俺……、異世界に行ってた……

アデュスタム

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04 商売あがったりだよ

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 のんびりとオリスメイへの道を進んでいるメガ・ユニコーン一行。
「なんか曇ってきたわよリュウト」
 朝、共同野営地のエジースクを発つ時には快晴だったが昼を過ぎた今、少しずつ灰色の雲が拡がってきている。
「そうだな。少し急いだほうがいいかもな」
 シーディアに尋ねられ馬車の窓から空を見渡したリュウト。灰色の雲で徐々に青空が少なくなってきているのを確認するとそう言った。
「そうね。ちょっと急ぎましょうか」
 シーディアは手綱で少し急いでねと馬たちに伝えると、馬は軽く嘶くと少し歩を早めた。
 それから2時間ほどしてからとうとう雨が降り出した。
「降ってきたわね。ほんとうっとうしい。でも、まあ、仕方ないか」
 天を仰ぎ見て小さくため息をつくシーディア。
「降ってきたな。もうすぐ野営地だっていうのについてないな」
 馬車の窓から顔を出したリュウトも灰色の空を見て溜息をついた。
 雨はしとしとと静かに降っている。
「強くならないといいけど」
 ビルも空を見た。
 それからまた2時間ほどたち止むことなく降り続ける雨の中一行は今夜の野営地に着いた。
 ここは山のふもとの広場。ここも旅の者たちの野宿場となっており焚火の跡があちこちにあった。他にパーティーの姿はなくどうやらメガ・ユニコーン一行のみのようだ。
 馬車を広場の端に止めると馬を大きな木の下につないだ。。
 そしてすぐ横にいつも通り手際よくテントを張ると全員ササッと移った。
「今日は雨で火も焚けないし保存食で我慢するか」
 テントの中リュウトがあきらめモードでみんなを見る。
「そうね。まあ、仕方ないわよ。でも魔法もあるしあったかいスープくらいは作るわね」
「おう、頼む」
「それじゃ俺、小川で水汲んでくるよ」
「うん。お願いねビル」
 ビルは水汲みの大きな袋を持ってテントから出て行った。
「こんな時は魔法がとても便利に使えていいな」
「でもさヤッさん」
「ん?なんだシーちゃん」
「ヤッさんの元の世界だとこういう時にはやっぱりとても便利なものがあったんじゃないかなっておもったんだけど、どう?」
「ん、まあたくさんあったとは思う。俺はキャンプとかしたことないから屋外で使える便利グッズにはめっちゃうといけど、いくつかは頭に浮かぶかな」
「そうなんだ。どんなのがあったの?よければ教えて」
「はは。シーちゃんに教えてっていわれたら教えないわけにはいかないな」
「ありがとヤッさん。で?」
 シーディアは目をキラキラさせて康人の元の世界のことを早く聞きたいとせがむ。
「えと。まずはカセットコンロかな」
「かせっとこんろ?」
「うん。なんていうのかな。コンロはわかるよな」
「うん」
「そのコンロにガスの入ったボンベ、えーと、金属の入れ物をセットして火をつけるんだけど、……わかる?」
「うーん、わかるようなわからないような……」
「そうか。悪いななんか説明できん」
「いいわよ。で、他には?」
「そうだな。俺も聞いただけではっきりと知らないけど。えーと、貝殻とか動物の骨をめっちゃすごい高温で焼いて粉にして水をかけると熱が発生するんだけど、その熱を利用して物を温めたりとかだな」
「?なんで貝殻とかを焼いて水をかけたら熱が出るの?」
「うーん、化学反応ってわかるかシーちゃん」
「ううん」
「そっか。えーとだな、化学反応っていうのはだな、ある物質が別の物質と混ざったり熱を加えたりすることでまったく違う物に変化することなんだ」
「ふーん。まあ、なんとかわかるかな?」
 あははと少し頬をかくシーディア。
「まあ、そんな便利グッズがあるかな」
「そ、そうなんだ……。ねえ、わかったリュウト」
 横で一緒に聞いていたリュウトを見るシーディア。
「はは。俺にゃさっぱりわからんな」
 とリュウトもはははと苦笑した。

