなかった。
「ダ、ダメじゃ我らの魔法ごときではこの黒い靄は消えてくれん」
 呆然と立ちすくむ三人。
 そこに三人の女たちが駆け込んできた。
「あっ!姫ちゃまとチャリーナ隊長とムジェリアしゃん!」
 噛み噛みのイリスが叫んだ。
「ちょっ、ちょっとイリス!お名前を噛むなんて失礼よあんた!」
「ご、ごめんなさいぃ」
 と首を竦めるイリス。
「あんたたちケガはない?」
 見習いたちの前までくるとシャリーナが四人を見た。
「あんたたちは大丈夫みたいね。……メリアは、魔力が少なくなっているようだわ。あとで回復魔法をかけるわね」
「は、はい」
 少し安堵のイリスたち。
「「コースケ様!」」
 シオンベールとミュゼリアは黒い靄に包まれて蒼白な顔の功助を見て自分も顔を青くした。だがみるみるシオンベールの目に涙が溜ると頬を伝う。そして今度は目を吊り上げて怒りの形相となった。
「コースケ様を……、コースケ様を!このような不気味で悍ましい魔の物に閉じ込めるとは!コースケ様!絶対に、絶対にお救いいたします!この命に代えても私が!」
 そう言うとシオンベールは功助に近づくとその黒い靄をなんと手づかみでむしり取っていく。
「ひ、姫様!危険です!お止めください!姫様!」
 ミュゼリアがシオンベールの背後から両肩を掴み引き離そうとする。
「離して!離してくださいミュゼリア!この黒い靄が!黒い靄、こいつがこいつがこいつがこいつが!コースケ様を!」
 涙を流し黒い靄をむしり続けるシオンベール。
「……や、やめろシオン……。危険だ……。はあはあはあ」
 その時功助が苦悶の声を出した。
「コ、コースケ様!」
 シオンベールはその声であわてて苦しむコースケの顔の前にしゃがんだ。
「……シオン……。この黒い靄は危険だ……。触る…な」
「で、でも……」
「…俺は……シオンが……危ない目に合って…ほしくない。……」
「で、でもこの汚らわしい靄をなんとかしないとコースケ様のお命が……」
「わ、わかってる…。うぅっ……。今必死に…この靄に抵抗してる。……うぐっ……。でも……。う、うぅっ…。ゲボッ、ゲホゲホ!」
 血を吐く功助。
「コ、コースケ様ぁ!」
 シオンベールはあわてて自分の寝衣の袖で功助の口を拭く。
「し、シオン……」
「コースケ様、私は…、私はどうすればコースケ様をおたすけすることができるのですか!私…、私……、無力な私が腹立たしいです」
 涙を流すシオンベール。その時。二人の目の前に小さな光の球が突然現れた。
「な、なんですかこれ!?」
 驚くシオンベール。
「でも、この光球、なぜか安らぎをかんじます」
 白く光るその球を見つめるシオンベール。
「え……?今、何かが……?」
 白く輝く光の球。その中に何かが動くのが見えた。
「こ、これは……。もしかして白い……竜……」
 その光の球の中には小さな小さな白い竜が愛らしい真ん丸の目でシオンベールを見つめていた。
『はじめましてだねシオンベール』
「えっ!?な、何?も、もしかして…」
 突然頭の中に話しかけられて驚くシオンベール。
『あっ、ごめんね。おどろかせちゃったかな?『
「い、いえ…。で、でももしかして貴方様は……、白竜神様……」
 その白い竜を見つめるシオンベール。その額には小さいが水晶のようなツノが二本生えていた。
『ふふ。うん、そうだよ。でもまだまだ未熟な新米の白竜神だけどね』
 それを聞いたシオンベールは立膝になり旨の前で手を組み深く頭を垂れた。
『そんなにかしこまらなくてもいいよシオンベール。ボクはこの青年に謝罪に来たんだよ。そしてあなたとこの青年、コースケにお願いをしに来たんだ』
「謝罪……?とお願い………ですか……」
 少しとまどい小さな白竜神を見つめた。
『うん』
 白竜神はそう頷くと苦しそうに顔を歪めている功助を見た。
『ごめんねコースケ。あなたをこんな縁も所縁ゆかりもないところに召喚してしまって。許して。でも、この世界にはあなたの力が必要だったんだ。あの災厄の黒い魔族、ゼドンを滅するにはあなたの力が必要だったんだ』
 そう言うと白竜神は光の球の中ですまなさそうに頭を下げた。
「白…竜神様……。そ、そうだったんですか……。なんで俺が……、この世界に…いるのか、はあはあ…。わかって良かった……。ゲボッ!うぐぐぐ……」
 再び血を吐く功助。
「コースケ様!」
 そう叫ぶとシオンベールは功助の顔を拭きその頬に手を当てた。
「コースケ様……」
 シオンベールは白竜神に顔を向けると叩頭した。
「白竜神様、コースケ様をコースケ様をお助けください。何か、何かコースケ様をお助けする方法はないのでしょうか!わたくし、わたくしコースケ様をお助けすることができるのならこの診を白竜神様にお捧げ致します!」
 その決意の目で白竜神を見る。すると、
「あたしもこの診をお捧げいたします」
 シオンベールの後ろで叩頭したのはシャリーナだった。
