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第7章 魔王
08 怒りの功助
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ゼドンは功助に右拳を叩き込む。が、功助はそれを軽く手で払いお返しに右拳をぶつける。だがこちらも少し身体をそらし空を切らせた。
功助が右拳を引いたその隙にゼドンは後方へ大きく跳躍。功助との距離をとった。
「これならどうだ!?」
ゼドンは身体の周囲に竜巻を生み出すと同時に口から不気味な黒い靄を吐き出す。その靄を取り込んだ竜巻を功助目掛け放ったのだった。
「こんなものが効くとでも思ってるのか?」
腕を一振りすると迫りくる竜巻は暗い空に霧散した。
「やはりこんな子供だましは効かぬか。ならば!」
地を蹴ると恐ろしい形相で功助の間合いに入るゼドン。だが功助はカウンターで拳をゼドンの顔目掛け振りぬいた。だが、
「な、なんで!」
功助の拳はゼドンの顔をすり抜けた。
「あがっ!」
そして功助の側頭部を強い衝撃が襲う。目の前から消えたゼドンがなんと真横から拳を叩き込んだのだった。
地面をえぐりながら真横に吹っ飛ぶ功助。
「うっ…。うぐわっ!」
ようやく止まると先回りしていたゼドンが功助の頭を蹴り上げ空高く舞い上がらせた。そしてゼドンも跳躍するといまだ勢いよく上昇する功助に追いつき再びその身体を地面に向けて蹴った。
「あがっ!ゲホゲホ……」
勢いよく地面に激突した功助。大きなクレーターを作った。
「どわっ!」
間髪入れず今度は横っ腹に魔力球を撃ちこまれ吹っ飛ばされた。
数十メートル跳ばされゴロゴロ転がるとようやく止まる。
「く、くそっ!はあはあ、ううぅっ、はあはあはあ……、ケホッ」
吐いた血でむせる功助。
『コースケ様!大丈夫ですか!』
『大丈夫コースケ!』
シオンベールとユリアルが心配そうにしている。
『あ、ああ。大丈夫だ、大丈夫だけど少し痛いかな』
『コースケ様、それは大丈夫じゃないってことです!』
『ははは。…かもな』
その時、
『コースケ、いい加減にしてよ!』
とユリアルが怒声を飛ばす。
『ボクの力を使ってって言ったよね。なんで使わないの?』
『そうです。私の力も存分に使ってくださいと申し上げたのに!』
『……あ、うん。ははは、わかった?』
『『そりゃわかるでしょ!』』
と二人が怒声をあげた。
『ごめん。今からは存分に使うから』
『『そうしてください』』
少しうめき声をあげながらうつ伏せになるとゆっくりと身体を起こし四つん這いになった。
「けほっ…、はあはあ……」
前を見るとうれしそうに笑うゼドンが立っていた。
「おらっ!弾けろ!」
ゼドンは功助の顔面に渾身の蹴りを見舞う。
ガキッ!
まるで金属同士がぶち当たったような音が響いた。
「なんだと!」
「悪かったな止めてしまって」
功助は左手でゼドンの足首をガシッとつかみ止めた。そして空いた右手にユリアルの光の魔力を込めるとゼドンの膝にその手刀を叩きつけた。
「お返しだ!」
「うぐわあああああ!」
バキッという音とともにゼドンの右足は膝が逆に曲がった。そして下腿が膝からちぎれた。
たまらず大きく後方に跳ぶゼドン。右足からボタボタと黒い血が地面に落ち黒い水たまりを作った。
黒い靄が足の切断面に集まり傷を治癒させようとしているがなかなか治癒できない。
「くそっ!なぜだ!なぜ治癒できん!」
痛む足を抑えるゼドン。
「教えてやろう」
功助は左手にゼドンのちぎれた下腿を持ち立ち上がった。
「白竜神ユリアルの光の魔力のせいだ。お前たち魔族を滅するための光の魔力。ユリアル一人じゃここまでの威力はないけど俺と竜の姫の力を合わせると究極の光の魔力となる。だからもうお前には勝ち目は無い。こんなふうにな」
功助は握ったゼドンの下腿を前に突き出すと手に光の魔力を集中させた。
「な、なんと!」