 それからメガ・ユニコーン貸し切りの野営地の夜は更けていく。
「相変わらずしとしととうっとうしいなこの雨」
 早めに武具の手入れをしたビルはテントの中ゴロゴロしながら愚痴っている。
「仕方ないわよ。雨も降らないといけないんだしさ」
「そうだぞビル。でもやっぱりうっとうしいよな」
 リュウトとシーディアは武具の手入れをしながらまったりと雑談をしている。
 その横で康人はゴロゴロ転がってるビルを相手に’炎心眼’の練習をしている。
「ヤッさんどうだ’炎心眼’は?うまく扱えるようになってきたか?」
 サングラスをかけたりはずしたりしてビルを見ている康人にリュウトが尋ねる。
「うーん。かなり思い通りに’炎心眼’が発動するようにはなってきているけど……。まだまだだな」
「まあ、あせらないでいいわよヤッさん。あまり|根〈こん〉を詰めると疲れるだけよ」
「あ、ああ。わかってるけどな。なんかうまく使えないとイライラする」
「ヤッさん。あわてるのはよろしくないですよ。あなたもわかってるとは思いますが、休憩もきちんととらないと疲労がたまる一方ですよ」
「ええ。わかってますよオッティーさん。でもうまくいかないとなんかムズムズするというか、奥歯に物が挟まったような。まあ……、気楽に行かないととは思ってはいるんですけどね」
 と苦笑する康人。
「わかっているならいいですが……。さあヤッさん、そろそろ休む時間になってきましたよ。馬車に戻って休みませんか?」
 オッティーは懐から取り出した懐中時計を見ると康人に言った。
「もうそんな時間ですか?……そうですね、そろそろ休みますか」
 康人はゴシゴシと目をこするとサングラスをかけた。
「そうね。そろそろあたしたちも休みましょうか。ねえリュウト」
「そうだな。休むとするか」
「 シーディアとリュウトは手入れの終わった武具をきちんとしまうと今度は寝袋を用意し始めた。
それじゃヤッさん」
「はい、オッティーさん」
康人はオッティーの右肩を持つ。
「おやすみなさいオッティーさん、ヤッさん」
「おやすみなさい。また明日よろしくお願いしますね」
 オッティーと康人はテントから出て馬車に向かっていった。


「あっ、ヤッさん。おはよう。よく寝られた?」
 康人がテントの入口を開けて入ってきた。
「おはようシーちゃん。ああ、よく寝られたよ。って昨夜はシーちゃんが遅番だったのか」
「うん。なーんにもなかったけどね。かえって何かあった方が暇つぶしでよかったんだけど、まあ、何も無いのが一番ね」
「まあ、一晩中強い雨だったし獣や魔獣たちもそんな激しい雨の中動き回らないよな」
「そ。そゆこと」
「で、リュウトたちは?」
「リュウトは水汲みに小川。ビルはテントの端っこで寝てるわよ」
「そっか」
 康人とシーディアが雑談をしているとリュウトが水汲みから戻ってきた。
「おうヤッさんおはようさん」
「おう、おはよう。水汲みありがとう」
「いやあ、まだまだ強い雨だな。こりゃしばらくは降り続くぞ」
「そうか。帰りの日程に影響でそうか?」
「たぶんな。でも、急ぐ旅じゃなし。のんびり行こうや」
 はははと笑うリュウト。
「あまりゆっくりしてもらってては困るんですけどね」
 テントを開けて入ってきたオッティーが苦笑しながらリュウトの肩を叩く。
「おっと、こりゃ失礼。早くオリスメイに戻りたいよなオッティーさんは。悪い悪い」
 といいながら頭をかく。
 昨日の夕食と同じようにテント内で簡易の朝食となった。保存食の乾パンや干し肉、それにシーディア特性のスープだ。
 朝食後、メガ・ユニコーンはささっとテントをしまうと雨の中オリスメイに向けて出発する。
 今日の馭者は珍しくリュウトが手綱を取った。

 相変わらず雨は降り続く。強く降ったり小雨になったりとうっとうしく思うが自然に文句を言ってもしかたないと溜息ばかりつく面々。
「ん?あれ?」
 窓の外を見ていたシーディアが遠くに何か動くものを見つけた。
「どうしたシーちゃん、何かあったか?」
 康人が尋ねる。
「あ、うん。遠くの方にゴブリンが見えたの」
「ゴブリン?大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫みたい。ゴブリンたちは10体くらいいるかな。でもこっちに向かってはきてない。みんなこっちとは逆方向に向かってるみたいよ」
「ならあんしんですね」
 オッティーがホッとする。
「ゴブリンもこの雨じゃこっちを襲う気にならないのかね」
 笑う康人。
「なら、いいけどな」
 ビルも苦笑した。

