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第7章 魔王
07 融合
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「それで白竜神様、わたくしはどうやってコースケ様に魔力をお渡しすればよいのでしょうか?」
『うん。簡単なことだよ。今コースケは顔だけを出している状態だから、直接魔力を与えればいいよ。そう、口移しでね』
それを聞いた瞬間、シオンベールの顔が一気に真っ赤になった。
「コ、ココココココースケ様に……、コースケ様に口移し……」
真っ赤な頬を両手で挟み身体をくねらせるシオンベール。
「わ、わかりました……。コココースケ様にわたわたわたくしの魔力をくくくく、コホン。口移しでお渡しいたします」
真っ赤な顔だが少しニヤけるシオンベール。わかりましたと言ったあとで’えへへ’と呟いたのは誰にも聞こえなかった。
「な、なんか腹立つわ!ダーリンの口づけはあたしが先にしたかったのにぃ」
と落ちていた小さな石ころを蹴り飛ばすシャリーナ。少し頬をふくらませていた。
「まあまあ」
ミュゼリアがすかさずシャリーナの背中をポンポンとやさしく叩いた。
「……ミュゼちゃん……くすん」
ミュゼリアの肩におでこを付けるシャリーナ。
『さあシオンベール。早く魔力をあげて」
「は、はい。わかりました」
シオンベールは功助の顔の横に正座するとその苦悶に歪む顔を見つめた。
「……シオン……」
薄っすらと目を開けてシオンベールを見る功助。
「コースケ様。今お助けいたします。私の体内に巡るコースケ様にいただいた魔力。そしてコースケ様への想いを込めた私の魔力。そしてシャリーナ隊長とミュゼリア、そしてかわいらしい見習い魔法師たちの思いを込めた魔力を受け取ってください」
シオンベールは功助の頬を両手で包み込むとゆっくりと顔を近づけていった。そっと瞳を閉じシオンベールの桜色の小さな唇が功助の唇に近づく。そしてその距離がなくなり二人の唇はそっと重なった。
シオンベールは体内に巡る光の魔力をゆっくりとゆっくりと功助の口の中に流していった。
「あっ!姫様とコースケ様が薄っすらと光ってきています」
驚くミュゼリア。
「だんだん輝きが強くなってきているようだわ……」
とシャリーナ。
『今だ!シオンベール!コースケ!ボクとともにゼドンを滅して!』
白竜神はそう叫ぶとシオンベールとコースケの頭上に浮かんだ。
『融合!』
白竜神がそう叫ぶとその輝きが一気に強くなりまるで爆発するように信じられないほどの強い光を放った。
「きゃっ、まぶしい!」
ミュゼリアが両手で目を隠す。
「でも……なんか優しい光よねこれ」
シャリーナは薄っすらと目を開けて微笑む。
「うわあ、なんか気持ちいい」
とモーザ。
「ほんとじゃ。なんか癒されるのう」
とフランサ。
「むむむむむ!なんか力も湧いてきたみたい!ふん!」
とイリスは肘を曲げて力こぶを作る。
「う、うぅ……。あれ?ここは……」
魔力切れを起こしていたメリアがパッチリと目を開き起き上がった。
「あっ、光が……!」
「だんだん収まっていく」
とミュゼリアとシャリーナ。
二人と一匹を飲み込んだ光が徐々に収まっていった。
そして、そこにいたのは……、燃え上がる炎のような純白の光の魔力を放つ一頭の竜だった。
「だ、誰…あれ?」
シャリーナが呆然とその竜を見つめた。
「さっきまで姫様とコースケ様がおられたはずですが……」
ミュゼリアも唖然としている。
「ほえぇ」
見習い魔法師たちも突っ立ったままその白い竜を見つめた。
身の丈は3メートルに届くかどうかだがその威圧と存在感はゼドンの比ではないほどだ。純白の竜はシャリーナたちを見下ろすと一声鳴いた。
「パギャルルルルル!」
少し気の抜けた咆哮だった。
「あれって、姫様の鳴き声よねミュゼちゃん」
「は、はい、そうみたいです。今’行ってくる’とおっしゃいました。でも、鳴き声、ちょっとアレンジかかってますよね。瞳は黒いし胸には金色の人竜球があるし、そして額の水晶のようなツノがあんなに立派に……。やっぱりあれはコースケ様と姫様、そして白竜神様のお姿のようです」