ゼドンの下腿は光に包まれると黒い煙をあげながら消滅した。
「それとそのお前の足の傷。もう治らないぞ。血は止まるだろうがもう再生はしない」
「ぬぬぬぬぬぬ!ぬわんだとおおおおお!」
身体から黒い靄を噴き上げるとゼドンは宙に浮き功助目掛け跳んだ。だが功助は冷静に胸の前で腕をクロスさせるとその腕を真横に開いた。
「くらえシオンの怒りのブレスだ!」
竜の姫シオンベールの青白い灼熱のブレスが胸の人竜球から放たれた。
そのブレスに頭から突っ込むゼドン。
「うぐおわああああああ!」
ブレスの凄まじい炎に押し返され地面をえぐりながら吹き飛ぶゼドン。
「フログス親子を狂わせ、フェンリルを使いシオンの人竜球を壊しその命を脅かし、ミュゼにまで魔の手をかけたこと、俺は絶対に許さない」
うつ伏せで体中から黒い煙をあげるゼドンを見下ろす功助の目は冷血だった。
「ぐ…、うぐっ……。くそっ……」
起き上がろうとするも功助はゼドンの横っ腹に一発蹴りを入れる。
「フログス子爵の分だ!」
「うわがっ!」
再び吹き飛び地面に大穴を開ける。
「さあ、最期の時だ。完全に消滅させてやる!」
功助は両腕をゼドンに向けると己の体内魔力とシオンベールの黄金の魔力、そしてユリアルの純白の光の魔力をその拳に注ぎ込む。
そして光の球となった魔力の塊を放とうとしたその時。
「なんだっ!俺の腕が!」「な、何?あたしのお腹から!あっうぐわっ!」「俺の足ぃぃぃぃ!」「な、何これ!私の胸が!」
白竜軍の方から叫び声が聞こえてきた。
「なんだ?!」
功助が思わず白竜軍を見るとその半分ほどの者たちが叫び苦しんでいた。
指先から黒く変色していき煙を出して消失している腕を抑える兵士、ローブを突き破り腹から出てきた黒い靄に絶叫する魔法師、いきなり両足が破裂し倒れる騎士、そして急激に膨張した胸に押しつぶされそうになっている女性兵士。
「なっ……!……お、お前のしわざか!」
放つ寸前だったコースケ砲を霧散させてしまい苦しむ白竜軍を見てゼドンを睨む功助。
「ああ。だがあまり効いてないヤツもいるようだが。かなりの魔力を持っているようだな。くくく」
うれしそうに笑うゼドン。
ゼドンのいうとおり白竜軍の中にはあまり症状がでていない者もいた。
シャリーナとミュゼリアはふらふらとなり蒼白で、ラナーシアとベルクリットとハンスはひざまづき嘔吐している程度だ。
「も、……もしかしてさっきの竜巻、あの黒い靄……!」
「おお、察しがいいな。そのとおりだ。貴様が拡散してくれたおかげだ。感謝する。ぐわははははははは!」
高笑いをするゼドン。
「くっ!」
歯噛みする功助。
『な、なんてことを……!どうしたらいいのでしょうユリアル』
功助と融合した二人も憤りを露わにしている。
『きっとボクの白竜の光を浴びればあの黒い靄の呪縛から解き放てると思う』
『ならば今すぐに!』
『でもあいつはそうはさせてくれなさそうだよシオンベール』
ユリアルがそう言った直後ゼドンの両腕から黒い魔力砲が撃ちだされた。
「貴様には何もさせん!」
卑しく笑いながら黒い魔力砲を連発するゼドン。功助は右に左に回避しながら反撃のチャンスを伺うがなかなかその隙が見つからない。
「くそっ!」
防戦一方の功助。その耳には苦しむ白竜軍の苦悶の声が響く。そして、
「えっ!?城からも……」
白竜城からも恐怖におびえる声が聞こえてきたのだった。
「畜生め!」
無限ともいえる数の魔力球を防ぐ功助にあせりの色が見えてきた。その時。
「うがっ!」
ゼドンが吹っ飛んだ。
白竜軍から飛んできた巨大な|風塊》ウインドソリッド》が真横からゼドンを吹き飛ばしたのだった。
「ミュゼ、それにシャリーナさん」
大きく肩で息をしている二人の姿が目に入る。黒い靄の影響で魔力が残り少ないのに二人で援護してくれたのだ。
「ありがとうミュゼ、シャリーナさん」
功助はすぐさま吹き飛ばされたゼドンに向けて両腕を向けた。そして再びシオンベールとユリアル、自分自身の魔力をその拳に集約していく。その拳はまばゆいほどの純白の光を放ち身震いするほどの魔力が渦を巻いている。