 途中同じようなことが数回あったがすべて逆方向に進んでいったようで無事今日の宿泊の村まで来た。
「ヤッさん、この村はねまあまあ大きい村でね、けっこう魔獣が近くにでるの。で、ぐるっと村を囲んで魔獣を入らせないように壁が建てられてるのよ」
「そうなんだ。壁があるのか。で、村には何人くらい住んでるんだ?」
「えとね、4、500人くらいかな。とても、活気のある村よ。それにおいしい物たくさんあるから」
「そっか。楽しみだな」
 雨はもう少しで村に着くというところで豪雨に代わってしまった。
「くそっ!もうちょっとなのに。せめてあと5分もってくれればいいのにな。ほらっ!急げ急げ!」
 リュウトが手綱で合図すると馬たちは速歩となりみるみる村が近づいてきた。
 入村する旅人は一人も並んでなく馬車はすべるように門の前に着くと門番から声をかけられた。
「雨ん中ご苦労さん。何人だい?」
「5人だ」
「5人ね。何用で?」
「オリスメイに帰る途中だ」
「荷は?」
 いろいろとリュウトに質問する門番。オッティーによるとこの門番は村の自警団の男とのことだ。
「んじゃ身分証を」
「はいよ」
 リュウトは懐からギルドカードを門番に見せた。
「わかった。んじゃ村に入ってくれ」
「ありがとさん」
 リュウトは馬に手綱で合図し、アルスタク村に入っていった。
 土砂降りの雨の中馬車は定宿のピーニャ亭に着いた。
「いらっしゃい。あら?ユニコーンさんたち。お久しぶりだね」
「久しぶりだな女将。一晩頼む」
「あいよ。何人だい?」
「5人だが、二部屋空いてるかい?」
「空いてるよ。はい、これ鍵」
「ありがとう。それと晩飯よろしく」
「あいよ。すぐに用意するから着替えたら下りといでよ。でもよく降るねえ雨」
 女将は窓から外を見て言う。
「ああ。もうずぶ濡れだ」
 苦笑するリュウト。
「それじゃ用意しとくね」
「頼む」
 メガ・ユニコーンの一行は二階に上がっていった。

「へえ、あんた目が見えないのかい?」
「そうなんですよ」
「そりゃ大変だね。何か必要なことがあったら遠慮なく言っとくれね」
「ありがとう女将さん」
 着替えたメガ・ユニコーンは今テーブルを囲み夕食の時間だ。
 他には何組かの客が同じようにテーブルを囲みうまい酒と料理に舌鼓を打っている。
「うまいなこれ」
 リュウトがフォークに突き刺した何の変哲もないポテトにかぶりついて関心する。
「ほんとおいしいわこれ。単におイモにバターつけただけだと思うんだけど、すごくおいしい」
 アツアツのジャガバタをはふはふ言いながらかぶりつくシーディア。
「まあ、どれもこれもうまいってことだな」
 リュウトの言葉にうんうんとうなづく5人。
「ありがとね」
 追加のエールをビルとリュウトの前に置いた女将がうれしそうにする。
「あいたた」
「どうした?女将」
 リュウトが急に自分の左肩を抑えてしかめっ面になった女将を見上げる。
「あっ、悪いね。つい」
 と言いながら左肩を摩る。
「女将さん、肩痛いの?」
 心配そうにシーディア。
「そうなんだよ。原因はわからないんだけど、一月くらい前から急に痛くなってね。嫌になっちまうよ」
 そう言うと「これ下げるね」と行って空いた皿を持って行った。
「ヤッさん?」
「しーちゃん?そうだな、またまた稼ぎ時か?なんてな。でも、診てあげられるものなら診てあげたいけどな」
 と康人。
「よし。後から俺が聞いてきてみるか」
「そうしたげてリュウト」