見上げる二人。
「パギャピギャルルルルル!」
その竜は戦場に顔を向けると翼を広げて音もなく宙に浮かび瞬時に白竜軍とゼドンの間に着陸した。
「は、早い!」
「あたし見えなかった。浮かんだかと思ったら一瞬であんな遠いところまで……。たぶん、時空属性の瞬間移動だと思うけど……。すごいわ……」
再び呆然となる二人。
「パギャピギャワルルルルル!」
ゼドンの前に立った白い竜は再び咆哮を上げた。
「な、なんだあの白い竜は!」
「ん?この魔力……。これは……。ははは、そうか。なあベルク……。魔力を探ってみろ。信じがたいことが起こったみたいだぞ」
ハンスがベルクリットの肩を叩きそう言った。
「魔力?わかった。…………な、なんだと!」
目を見開き震えるベルクリット。
「ハンス、どういうことなんだ?」
「わからん。わからんが姫様とコースケの魔力を感じるということは、そういうことなんだろうな」
「二人が一心同体になったのか……?しんじられん」
その時白い竜が首だけをベルクリットたちに向けた。
『ベルクリット団長』
「な、なんだ!こ、この声は……コースケ……」
『はい。今からゼドンと戦います。もうしわけありませんが全軍後退していただけますか』
「ゼドンと……?わ、わかった直ちに後退する。それにしてもその姿はどうしたんだ?いや、今はやめておこう。後でちゃんと話してもらうからな」
『はい。きちんとお話します』
そう言うと白い竜は再びゼドンを睨む。
「ハンス。聞こえただろ。希望が持ててきたぞ」
「ああ。なんとか、なんとかなるかもしれんな」
「ああ」
白い竜はゼドンの前に立っているがまだ動きはない。目の前のゼドンをじっと睨んでいるだけだ。
「ハンス、後退するぞ」
「わかった」
ベルクリットは後ろを向くと大音声で叫んだ。
「白竜軍、全軍直ちに後退せよ!白い竜の邪魔になる!急げ!」
白竜軍は直ちに後退に入った。さっきの光でけが人はほぼおらず無事な者は急いで後退する。そしてゼドンに殺された者の遺体も全員で運んでいったのだった。
「コースケ、あとは頼む!」
最後にベルクリットとハンスはゼドンに対峙している白い竜に敬礼をして急いで後退した。
「うっ、くそっ。ふう。ようやく目が元に戻った」
ゼドンは白い光で焼かれた網膜をようやく再生させた。
「だが俺の再生能力を使ってもこれだけの時間がかかってしまうとは。……ん?なんだ貴様は?」
首を振り見えるようになった目をしばたたかせるとようやく目の前に奇妙な竜がいるのに気が付いた。
『気が付くのが遅いなお前』
「何者だ貴様は?」
目の前にいたのは純白の炎のような魔力を放っている竜だった。何物にも侵されない純白の鱗。額の両側には水晶のように輝く二本のツノ。そしてその後ろには後方に流れる三本のツノ。瞳は黒くその胸には黄金に輝く人竜球、そして背中には翼がふわりと開いていた。まぎれもなく竜だった。
「白い竜?だが目は黒い……。まあそんなことはどうでもいい。貴様かさっきの光は?」
『ああ。やはりあの光の波動はお前には少しきつかったようだな』
白い竜はゼドンを見上げるとニやりとする。
「許さん」
ゼドンは掌を白い竜に向けると魔力球を放った。
だが白い竜はそれに向けて瞬時に白いブレスを吐く。それは魔力球を相殺するとそれを放ったゼドンの掌に命中した。
「うがっ!うぐぐぐぐ!」
ゼドンの右腕はブレスにより肘から先が砕け散った。
そこからは鮮血ではなく黒い靄が噴き出しボタボタと地面に落ちていく。
『どうだ俺のブレスは?なかなかのもんだろ』
右腕を抱えて苦悶するゼドンを見てやはりニヤリとする白い竜。
「き、貴様!何者だ!この俺の腕をいとも簡単に砕くとは!」
『俺か?聞いて驚け。俺はただの白い竜だよ。ただ異世界人と竜の姫、そして竜の神様が一人になった無二の竜だけどな』
「き、貴様……。貴様はいったい誰だ!?」
牙を軋ませながら白い竜を睨む。
『誰?…もうわかってるんだろ?そうだよ俺はさっきお前が黒い靄に閉じ込めた人族。そして竜の姫はここ白竜城の王女シオンベール。そして……』
