異世界人と竜の姫

アデュスタム

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第9章 最終章 異世界人と竜の姫

02 宣戦布告

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・・・100日目・・・

 雲一つない真っ青な空が広がる今日。とうとう功助が元の世界に帰還できる日がきた。
「コースケ様、おはようございます」
 部屋に入ってきたミュゼリアはどことなく元気がない。
「おはようミュゼ」
 功助はいつもと同じ様子でミュゼリアの用意する朝食を食べる。
「すごいなあれ」
 功助は窓辺に立つと演習場に描かれた巨大な魔法陣をみて感嘆する。
「そうですね。日の出直後には描かれてなかったですけど、こんなに短時間で描くことができるだなんて、やっぱりユリアル様は白竜神なのですね」
 と微小するミュゼリア。
「ミュゼ」
「はい」
「こんな俺にいろいろ仕えてくれてありがとう」
「コースケ様……。私に礼など不必要です。私、コースケ様にお仕えできて感謝しております。私を専属侍女にしていただきありがとうございました」
 と深々と侍女の礼をするミュゼリア。
「……ミュゼ」
「はい……」
 顔を上げ少し潤んだ目で功助を見つめる。
「ありがとう」
 と言って微笑んだ。
「あのさミュゼ」
「はい」
「ミュゼにたのみたいことがあるんだけど。それと謝らないといけないことも……」

魔法師隊控室。
 シャリーナはテーブルに肘をつきその掌の間に顎を置いて窓越しに青空をぼんやり眺めている。
  コンコンコン。
 ドアを軽く叩き入ってきたのはラナーシアだった。
「隊長。続々と演習場にコースケ隊長を見送る人たちが集まってきています」
「……そう……」
 青い空を見上げたまま返事するシャリーナ。
「隊長……、あの……」
「さ、行くわよ。大勢の人をまとめないとね」
 ラナーシアが何か言う前にシャリーナはサッと立つとドアに向かう。ラナーシアに背を向けたまま。

「こちらです!こちらでお待ちください!」
 青の騎士団と緑の騎士団は、功助を見送るため白竜城に登城してきた人たちを大声で演習場に案内する。
 続々と集まってくる人たち。功助が出会った人たちばかりだ。
 岬のカモメ亭のお上マギーと店員のコネット。中央公園前の屋台のおばちゃんやおっちゃんたち。先日の大災害で救助された人々。
 城内でボール遊びをしていた子供たちと親たち。第一と第二食堂のウエイトレスやウエイター。それに奴隷やなんと遊女まで登城してきたのだ。
「こうしてみるとコースケって、けっこういろんな人と関わってるんだな。城内の者たちはわかるが、あそこにいるのは娼館の女たちじゃないか?」
「そうだな。こっちの世界に来て三ヶ月ちょっとだがいろんな人たちと関わってきたようだ。それに、みんなコースケを慕ってるようだしな。団員もはりきって動いてくれてるがみんななんとも言えない寂しさを纏ってるのがわかったぞ。……ってそんなことよりお前なんであそこにいるのが娼館の女たちだって知ってるんだ?」
「まあ、気にするな。それより、……そうか。みんな寂しいんだろうな。まあ、俺もそうだ。ベルク、お前もだろ?」
「ああ。俺とミュゼリアを導いてくれたのはコースケだ。感謝してもしきれん。……ああいうとこで遊ぶのはほどほどにしとけよ。ミュゼリアにばれたら大変だからな」
「そうだな、まあ、控えるさ。しかし……、コースケがいなくなると……寂しくなるな」
「ああ、そうだな……」
 青の騎士団団長と副団長はどんどん集まってくる人たちを見て小さく会話する。

「こちらでしゅ!こちらに来てくだしゃい!」
「イリス噛みすぎ」
「あ、ごめんモーザ。こちらですよぉ!」
「イリスもモーザも相変わらずじゃのう」
「そうですわね。でもフランサ」
「なんじゃ?」
「本当にコースケ隊長は元の世界にお還りになるのでしょうか?ずっとこちらの世界にいていただきたいですわわたくし」
「そうじゃな。我もメリアと同じ気持ちじゃ。あのように素晴らしいお方はいないじゃろうな」
 魔法師隊見習い四人娘は寂しい気持ちを抱えながら見送りの人たちを案内する。