「ほんとにいいのかい?」
「いいっていいって。ヤッさんも女将の肩を診てあげたいなって言ってくれてるし」
リュウトは洗い物をしている女将に左肩の治療を勧めている。
「そうかい……。でも、お客に診てもらうなんて女将として……」
「ストーップ!それ以上言ったらダメだ女将。その肩、治癒術師に診てもらったのか?まだだろ?だからヤッさんが診てくれるって言ってるだからありがたく診てもらってくれ。な、女将」
「……わかったよ。それじゃお願いするね」
「そうそう。それでいいんだよ。洗い物が終わったら部屋にきてくれ」
「わかったよ」
 ニコリと微笑む女将。

  コンコンコン
「はーい」
「女将です。いいかい?」
「はい、どうぞ」
「失礼するね」
 女将はドアを開けて康人のいる部屋に入ってきた。今この部屋にはオッティー以外の四人がくつろいでいた。
「すまないね、えと……」
「俺は康人、康人のヤッさんだ。よろしく」
「よろしくヤッさん。あたしは女将のピーニャ。よろしくお願いします」
「ピーニャ?屋号と同じなんですね」
「そうなんだよ。同じだから覚えやすいだろ?」
 と笑うピーニャ。
「それじゃさっそく診ましょうか?俺に背中を向けて座ってください」
「はいよ」
 ピーニャはエプロンをはずすと康人の前に背中を向けて座る。
「それじゃ診ますね」
 康人はまず首から肩の緊張の度合を診ながら問診する。
 痛み出した時期や痛みの強さ。どう動かしたときに痛くなるのか。そして就労の状態など。
「問診から推測すると、やっぱり五十肩だと思う。今から首から肩周辺と腕の施術をします」
「お願いします」
 康人はまず最初に首から肩上部を施術していく。左肩の痛みの負担となっているようで首から肩の筋肉は硬くこわばりが強くなっている。
 そして腕を施術しようとした時に炎心眼が発動した。
「(もっと自在に診たいときに見れるようになればいいのにな。……ん?やっぱり五十肩、|肩関節周囲炎〈かたかんせつしゅういえん〉だなこりゃ。関節の周囲の火の色が薄くなってる。えーと、他の部位は……。うん。きれいな青白い火だ。)」
 康人が治療を進めていくと、その関節周囲の薄い火はだんだんと濃くなっていき他の部位と変わらない青白い火になっていった。
「なんかかなり楽になってきたような気がするよ」
 不思議そうに治療されている自分の左肩を見るピーニャ。
 そして20分。
「はい。これで治療終わります。少し左肩を動かしてみてください。どうですか?」
「えと……」
 恐る恐る左肩を動かしてみるピーニャ。いつもはすこし動かすだけでも強い痛みがあるのに今はそれが無い。
「はあ。驚いた……。痛みが消えちまったよ。ほんとにすごいねあんた。いや、ヤッさん先生!あたし、うれしいよ」
「そうですか。痛み、なくなりましたか。それはよかった」
 微笑む康人。
「ありがとね先生!」
 ピーニャは康人の両手を持つとしっかりと握り感謝の言葉と笑い声を伝えた。
「えと、たしか銅貨1枚だったね。ありがとね」
 ピーニャはエプロンのポケットに入れていた財布を取り出すと康人に銅貨1枚を手渡した。
「はい。確かに」
「ほんとありがとう先生。ほんと寝てても痛みで起きちまうほど痛かったんだ。これでぐっすり眠れそうだよ」
「そうですね。夜によく寝られないと辛いですからね。今晩はよく寝られますよ」
「そうだね。これでまた仕事がんばれるよ。あっ、そうだ!」
 ピーニャはパンと手を叩く。
「明日の朝ごはん、先生にはちょっとサービスさせてもらうからね」
「えっ?そんな……。ありがとうございます。あはは」
 頭を掻きながら康人は笑った。