そう告げると白い竜の声質が変わった。
『そう、ボクは10万年前当時の世界を守るためお前と戦って敗れ消滅させられた白竜神の子。名を’白竜神ユリアル’。お前をこの世から消滅させるためこの二人の力を借りて穏やかな世界を取り戻しに来た』
白竜神ユリアルは怒りの目をゼドンに向ける。
「ぐ……、ぐわははははははははは!愉快だ、実に愉快だ。あの時の竜の子か。ぐわはははは!俺を消滅させるだと。うくくくく。……返り討ちにするだけのこと。さあ、貴様も滅してやる」
そういうとゼドンの身体に黒い靄がまとわりつき砕けた右腕を再生させた。
『(コースケ、あとは頼んだよ。ボクの力は全部使ってもいいからね)』
『(わかったユリアル。シオン、シオンも俺に力を貸してくれ)』
『(はい。私の力、存分にお使いください)』
そう言うと白い竜の光の炎が吹きあがった。そして一気に収縮するとそのシルエットは人型となった。
黒い髪に黒い瞳。見た目は功助だが額には水晶のような二本のツノ、胸の真ん中には黄金の輝きを放つ人竜球があった。そして背中には白く大きな竜の翼があった。
その身体の周囲にはバチバチと魔力が弾け白い炎が渦を巻く。
「行くぞゼドン!」
功助は構えを取るとゼドン目掛け跳んだ。そしてゼドンの横っ腹に蹴りを放つ。
「うがっ!」
吹っ飛び地面に激突すると土煙を挙げてめり込んだ。すぐに起き上がるが目の前には功助が右の拳を構えていた。
「おらっ!」
その拳はゼドンの顔面にぶち当たる寸前、掌で受け止められた。
「貴様、図に乗るなよ!」
今度はゼドンの左の拳が功助の右頬を直撃する。吹っ飛びゴロゴロと地面を転がるが何もなかったようにすっくと立ちあがった。
「まあまあ痛かったかな」
と自分の頬を摩る。
「ふざけるな!」
ゼドンは身体の周囲に小さな黒い靄を作り出しそれをマシンガンのように功助に撃ち放つ。
カカカカカカカカカ!
功助は目の前に半透明な光の障壁を張ると黒い靄弾をすべて跳ね返した。
「俺もおんなじようなのを出せるぞ」
功助は十本の指先をゼドンに向けるとその先から光の弾を撃ちだした。
ズババババババババ!
「うおっ!なんという力だ!」
カカカカカカカカカカッ!
ゼドンも同じように障壁を張る。
「ふふふ」
魔力弾を止めると構えをとる功助。
「くくく」
ゼドンも構えをとると地を蹴った」
「覚悟しろ!」
ゼドンは功助の間合いに入ると拳を連打してきた。
「うわっ!く、くそっ!おわっ!てぃや!おらおらおらおらおら!」
「うぐっ!おがっ!どああああ!」
二人は徒手空拳で戦う。その衝撃波は何百メートルも離れている白竜軍のところまで伝わる。
「なんて衝撃波だ。これほど離れているのに地面が震えてる」
ベルクリットは二人の戦いをじっと見ている。
「そうだな。凄まじい。この演習場がいつまでもつのか」
とハンスは周囲をキョロキョロする。
「あれはあたしたちの踏み入れられる次元を遥かに超えてるわね。ほんっと凄いとしか言いようがないわよ」
シャリーナは衝撃波で起こっている風に白銀の髪をなびかせながら功助とゼドンの戦いを見ている。
「ほんとにすごいですコースケ様。姫様と白竜神様の力を借りてあんなにお強くなられて…」
ミュゼリアは衝撃波に吹き飛ばされないようベルクリットの腕にしがみつきわが主功助を見ている。
「ぎゃっ!どどどどうしよう」
「た、立っておれぬわ」
「きゃっ。地面がわたくしの言うことを聞いてくれません」
「うわわわ、こけるこけるこける!あでっ、舌噛んひゃった」
見習い四人娘は衝撃波ですっころんでいた。
功助とゼドンは視認できないほどの速さで撃ちあい蹴りあい、そして魔法を駆使し相手に攻撃している。
しかしお互い決定打が出ずこの演習場をあちこち移動しながら戦っている。その姿は並みの魔力を持っている者には見切れず当然見習い四人娘たちにはまったく見えていない。
「ダーリン、頑張って」
銀の瞳が戦う功助を見つめる。
『うん。簡単なことだよ。今コースケは顔だけを出している状態だから、直接魔力を与えればいいよ。そう、口移しでね』