「覚悟しろゼドン!」
ようやく起き上がり功助を見たゼドンはその顔に恐怖を貼り付けた。
「な、なんという凄まじさ……。あれほどの魔力……。し、死んでたまるか!」
ゼドンは右手を上下に振り空間に裂け目を生み出すと、よろよろとその中に入ろうとしている。
「させるか!くらえ超コースケ砲!!」
両拳から放たれた純白の光の束が驚愕に目を見開くゼドンに向かい直進した。そして空間の裂け目とともにゼドンを超コースケ砲が呑み込む。
「……!!」
ゼドンは断末魔の声をあげることもできず身体は神聖なる光の束に呑み込まれた。薄れゆく意識の中徐々に蒸発し焼死していく己の身体に恐怖を感じながらゼドンの魔の身体は蒸発したのだった。
そしてそこには、一対のヒツジのようなツノが転がっていた。
「ユリアルやったぞ!ゼドンを滅したぞ!」
ゼドンを滅した光の束は少し白んできている夜明け前の空に吸い込まれていった。
『う、うん。ありがとうコースケ、本当にありがとう。これで、これでボクの母も浮かばれるよ。ほんとうれしいよ』
少し涙声のユリアルはうれしそうだ。
『よかったですねユリアル』
シオンベールも少し涙声だ。
「さあ、今度は白竜軍を、みんなを助けよう。二人とももう少し力を貸してくれ」
『『はい』』
「みんな!大丈夫か!」
後方で待機していた白竜軍に近づくとその光景に功助は歯噛みした。痛みに自分の身体をかきむしる者泡を吹いて痙攣してる者、ただ痛みに耐え涙を流すもの。……阿鼻叫喚が拡がっていた。
「……ダ、ダーリン……。う、うぅ……。も、もうダメかも……。ぐぼっ」
功助は倒れているシャリーナの横にしゃがむとその顔を見る。
「シャリーナさん!」
黒い靄の血のようなものを吐くシャリーナ。その顔は蒼白で、綺麗だった銀色の瞳は濁り功助を見ていても焦点が合っていないようだ。
「コ……、コースケ様……。ご無事で……。げほっ」
その横でミュゼリアも苦悶の表情で黒い靄を嘔吐し全身を痙攣させていた。
「ミュゼ…。俺は大丈夫だ。シャリーナさん、ミュゼ、さっきは援護してくれてありがとう、おかげでゼドンを滅することができたよ。今すぐに助けるからな」
功助は立ち上がると両手を思いっきり開いた。そして額の水晶のようなツノに意識を向ける。そして体内の魔力をそのツノから放射状に解き放った。
白く光る水晶のツノ。そこから放たれた白い浄化の光は倒れている白竜軍全員を包み込む。あちこちから聞こえていた呻き声や叫び声は徐々に聞こえなくなり、そして数分後、その白い光は徐々に薄くなり消えた。
そこには苦痛で苦しむものは誰一人おらず、白竜軍全員が安心しきった顔で眠っていた。
だが一人だけすぐに目を覚ました者がいた。
「あれ?あれれれれれれ?どうなったの?一体どうなったの?」
パッチリと目を覚ましたのはシャリーナだった。
「あっ、ダーリン!」
ピョコンと跳ね起きたシャリーナは目の前で微笑んでいる功助に気づいた。
「よかったシャリーナさん。体調はどう?」
「へ?う、うん。どこも痛くないし苦しくもないし。シャリーナ隊長の体調は言うことなしよ!……あはは」
と自分で言ったことにちょっと恥ずかしさを覚えたようだ。
「ははは。それはよかった。ミュゼも大丈夫みたいだな」
シャリーナの横ですやすやと眠っているミュゼリアを見て再び微笑む功助。
『コースケ、ホッとしてる場合じゃないよ。白竜城の中にも犠牲者がいるんだから』
『そうですコースケ様。早く城の中も浄化しないと』
「あっ、そうだった」
とあわてる功助。
「今の声はもしかして姫様と白竜神様?」
頭の中に直接聞こえてきた声にほんの少し驚くがすぐに冷静になり功助を見る。
「はい。なので今から城の中に行ってきます。白竜軍のことよろしくお願いします」
「わかったわ。城の中のみんなをよろしくねダーリン」
はいと言う言葉とともに功助は白竜城に向かって飛んだ。