「けっこう多いな」
「はい。コーちゃんの人となりがわかりますね」
 白竜城の主塔、最上階から下を見ているのは国王トパークスと王妃ルルサだ。その横にはバスティーアも控えている。
「バスティーア」
「はい、陛下」
「シオンはどうしてる?」
「はい。ライラ副侍女長によりますと、無理やり笑顔をお作りになってるご様子だそうです。他の侍女たちにも気丈にふるまっておられるようです」
「それはそうよねえ。コーちゃんがいなくなってしまうんですもの。あたしも寂しいわよ。せっかくシオンにいい人ができたっていうのにね。ね、あなた。あなたも例の姿がばれてしまわれて気楽に話ができなくなったって寂しそうでしたものね」
「あ、ああ。ほんとにな。あの時バスティーアが来なければ……」
「はい?何かおっしゃいましたか陛下」
 と柔和な笑顔でトパークスに向かい首を傾げる家令。
「い、いや。なんでもない」
 とバスティーアから視線をはずし演習場に顔を戻した。

「皆さん!そろそろ移動します!魔法陣の中に集まってくださーい!」
 ハンスが拡がって待っている人たちに移動の魔法陣の中に入るように促した。
「よし。全員魔法陣の中に入ったな。それじゃ俺とシャリーナ魔法師隊隊長以外の者も魔法陣の中に入れ!ハンス頼んだぞ」
 とベルクリットが命令する。
「そろそろいいみたいだね」
 ベルクリットの後ろからトコトコ歩いてきたのはユリアルだった。
「はっ!白竜神様!ご命令通りにいたしました。準備完了です!」
 ベルクリットが左胸に右拳を充てて敬礼した。
「うん。わかった。それじゃ転移させるね」
 ユリアルは身体を白く輝かせるとその輝きは大きくなりやがて通常の竜程度の大きさに変じた。
『それじゃ転移するよ』
「ギャワオゥゥゥゥゥ!」
 ユリアルは一声雄たけびをあげると一瞬にして目の前にいた大勢の人たちがかき消えたのだった。
「うっわあ、すっごいわねえ。あれだけの人数を一瞬にして転移させるだなんて……。やっぱりユッちゃんは白竜神なのねえ」
 とすでに小さく元に戻ったユリアルの頭をなでるシャリーナ。
「えへへ」
 と恥ずかしそうに、だが胸をそっくり返すユリアルだった。

「ほう。主塔から転移を見ていた国王トパークスは感嘆した。
「さすがは白竜神様ってとこか。見た目は幼いのだがな」
 と苦笑する。
「さてバスティーアよ、残った皆を転移門に集めるのだ」
「はい」
 バスティーアはうやうやしく礼をするとドアに向かった。

 ここは主塔の六階にある国宝の転移門の部屋だ。
 これから功助がこの世界に着いたカガール平原に転移するのだ。
 集まった者は、国王トパークスと王妃ルルサ。そして青の騎士団ベルクリット、魔法師隊からは隊長のシャリーナが、金の騎士と銀の騎士それぞれ三人。そして功助専属侍女ミュゼリア。王女シオンベールとその腕に抱かれた白竜神ユリアル。そして黒いマントを付けた功助の計十三人と一匹がその転移門の魔法陣の上に乗っている。
「転移!」
 トパークスが合図をすると魔法陣が白く輝いた。数秒輝き瞬時に光が消えると、その魔法陣の上には誰もいなくなった。

 光がおさまると目の前には大勢の人たちが突然現れた一行に驚いている。
「あれが例の白き四本の牙か?」
 地面から生えている白く輝く四本の牙。そしてその周囲にお供え物の品が飾られている。
 そして間もなく、異世界間転移儀式が開始された。

「ミュゼ、これを頼む」
「はい。承知いたしました」
 ミュゼリアが受け取ったのはスマホだった。
『ミュゼちゃん、よろしくね』
『ごめんなさいねミュゼちゃん』
『最後の最後まで世話になってしもて悪いな』
 そしてスマホからは功助の元の世界にいる真依たちの声が聞こえてきた。
「いえ、とんでもございません。ミュゼリア・デルフレック、一部始終を撮影させていただきます」
 とスマホのディスプレイに頭を下げるとそのカメラのレンズを前方にいる功助とシオンベールに向けた。
『いよいよか。異世界間生中継だね』
『そやな。前代未聞やな』
『あっ、シオンさんの身体が光ったわ』
「これから姫様が本来の姿、黄金の竜に変じられます」
 ミュゼリアが実況中継する。