それを聞いた瞬間、シオンベールの顔が一気に真っ赤になった。
「コ、ココココココースケ様に……、コースケ様に口移し……」
真っ赤な頬を両手で挟み身体をくねらせるシオンベール。
「わ、わかりました……。コココースケ様にわたわたわたくしの魔力をくくくく、コホン。口移しでお渡しいたします」
真っ赤な顔だが少しニヤけるシオンベール。わかりましたと言ったあとで’えへへ’と呟いたのは誰にも聞こえなかった。
「な、なんか腹立つわ!ダーリンの口づけはあたしが先にしたかったのにぃ」
と落ちていた小さな石ころを蹴り飛ばすシャリーナ。少し頬をふくらませていた。
「まあまあ」
ミュゼリアがすかさずシャリーナの背中をポンポンとやさしく叩いた。
「……ミュゼちゃん……くすん」
ミュゼリアの肩におでこを付けるシャリーナ。
『さあシオンベール。早く魔力をあげて」
「は、はい。わかりました」
シオンベールは功助の顔の横に正座するとその苦悶に歪む顔を見つめた。
「……シオン……」
薄っすらと目を開けてシオンベールを見る功助。
「コースケ様。今お助けいたします。私の体内に巡るコースケ様にいただいた魔力。そしてコースケ様への想いを込めた私の魔力。そしてシャリーナ隊長とミュゼリア、そしてかわいらしい見習い魔法師たちの思いを込めた魔力を受け取ってください」
シオンベールは功助の頬を両手で包み込むとゆっくりと顔を近づけていった。そっと瞳を閉じシオンベールの桜色の小さな唇が功助の唇に近づく。そしてその距離がなくなり二人の唇はそっと重なった。
シオンベールは体内に巡る光の魔力をゆっくりとゆっくりと功助の口の中に流していった。
「あっ!姫様とコースケ様が薄っすらと光ってきています」
驚くミュゼリア。
「だんだん輝きが強くなってきているようだわ……」
とシャリーナ。
『今だ!シオンベール!コースケ!ボクとともにゼドンを滅して!』
白竜神はそう叫ぶとシオンベールとコースケの頭上に浮かんだ。
『融合!』
白竜神がそう叫ぶとその輝きが一気に強くなりまるで爆発するように信じられないほどの強い光を放った。
「きゃっ、まぶしい!」
ミュゼリアが両手で目を隠す。
「でも……なんか優しい光よねこれ」
シャリーナは薄っすらと目を開けて微笑む。
「うわあ、なんか気持ちいい」
とモーザ。
「ほんとじゃ。なんか癒されるのう」
とフランサ。
「むむむむむ!なんか力も湧いてきたみたい!ふん!」
とイリスは肘を曲げて力こぶを作る。
「う、うぅ……。あれ?ここは……」
魔力切れを起こしていたメリアがパッチリと目を開き起き上がった。
「あっ、光が……!」
「だんだん収まっていく」
とミュゼリアとシャリーナ。
二人と一匹を飲み込んだ光が徐々に収まっていった。
そして、そこにいたのは……、燃え上がる炎のような純白の光の魔力を放つ一頭の竜だった。
「だ、誰…あれ?」
シャリーナが呆然とその竜を見つめた。
「さっきまで姫様とコースケ様がおられたはずですが……」
ミュゼリアも唖然としている。
「ほえぇ」
見習い魔法師たちも突っ立ったままその白い竜を見つめた。
身の丈は3メートルに届くかどうかだがその威圧と存在感はゼドンの比ではないほどだ。純白の竜はシャリーナたちを見下ろすと一声鳴いた。
「パギャルルルルル!」
少し気の抜けた咆哮だった。
「あれって、姫様の鳴き声よねミュゼちゃん」
「は、はい、そうみたいです。今’行ってくる’とおっしゃいました。でも、鳴き声、ちょっとアレンジかかってますよね。瞳は黒いし胸には金色の人竜球があるし、そして額の水晶のようなツノがあんなに立派に……。やっぱりあれはコースケ様と姫様、そして白竜神様のお姿のようです」
見上げる二人。
「パギャピギャルルルルル!」
その竜は戦場に顔を向けると翼を広げて音もなく宙に浮かび瞬時に白竜軍とゼドンの間に着陸した。
「は、早い!」
「あたし見えなかった。浮かんだかと思ったら一瞬であんな遠いところまで……。たぶん、時空属性の瞬間移動だと思うけど……。すごいわ……」
再び呆然となる二人。
「パギャピギャワルルルルル!」