功助が右拳を引いたその隙にゼドンは後方へ大きく跳躍。功助との距離をとった。
「これならどうだ!?」
ゼドンは身体の周囲に竜巻を生み出すと同時に口から不気味な黒い靄を吐き出す。その靄を取り込んだ竜巻を功助目掛け放ったのだった。
「こんなものが効くとでも思ってるのか?」
腕を一振りすると迫りくる竜巻は暗い空に霧散した。
「やはりこんな子供だましは効かぬか。ならば!」
地を蹴ると恐ろしい形相で功助の間合いに入るゼドン。だが功助はカウンターで拳をゼドンの顔目掛け振りぬいた。だが、
「な、なんで!」
功助の拳はゼドンの顔をすり抜けた。
「あがっ!」
そして功助の側頭部を強い衝撃が襲う。目の前から消えたゼドンがなんと真横から拳を叩き込んだのだった。
地面をえぐりながら真横に吹っ飛ぶ功助。
「うっ…。うぐわっ!」
ようやく止まると先回りしていたゼドンが功助の頭を蹴り上げ空高く舞い上がらせた。そしてゼドンも跳躍するといまだ勢いよく上昇する功助に追いつき再びその身体を地面に向けて蹴った。
「あがっ!ゲホゲホ……」
勢いよく地面に激突した功助。大きなクレーターを作った。
「どわっ!」
間髪入れず今度は横っ腹に魔力球を撃ちこまれ吹っ飛ばされた。
数十メートル跳ばされゴロゴロ転がるとようやく止まる。
「く、くそっ!はあはあ、ううぅっ、はあはあはあ……、ケホッ」
吐いた血でむせる功助。
『コースケ様!大丈夫ですか!』
『大丈夫コースケ!』
シオンベールとユリアルが心配そうにしている。
『あ、ああ。大丈夫だ、大丈夫だけど少し痛いかな』
『コースケ様、それは大丈夫じゃないってことです!』
『ははは。…かもな』
その時、
『コースケ、いい加減にしてよ!』
とユリアルが怒声を飛ばす。
『ボクの力を使ってって言ったよね。なんで使わないの?』
『そうです。私の力も存分に使ってくださいと申し上げたのに!』
『……あ、うん。ははは、わかった?』
『『そりゃわかるでしょ!』』
と二人が怒声をあげた。
『ごめん。今からは存分に使うから』
『『そうしてください』』
少しうめき声をあげながらうつ伏せになるとゆっくりと身体を起こし四つん這いになった。
「けほっ…、はあはあ……」
前を見るとうれしそうに笑うゼドンが立っていた。
「おらっ!弾けろ!」
ゼドンは功助の顔面に渾身の蹴りを見舞う。
ガキッ!
まるで金属同士がぶち当たったような音が響いた。
「なんだと!」
「悪かったな止めてしまって」
功助は左手でゼドンの足首をガシッとつかみ止めた。そして空いた右手にユリアルの光の魔力を込めるとゼドンの膝にその手刀を叩きつけた。
「お返しだ!」
「うぐわあああああ!」
バキッという音とともにゼドンの右足は膝が逆に曲がった。そして下腿が膝からちぎれた。
たまらず大きく後方に跳ぶゼドン。右足からボタボタと黒い血が地面に落ち黒い水たまりを作った。
黒い靄が足の切断面に集まり傷を治癒させようとしているがなかなか治癒できない。
「くそっ!なぜだ!なぜ治癒できん!」
痛む足を抑えるゼドン。
「教えてやろう」
功助は左手にゼドンのちぎれた下腿を持ち立ち上がった。
「白竜神ユリアルの光の魔力のせいだ。お前たち魔族を滅するための光の魔力。ユリアル一人じゃここまでの威力はないけど俺と竜の姫の力を合わせると究極の光の魔力となる。だからもうお前には勝ち目は無い。こんなふうにな」
功助は握ったゼドンの下腿を前に突き出すと手に光の魔力を集中させた。
「な、なんと!」
ゼドンの下腿は光に包まれると黒い煙をあげながら消滅した。
「それとそのお前の足の傷。もう治らないぞ。血は止まるだろうがもう再生はしない」
「ぬぬぬぬぬぬ!ぬわんだとおおおおお!」
身体から黒い靄を噴き上げるとゼドンは宙に浮き功助目掛け跳んだ。だが功助は冷静に胸の前で腕をクロスさせるとその腕を真横に開いた。
「くらえシオンの怒りのブレスだ!」
竜の姫シオンベールの青白い灼熱のブレスが胸の人竜球から放たれた。