 そして次の日の朝。
「おはようございます」
 メガ・ユニコーンが食堂に行くと女将のピーニャが元気よく挨拶をしてきた。
「おはよう女将さん。肩の調子はどうです?」
 康人が昨夜治療したピーニャの肩の調子を尋ねる。
「ありがとうヤッさん先生。久しぶりに夜もぐっすり眠れたし、肩の調子もいいんだよ。朝から力仕事ができたからねえ」
 ととてもうれしそうだ。
「それはよかった」
 と康人もうれしそうだ。
「さ、座っておくれよユニコーンさんたち。すぐに朝食持ってくるからね」
「おう。ありがと女将」
「さ、座りましょ」
 シーディアは康人と一緒にテーブルに着くとリュートとビル、そしてオッティーもテーブルに着いた。
「しかし、よく降りますね」
 窓の外を見てオッティーが言う。
「ほんとだな。すごい雨だ。まるで滝の中にいるようだな」
 とリュウト。
「今日出発できるかな兄貴」
「どうだろうな」
「こんなとこで足止めは嫌よねえ」
 シーディアも雨を見て溜息をつく。
「すごい雨音だな。めっちゃ降ってるみたいだ。ほんと出発できるのか?」
 と康人も心配そうだ。
「はい。おまたせしました」
 その時ピーニャが自慢の朝食を運んできて全員の前に置く。
 食事はゆったりと続き食後のお茶に口をつけた時。
「ヤッさん先生」
 ピーニャがテーブルにやってきた。
「ん?はい?」
「はいこれ。ヤッさん先生にだけの特別サービスだよ。昨夜の感謝だよ。食べておくれ」
 コトンと目の前に置かれた器を触る康人。
「つ、冷たい?」
「うふふふ。どうだい冷たいだろ?あたし特製の氷菓子だよ。食べておくれ」
「氷菓子?」
 と言って横に置かれたスプーンでそれをすくって口に運んだ。
「あっ!これシャーベットだ!」
 康人は驚くとまたすぐにスプーンでそのシャーベットを掬うと口に運ぶ。
「うん。冷たくて甘くてうまい。それもイチゴ味だし。うん、うまいよ。女将さん、めっちゃうまいよ。ありがとう」
「氷菓子でそれだけ喜んで食べてくれてありがとね。作った甲斐があったってもんだよ」
 うれしそうに笑うピーニャ。
「しかし珍しいですね女将さん。あなたは氷菓子が作れるのですね」
 とうれしそうに康人を見ていたオッティーが同じくうれしそうにしているピーニャに尋ねた。
「ん?あ、うん。あたしさ、これでも水魔法得意なんだよ。それも氷系のね。この商売してるととても役に立つからもってこいの属性なんだよ」
「はは。そうでしたか」
 なぜかドヤ顔のピーニャにオッティーも苦笑する。
「いいなあヤッさん。おいしそう……」
 じっとシャーベットを見つめるシーディア。
「しーちゃん?」
「はい?」
 突然呼ばれ首を傾げるシーディア。
「はは。スプーンあるか?」
「へ?」
「ふふふ。スプーンあるか?」
 シャーベットの器を持ち上げてニやりとする康人。
「うん!コーヒー混ぜたのがある!」
「ほら。あと全部食べていいぞ」
「ほんと!やった!うれしい!」
 シーディアは器を受け取るとおいしそうに残りのシャーベットを楽しんだ。