ゼドンの前に立った白い竜は再び咆哮を上げた。
「な、なんだあの白い竜は!」
「ん?この魔力……。これは……。ははは、そうか。なあベルク……。魔力を探ってみろ。信じがたいことが起こったみたいだぞ」
ハンスがベルクリットの肩を叩きそう言った。
「魔力?わかった。…………な、なんだと!」
目を見開き震えるベルクリット。
「ハンス、どういうことなんだ?」
「わからん。わからんが姫様とコースケの魔力を感じるということは、そういうことなんだろうな」
「二人が一心同体になったのか……?しんじられん」
その時白い竜が首だけをベルクリットたちに向けた。
『ベルクリット団長』
「な、なんだ!こ、この声は……コースケ……」
『はい。今からゼドンと戦います。もうしわけありませんが全軍後退していただけますか』
「ゼドンと……?わ、わかった直ちに後退する。それにしてもその姿はどうしたんだ?いや、今はやめておこう。後でちゃんと話してもらうからな」
『はい。きちんとお話します』
そう言うと白い竜は再びゼドンを睨む。
「ハンス。聞こえただろ。希望が持ててきたぞ」
「ああ。なんとか、なんとかなるかもしれんな」
「ああ」
白い竜はゼドンの前に立っているがまだ動きはない。目の前のゼドンをじっと睨んでいるだけだ。
「ハンス、後退するぞ」
「わかった」
ベルクリットは後ろを向くと大音声で叫んだ。
「白竜軍、全軍直ちに後退せよ!白い竜の邪魔になる!急げ!」
白竜軍は直ちに後退に入った。さっきの光でけが人はほぼおらず無事な者は急いで後退する。そしてゼドンに殺された者の遺体も全員で運んでいったのだった。
「コースケ、あとは頼む!」
最後にベルクリットとハンスはゼドンに対峙している白い竜に敬礼をして急いで後退した。
「うっ、くそっ。ふう。ようやく目が元に戻った」
ゼドンは白い光で焼かれた網膜をようやく再生させた。
「だが俺の再生能力を使ってもこれだけの時間がかかってしまうとは。……ん?なんだ貴様は?」
首を振り見えるようになった目をしばたたかせるとようやく目の前に奇妙な竜がいるのに気が付いた。
『気が付くのが遅いなお前』
「何者だ貴様は?」
目の前にいたのは純白の炎のような魔力を放っている竜だった。何物にも侵されない純白の鱗。額の両側には水晶のように輝く二本のツノ。そしてその後ろには後方に流れる三本のツノ。瞳は黒くその胸には黄金に輝く人竜球、そして背中には翼がふわりと開いていた。まぎれもなく竜だった。
「白い竜?だが目は黒い……。まあそんなことはどうでもいい。貴様かさっきの光は?」
『ああ。やはりあの光の波動はお前には少しきつかったようだな』
白い竜はゼドンを見上げるとニやりとする。
「許さん」
ゼドンは掌を白い竜に向けると魔力球を放った。
だが白い竜はそれに向けて瞬時に白いブレスを吐く。それは魔力球を相殺するとそれを放ったゼドンの掌に命中した。
「うがっ!うぐぐぐぐ!」
ゼドンの右腕はブレスにより肘から先が砕け散った。
そこからは鮮血ではなく黒い靄が噴き出しボタボタと地面に落ちていく。
『どうだ俺のブレスは?なかなかのもんだろ』
右腕を抱えて苦悶するゼドンを見てやはりニヤリとする白い竜。
「き、貴様!何者だ!この俺の腕をいとも簡単に砕くとは!」
『俺か?聞いて驚け。俺はただの白い竜だよ。ただ異世界人と竜の姫、そして竜の神様が一人になった無二の竜だけどな』
「き、貴様……。貴様はいったい誰だ!?」
牙を軋ませながら白い竜を睨む。
『誰?…もうわかってるんだろ?そうだよ俺はさっきお前が黒い靄に閉じ込めた人族。そして竜の姫はここ白竜城の王女シオンベール。そして……』
そう告げると白い竜の声質が変わった。
『そう、ボクは10万年前当時の世界を守るためお前と戦って敗れ消滅させられた白竜神の子。名を’白竜神ユリアル’。お前をこの世から消滅させるためこの二人の力を借りて穏やかな世界を取り戻しに来た』
白竜神ユリアルは怒りの目をゼドンに向ける。
「ぐ……、ぐわははははははははは!愉快だ、実に愉快だ。あの時の竜の子か。ぐわはははは!俺を消滅させるだと。うくくくく。……返り討ちにするだけのこと。さあ、貴様も滅してやる」