そのブレスに頭から突っ込むゼドン。
「うぐおわああああああ!」
ブレスの凄まじい炎に押し返され地面をえぐりながら吹き飛ぶゼドン。
「フログス親子を狂わせ、フェンリルを使いシオンの人竜球を壊しその命を脅かし、ミュゼにまで魔の手をかけたこと、俺は絶対に許さない」
うつ伏せで体中から黒い煙をあげるゼドンを見下ろす功助の目は冷血だった。
「ぐ…、うぐっ……。くそっ……」
起き上がろうとするも功助はゼドンの横っ腹に一発蹴りを入れる。
「フログス子爵の分だ!」
「うわがっ!」
再び吹き飛び地面に大穴を開ける。
「さあ、最期の時だ。完全に消滅させてやる!」
功助は両腕をゼドンに向けると己の体内魔力とシオンベールの黄金の魔力、そしてユリアルの純白の光の魔力をその拳に注ぎ込む。
そして光の球となった魔力の塊を放とうとしたその時。
「なんだっ!俺の腕が!」「な、何?あたしのお腹から!あっうぐわっ!」「俺の足ぃぃぃぃ!」「な、何これ!私の胸が!」
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「なんだ?!」
功助が思わず白竜軍を見るとその半分ほどの者たちが叫び苦しんでいた。
指先から黒く変色していき煙を出して消失している腕を抑える兵士、ローブを突き破り腹から出てきた黒い靄に絶叫する魔法師、いきなり両足が破裂し倒れる騎士、そして急激に膨張した胸に押しつぶされそうになっている女性兵士。
「なっ……!……お、お前のしわざか!」
放つ寸前だったコースケ砲を霧散させてしまい苦しむ白竜軍を見てゼドンを睨む功助。
「ああ。だがあまり効いてないヤツもいるようだが。かなりの魔力を持っているようだな。くくく」
うれしそうに笑うゼドン。
ゼドンのいうとおり白竜軍の中にはあまり症状がでていない者もいた。
シャリーナとミュゼリアはふらふらとなり蒼白で、ラナーシアとベルクリットとハンスはひざまづき嘔吐している程度だ。
「も、……もしかしてさっきの竜巻、あの黒い靄……!」
「おお、察しがいいな。そのとおりだ。貴様が拡散してくれたおかげだ。感謝する。ぐわははははははは!」
高笑いをするゼドン。
「くっ!」
歯噛みする功助。
『な、なんてことを……!どうしたらいいのでしょうユリアル』
功助と融合した二人も憤りを露わにしている。
『きっとボクの白竜の光を浴びればあの黒い靄の呪縛から解き放てると思う』
『ならば今すぐに!』
『でもあいつはそうはさせてくれなさそうだよシオンベール』
ユリアルがそう言った直後ゼドンの両腕から黒い魔力砲が撃ちだされた。
「貴様には何もさせん!」
卑しく笑いながら黒い魔力砲を連発するゼドン。功助は右に左に回避しながら反撃のチャンスを伺うがなかなかその隙が見つからない。
「くそっ!」
防戦一方の功助。その耳には苦しむ白竜軍の苦悶の声が響く。そして、
「えっ!?城からも……」
白竜城からも恐怖におびえる声が聞こえてきたのだった。
「畜生め!」
無限ともいえる数の魔力球を防ぐ功助にあせりの色が見えてきた。その時。
「うがっ!」
ゼドンが吹っ飛んだ。
白竜軍から飛んできた巨大な|風塊》ウインドソリッド》が真横からゼドンを吹き飛ばしたのだった。
「ミュゼ、それにシャリーナさん」
大きく肩で息をしている二人の姿が目に入る。黒い靄の影響で魔力が残り少ないのに二人で援護してくれたのだ。
「ありがとうミュゼ、シャリーナさん」
功助はすぐさま吹き飛ばされたゼドンに向けて両腕を向けた。そして再びシオンベールとユリアル、自分自身の魔力をその拳に集約していく。その拳はまばゆいほどの純白の光を放ち身震いするほどの魔力が渦を巻いている。
「覚悟しろゼドン!」
ようやく起き上がり功助を見たゼドンはその顔に恐怖を貼り付けた。
「な、なんという凄まじさ……。あれほどの魔力……。し、死んでたまるか!」
ゼドンは右手を上下に振り空間に裂け目を生み出すと、よろよろとその中に入ろうとしている。