「シオン」
「コースケ様」
 白き牙の前で二人は見つめ合う。そしてその間におすわりをし二人を見ているのは白竜神ユリアルだ。
「さあ、はじめよっか。すべてボクが見届けるからね」
 ユリアルがピョンと後ろに下がった。そして功助がその口を開いた。
「シオンベール・ティー・アスタット王女。俺…じゃなかった、私のために、このようなところまでご足労をおかけし誠に申し訳ございません。感謝いたします」
 功助はシオンベールの目の前に左旨に右拳を当てた騎士の礼をすると膝を着き頭を下げた。
「コ、コースケ様……」
 いきなりの騎士の礼に驚いたシオンベールだが、さすがは一国の王女、すぐに功助に声をかける。
「コースケ・アンドー魔法師隊名誉隊長。わたくしの足の傷を快癒していただき感謝します。そしてこの竜帝国をお救いくださり重ねて感謝いたします。コースケ・アンドー魔法師隊名誉隊長がいなければ竜帝国だけではなく、この世界が滅んでいたかもしれません。この世界の民たちに代わり永遠の感謝を」
 シオンベールも白いドレスのスカートを摘まむと美しいカーテシーを返した。
 シオンベールは十歩ほど後退するとその身体が白い光に包まれる。その光は徐々に大きくなる。そして光が消えると、そこには黄金の竜が光輝きながら立っていた。

『うわあ、あれがシオンの竜化した姿なんや!すっごいやん。なあミュゼちゃん。ほんま凄いわぁ!』
 スマホの無効の真依は興奮して関西弁になった。
『はあぁぁぁ。ほんとねえ。なんか凛々しいわねシオンさん』
 輝く身体を観てため息をつく友紀。
『鱗一枚売ったらどれくらいになるんやろ?ま、それより放射能吐く恐竜と戦った三つ首竜みたいやなほんま』
 進むも感心していた。
「はい。姫様の魔力量は強くそして今は非常に安定しているんです。なので姫様のお身体が光輝いているのだと思われます」
 とミュゼリアが説明した。

「シオン……」
 竜化したシオンベールをじっと見つめる功助。
「パギャ」
 シオンベールはその長い首を功助に伸ばすとその頬をペロッと舐める。
「シオン……」
 鼻先を撫でると功助は言った。
「これまでありがとう。大好きだよシオン」
『コースケ様……。私も、私もコースケ様を愛しています。元の世界に戻られても、……私のこと、忘れないでいてくださいますか?』
「うん。決して忘れない」
 その言葉を聞いてシオンベールの黄金の瞳から大粒の涙がひとつ地面に落ちた。
『さあコースケ様。私の牙を引き抜いてください。ユリアル、私と融合してください』
といってユリアルの方を見る。だがユリアルの姿がない。
『あれ?』
 とシオンベールが思った、その時。
 功助が黒いマントを投げ捨てた。
 功助はマントの下に白いタキシードのような服を着ていた。
『へ?コースケ様……?』
 シオンベールは首を傾げて功助を見つめて何度も瞬きをした。
「シオン!心の準備はいいか!?」
 とニヤリとする功助。
『はい?何を?あの、コースケ様?』
 何がなんだかわけもわからず、ニヤリとする功助に本能的に恐怖を感じて下げていた首を上げた。
「行くぞシオン!」
 功助はそう叫ぶとその場でジャンプした。そして唖然としているシオンベールの頭の上に着地しその立派なツノのあいだに立つとしっかりと二本のツノを握って立った。
『あわ、あわわわわ。コースケ様!ど、どこに立ってるのですかぁ!?』
「見て……、じゃないな、感覚でわかるだろ、お前の頭の上だ」

 功助の行動を見て見送りに来た者たちはあっけにとられている。いきなり功助が王女の頭に飛び乗ったのだ。
「ダ、ダーリン?」
 シャリーナは目を丸くする。

「ぐわははは」
「やるじゃないかコースケ」
 ベルクリットは大笑いをしハンスは感心している。

「ねえねえモーザ、なんでコーシュケ隊長は姫ちゃまの頭に乗ったの?」
「わかんないわよ!…つていうか、イリス噛みすぎ」
「メリア、もしかすると」
「はい、もしかするかもしれませんねフランサ」
 見習い四人娘もドキドキしている。

「がはははは」
「ちょっとおじいちゃん、笑いすぎ」
 ゼフをたしなめるフィリシア。
「そうじゃぞ、黙っとれボケジジイ」
   パコッ!
「あいた!」
 とゼフの頭をおたまでなぐるマギー。
「なんでおたまなんか持っとるんじゃボケババア!」
「うるさいわ。私の勝手や。黙っとれボケ」
   パコン。
「あいた」
 再びお玉で殴られるゼフ。