「私もこの診でよければお捧げいたします」
 その横でミュゼリアも深く頭を垂れている。
「私も」
「我も」
「わたわたわた私もおしゃしゃげします!」
 モーザもフランサも、そしてイリスは噛みながら叩頭していた。
「ダメだ!」
 その時苦悶を浮かべている功助が叫んだ。
「コ、コースケ様」
「シオン、それにみんな……。俺のために…ありがとう……。でも、でも俺の……、俺のために、診をささげるなんて……言わないで…くれ…」
「嫌です!私は、私はコースケ様を失いたくありません!そのためならばこの診などどうなってもかまいはしません!私、私コースケ様をお慕い申し上げております。コースケ様を愛しています。だから、だから…。コースケ様……」
 シオンベールの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「あたしも!あたしだってダーリンのこと大好きなんだから!あたしもダーリンを失いたくない!こんな、こんな身体でよければ捧げたってかまわないわよ!」
 絶叫するシャリーナ。その目からも涙がこぼれ落ちた。
「シオン……、シャリーナさん……」
 二人を見つめる功助。
『ちょっとちょっとみんな……』
 光の球の中で苦笑する白竜神。
『いつボクがみんなの身を捧げてって言った?一度も言ってないよ捧げてなんて。そんなことしなくてもちゃんと方法を教えてあげるから。ね、落ち着いてよ』
 肩を竦めるように小さな翼をひょいとあげる白竜神。
「白竜神様……?」
 光の中の小さな竜を見つめるシオンベール。
『いいシオンベール。シオンベールが持つ光の魔力をコースケに与えるんだ。そうしたらコースケはこの黒い靄の呪縛から解き放たれるから。そしてコースケと契りを交わすんだ』
 それを聞いてシャリーナがハッとした。
「も、もしかして……あの古文書……」
『そう。あの古文書を見つけてくれて感謝するねシャリーナ。あれはボクが残したものなんだ」
 となぜかドヤ顔の白竜神。
「古文書?」
 シオンベールがシャリーナと白竜神を交互に見る。
「この世界を救うために別の世界から来た者が黄金の竜と契れば邪に勝てるみたいな古文書。でも姫様、詳しいことはあとで話します」
「わかりました。それでは白竜神様、わたくしの魔力をコースケ様にお渡しすればよいのですね」
『うん。それからもう一つお願いがあるんだけど』
「はい。なんなりと」
『ありがとう。あのね、シオンベールとコースケが契る時にボクの力も使ってほしいんだ。そうすればゼドンを滅する力がその身に宿るから。二人の間に割り込むみたいで悪いけどお願いできるかな?』
 白竜神はすまなさそうにシオンベールを見つめた。
「問題ありません。白竜神様がご一緒なら力強いです」
 と微笑んだ。
『ありがとう。それじゃ、早くしよう。白竜軍が危ない。全滅寸前だよ』

「うわあああ!」「ぐ、ぐぞぉ!」「ま、負けるか!この野郎!」
 巨大化したゼドンには白竜軍の攻撃がまるで効かない。
 ゼドンが腕を一振りすると突風が舞い、口を開けば灼熱の炎が迫る。その目で見つめられると身体が石になり砕け散る。
「うっ!」
 今もラナーシアがゼドンの指先から出た魔力弾で右肩を射抜かれ苦悶の声をあげる。
 ニヤリとするゼドン。そして再び指先から魔力弾を撃った。
  キンッ!
 ラナーシアに当たる寸前、その前に剣を構えた青の騎士が立ちはだかりその魔力弾を一刀のもと弾き返した。
「ハ、ハンス副団長!」
「大丈夫かラナーシア」
「はい、感謝します」
「後退し治癒術師に治してもらえ!」
「えっ?しかし……」
「早く行け!そしてケガを直してまた参戦しろ!」
「は、はい。了解しました」
 ラナーシアは痛む右肩を抑え後退する。
「さあゼドン。今度は俺が相手だ!」
 剣を構えるハンス。
「ほほう。ではお前を先に滅するとするか」
 ゼドンは今度は両掌をハンスに向けると魔力球を作り撃ちだそうとした。その時。
 突然まばゆい光が周囲を包んだ。
 それは純白の光。まるで太陽が目の前に現れたような、そんな強い光。
「うぐわあああああ!目が!目がぁぁぁぁ!」
 両目を抑え苦悶の絶叫をあげるゼドン。どうやらこの強い光で網膜を焼かれたようだ。
「うががががあああ!み、耳まで!何も聞こえん!」
 おまけに聴力も効かなくなったようだ。
 だが…。
「な、なんて柔らかな光だ」「ああ、身体の痛みが無くなって行く」「お、俺の吹き飛んだ腕が再生していくぞ!」
 白竜軍の負傷者たちの傷がみるみる治癒していった。
 そして光がゆっくりと収まって行きこの場にいた全員が光源の方に顔を向けた。
「な、なんだ……?」
 そこには純白に輝く魔力の炎があった。
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