「させるか!くらえ超コースケ砲!!」
両拳から放たれた純白の光の束が驚愕に目を見開くゼドンに向かい直進した。そして空間の裂け目とともにゼドンを超コースケ砲が呑み込む。
「……!!」
ゼドンは断末魔の声をあげることもできず身体は神聖なる光の束に呑み込まれた。薄れゆく意識の中徐々に蒸発し焼死していく己の身体に恐怖を感じながらゼドンの魔の身体は蒸発したのだった。
そしてそこには、一対のヒツジのようなツノが転がっていた。
「ユリアルやったぞ!ゼドンを滅したぞ!」
ゼドンを滅した光の束は少し白んできている夜明け前の空に吸い込まれていった。
『う、うん。ありがとうコースケ、本当にありがとう。これで、これでボクの母も浮かばれるよ。ほんとうれしいよ』
少し涙声のユリアルはうれしそうだ。
『よかったですねユリアル』
シオンベールも少し涙声だ。
「さあ、今度は白竜軍を、みんなを助けよう。二人とももう少し力を貸してくれ」
『『はい』』
「みんな!大丈夫か!」
後方で待機していた白竜軍に近づくとその光景に功助は歯噛みした。痛みに自分の身体をかきむしる者泡を吹いて痙攣してる者、ただ痛みに耐え涙を流すもの。……阿鼻叫喚が拡がっていた。
「……ダ、ダーリン……。う、うぅ……。も、もうダメかも……。ぐぼっ」
功助は倒れているシャリーナの横にしゃがむとその顔を見る。
「シャリーナさん!」
黒い靄の血のようなものを吐くシャリーナ。その顔は蒼白で、綺麗だった銀色の瞳は濁り功助を見ていても焦点が合っていないようだ。
「コ……、コースケ様……。ご無事で……。げほっ」
その横でミュゼリアも苦悶の表情で黒い靄を嘔吐し全身を痙攣させていた。
「ミュゼ…。俺は大丈夫だ。シャリーナさん、ミュゼ、さっきは援護してくれてありがとう、おかげでゼドンを滅することができたよ。今すぐに助けるからな」
功助は立ち上がると両手を思いっきり開いた。そして額の水晶のようなツノに意識を向ける。そして体内の魔力をそのツノから放射状に解き放った。
白く光る水晶のツノ。そこから放たれた白い浄化の光は倒れている白竜軍全員を包み込む。あちこちから聞こえていた呻き声や叫び声は徐々に聞こえなくなり、そして数分後、その白い光は徐々に薄くなり消えた。
そこには苦痛で苦しむものは誰一人おらず、白竜軍全員が安心しきった顔で眠っていた。
だが一人だけすぐに目を覚ました者がいた。
「あれ?あれれれれれれ?どうなったの?一体どうなったの?」
パッチリと目を覚ましたのはシャリーナだった。
「あっ、ダーリン!」
ピョコンと跳ね起きたシャリーナは目の前で微笑んでいる功助に気づいた。
「よかったシャリーナさん。体調はどう?」
「へ?う、うん。どこも痛くないし苦しくもないし。シャリーナ隊長の体調は言うことなしよ!……あはは」
と自分で言ったことにちょっと恥ずかしさを覚えたようだ。
「ははは。それはよかった。ミュゼも大丈夫みたいだな」
シャリーナの横ですやすやと眠っているミュゼリアを見て再び微笑む功助。
『コースケ、ホッとしてる場合じゃないよ。白竜城の中にも犠牲者がいるんだから』
『そうですコースケ様。早く城の中も浄化しないと』
「あっ、そうだった」
とあわてる功助。
「今の声はもしかして姫様と白竜神様?」
頭の中に直接聞こえてきた声にほんの少し驚くがすぐに冷静になり功助を見る。
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はいと言う言葉とともに功助は白竜城に向かって飛んだ。
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「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
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