「うふふふ。いいわねえコーちゃん」
「むむむ。腹立たしいのかうれしいのか?」
 ルルサはわくわくし、トパークスは腕組みをしてみている。

『あ、あのコースケ様。降りていただきたいのですが。あの……』
 とどうしていいのかと固まるシオンベール。
「いやだね。シオン、俺と最初に逢ったとき、お前さ自分の頭に俺を乗せようとしてただろが」
「あ、あの時とは今とは違います。さあ、降りてください」
「だから嫌だって言ってるだろ。それに俺は決めたんだ!」
『決めた?何を…でしょうか?』
ととまどうシオンベール。
「いいかシオン!よく聞け!」
 と突然大声で叫ぶ功助。見送りの者たちはその大声を聞いて唖然となる。
「俺は!俺は!俺は!シオンベール・ティー・アスタットに婚姻を申し込む!!」
 さきほどより更に大きな声で絶叫する功助。
『へ……?』
 固まるシオンベール。目が点だ。
 シーンとなる見送りの者たち。
 そして突然……。
「うおわああああああ!」「よく言ったああああ!」「いいぞコースケーーー!」
 全員が雄たけびをあげて称賛の嵐となった。

『ちょ……、ちょっと……、ちょっと待ってください!』
 今度はシオンベールが絶叫した。
『ななな何故コースケ様が私にここここ婚姻を……!』
 目を真ん丸にするシオンベール。
「なぜって?俺はこの世界、シオン、お前がいるこの世界で生きることにした。お前と、シオンとともに生きることにした。ただそれだけだ!」
『コースケ様……?ダ、ダメです!ここはコースケ様の世界ではありません!そのような戯言はおやめください。そしてただちに私の牙を使い元の世界にお還りください!さ、早く!』
「だから、嫌だって言ってるだろ!」
『で、でも、さっき、これまでありがとうって…』
「ああ、言ったな。でも、元の世界に還るとは言ってないぞ俺。だから……」
『ダ、ダメです!元の世界にお還りになってくださいコースケ様!』
「なあシオン、お前バカだろ?俺の言ってることがわからないなんて」
『むっ!し、失礼ですよコースケ様!バカはどっちですか!コースケ様です!さあ、早くしてください!』
「いや!バカはお前だ!」
『バ、バカっていう方がバカなんです!」
「バカがダメなら、お前はアホじゃ!」
『ア……アホって……!コースケ様、怒りますよ私!』
「ああ、怒れ怒れ!アホシオン!」
『んもう!コースケ様ぁ!』
 と言って口からチョロチョロと炎が見え隠れしている。

「ねえカレット、あの二人っていうか、姫様は何を言ってるの?」
 口を開けて功助とシオンベールのやり取りをみているシャリーナはカレットに通訳をしてもらう。
「はい、えと……。……って言っておられます……」
「は、はあ…?子供のケンカねぇ……」
 とあきれている。
「あらあらまあまあ、コーちゃんったら積極的ねえ。シオンもあんなに恥ずかしがって。うふっ」
「ルーよ、シオンはあれで恥ずかしがってるのか?口から炎が見えてるぞ。怒ってるのではないのか?」
「あなたって、娘のことよくわかっていらっしゃらないのねえ」
 と嘆息するルルサ。
「……」
 無言のトパークス。
『ねえミュゼちゃん、通訳して』
「はい、マイさま」
 ミュゼリアも功助の家族に竜語を通訳する。
『そう。ふふふ。ほんと功助ってべたというか、遠回りって言うか。ねえあなた』
『そうやなあ。あの二人は……』
『なによ父さん』
『ボケツッコミがまだまだやなあ』
 と腕組みをしてシオンベールの頭の上の愚息を睨む。
『『はあ』』
 嘆息する真依と友紀だった。

「それならシオン、勝負しろ!」
『勝負?』
「ああ。婚姻承諾でする儀式で勝負しろ!」
『……そ、それは……!』
「そして、お前の頭から俺を振り落としてみろ!振り落とすことができたなら、俺は、俺はお前の牙を使って元の世界に戻る。……でも……、俺は振り落とされはしないがな」
 ニヤリとする功助。
「で、でも……」
「できないのか?……それならこのまま国王に挨拶するぞ!」
『……、わかりました!勝負いたしましょう!必ずコースケ様を私の頭から引きずりおろしてさしあげます!』
「ふふふ。できるかな?」
『勝負です!』
 シオンベールは口元からチョロチョロと炎を出した。
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