「ああ。おいしかった」
「よかったなシーちゃん」
 満足げなシーディアの声を聞いて微笑む康人。
「それじゃ出発の準備するか」
 リュウトがそう言ったとき。
「ん?あれ?なんか外の音がおかしいかも」
 と康人が見えない目で窓の方を見る。
「どうしたヤッさん?」
 康人の視線をたどり窓の外に目をやるリュウト。
「なんか外の音が……。ちょっと窓から外を見てくれないか」
「ん?ああ、わかった。えと、」
 リュウトが窓に近づき外を見た。
「おおっ!なんじゃこりゃ!」
「どうしたリュウト」
「道が川になってるぞ。もうちょっとでここまで水が来そうだ!」
「な、なんだって!ちょっ、ちょっとどいとくれ!」
 リュウトの声にピーニャがあわてて出入口のドアに近づくと一気に開けた。
「うわあ、なんてことだい!こりゃ大変だ!」
 ここピーニャ亭は道路から短い坂道を上がったところにある。道からはだいたい1.5メートルほどだ。見ずは玄関まであと4,50センチほどまでに迫っていた。
「川が氾濫したのかもしれないよこれは……」
 心配そうに周囲を見渡すピーニャ。
「大変だぞこりゃ」「ここは大丈夫かな?」「外に出られんな」
 食堂内はざわざわと騒がしくなった。
「このままじゃもしかしたらここまで水が来るかもしれないよ。どうしたら……」
 蒼白なピーニャ。
「考えてる暇はないぞ女将。おいここにいる全員!」
 とリュートが言うと全員がリュートを見る。
「一階にある物をできるだけ二階以上に上げるんだ。でないとピーニャ亭が大変になるかもしれん」
「……そうだな。女将さん?」
「そ、そうだね。みんな頼めるかい?水につかるとダメなものが多いから……。悪いんだけどみんな、力を貸しとくれ」
 と頭を下げるピーニャ。
「女将、まかせろ!野郎ども!」
「おお!」
 食堂にいた全員が水に浸かると使えなくなるものを二階以上にあげる。
 備蓄の食材や濡れれば使えなくなる薪や墨。食器などを全員が力を合わせ二階以上に運ぶ。
「ヤッさん、申し訳ないけど部屋に戻っといてくれる?」
「あ、うん。俺がいれば邪魔になるからな。部屋に戻っとくよ」
「ごめん、ヤッさん」
すまなさそうな声のシーディア。
「わかってるよシーちゃん。気遣ってくれてありがとう」
「ヤッさん……。階段はこっち」
 康人の手を取り階段に誘導しようとするとオッティーが声をかけた。
「シーディアさん。私もヤッさんと部屋に戻っておきますよ」
「オッティーさん」
「力自慢の冒険者さんたちのように、私、お役に立てそうになさそうですから」
 とこちらもすまなさそうに言う。
「えと……、オッティーさん、それじゃヤッさんと部屋に戻っておいてください」
「わかりました。さ、ヤッさん」
「はい」
 オッティーと康人はみんなの邪魔にならないように階段を上り部屋に戻っていった。
 そして宿泊客の冒険者たちの力で二階より上に一階の物を運び終えると一息つく。

「こりゃ大変だよ……。まだ凄い雨も降ってるし……。いつ止むのかねえ……。はぁ……」
 二階の廊下の窓から外を見て溜息をつくピーニャ。この窓はちょうど出入口の真上にある窓で通りの様子がよくわかる。
「女将さん」
「ん?あ、ヤッさん先生。よくあたしがいるのわかったね」
「小さな溜息が聞こえたしな」
「ふふふ。やっぱりすごい耳なんだね先生は」
「はは」
 康人はピーニャの横に立ち窓から外を伺う。強い雨の音と村の中を濁流となって流れる水の音に不安そうな表情になる。
「こりゃ、まだしばらくは降り続くだろうね。ほんと、商売あがったりだよ」
「そうですね。でも、いつかは必ず止むから。それまでの我慢ですよ」
「そうだね」
「でもここが洪水になるだなんてちょっとおかしいよ」
「そうなんですか?」
「ああ。ここアルスタク村は少し高台にあるんだよ。だからいくら大雨でも洪水になることはないと思うんだけどねえ。それもこんなにすごい洪水になるだなんてさ。自然の力って怖いんだってつくづく思うよ」
 溜息をつくピーニャ。
「そうなんだ。あの女将さん、川の堤防は高いんですか?」
「堤防かい?そうだねえまあまあかなあ。でもそんなに強い堤防じゃないと思うよ。ただ土を積み上げただけのような堤防だからね」
「そうですか。堤防のこちら、村側の堤防が一機に崩れたのかな」
「そうかもね。それに川の向こう側は山だしね」
「そうなんだ。そうなると地形の問題かな」
「地形?」
 小首をかしげるピーニャ。
「はい。ここピーニャ亭は道からちょっと高いところにあるけど、村の他の場所は低いとか」
「そうかもね。この村の出入口はここより低いところにあるし、村の周囲はちょっと高いみたいだし」
「そっか……。それで洪水にか……」
「まあ、今言っても仕方ないよ。この水がひいたら村で考えないとだけどね」
「そうですね」
「さ、そろそろお昼だし何か作るよ。みんなが助けてくれた食材があるからね。部屋に戻ろうか先生」
「そう言えばお腹空きましたね」
「でしょ」
 二人は薄く微笑むと部屋に戻ろうと窓に背中を向けた。だがその時、康人の目の端に青白い炎が見えた。
「ん?」
 振り向く康人。すると濁流と化した道を青白いが弱弱しい炎が流されそうになっているのが見えた。
「あっ!」
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