そういうとゼドンの身体に黒い靄がまとわりつき砕けた右腕を再生させた。
『(コースケ、あとは頼んだよ。ボクの力は全部使ってもいいからね)』
『(わかったユリアル。シオン、シオンも俺に力を貸してくれ)』
『(はい。私の力、存分にお使いください)』
そう言うと白い竜の光の炎が吹きあがった。そして一気に収縮するとそのシルエットは人型となった。
黒い髪に黒い瞳。見た目は功助だが額には水晶のような二本のツノ、胸の真ん中には黄金の輝きを放つ人竜球があった。そして背中には白く大きな竜の翼があった。
その身体の周囲にはバチバチと魔力が弾け白い炎が渦を巻く。
「行くぞゼドン!」
功助は構えを取るとゼドン目掛け跳んだ。そしてゼドンの横っ腹に蹴りを放つ。
「うがっ!」
吹っ飛び地面に激突すると土煙を挙げてめり込んだ。すぐに起き上がるが目の前には功助が右の拳を構えていた。
「おらっ!」
その拳はゼドンの顔面にぶち当たる寸前、掌で受け止められた。
「貴様、図に乗るなよ!」
今度はゼドンの左の拳が功助の右頬を直撃する。吹っ飛びゴロゴロと地面を転がるが何もなかったようにすっくと立ちあがった。
「まあまあ痛かったかな」
と自分の頬を摩る。
「ふざけるな!」
ゼドンは身体の周囲に小さな黒い靄を作り出しそれをマシンガンのように功助に撃ち放つ。
カカカカカカカカカ!
功助は目の前に半透明な光の障壁を張ると黒い靄弾をすべて跳ね返した。
「俺もおんなじようなのを出せるぞ」
功助は十本の指先をゼドンに向けるとその先から光の弾を撃ちだした。
ズババババババババ!
「うおっ!なんという力だ!」
カカカカカカカカカカッ!
ゼドンも同じように障壁を張る。
「ふふふ」
魔力弾を止めると構えをとる功助。
「くくく」
ゼドンも構えをとると地を蹴った」
「覚悟しろ!」
ゼドンは功助の間合いに入ると拳を連打してきた。
「うわっ!く、くそっ!おわっ!てぃや!おらおらおらおらおら!」
「うぐっ!おがっ!どああああ!」
二人は徒手空拳で戦う。その衝撃波は何百メートルも離れている白竜軍のところまで伝わる。
「なんて衝撃波だ。これほど離れているのに地面が震えてる」
ベルクリットは二人の戦いをじっと見ている。
「そうだな。凄まじい。この演習場がいつまでもつのか」
とハンスは周囲をキョロキョロする。
「あれはあたしたちの踏み入れられる次元を遥かに超えてるわね。ほんっと凄いとしか言いようがないわよ」
シャリーナは衝撃波で起こっている風に白銀の髪をなびかせながら功助とゼドンの戦いを見ている。
「ほんとにすごいですコースケ様。姫様と白竜神様の力を借りてあんなにお強くなられて…」
ミュゼリアは衝撃波に吹き飛ばされないようベルクリットの腕にしがみつきわが主功助を見ている。
「ぎゃっ!どどどどうしよう」
「た、立っておれぬわ」
「きゃっ。地面がわたくしの言うことを聞いてくれません」
「うわわわ、こけるこけるこける!あでっ、舌噛んひゃった」
見習い四人娘は衝撃波ですっころんでいた。
功助とゼドンは視認できないほどの速さで撃ちあい蹴りあい、そして魔法を駆使し相手に攻撃している。
しかしお互い決定打が出ずこの演習場をあちこち移動しながら戦っている。その姿は並みの魔力を持っている者には見切れず当然見習い四人娘たちにはまったく見えていない。
「ダーリン、頑張って」
銀の瞳が戦う功助を見つめる。
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彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
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彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
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