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第一章
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「前よりかは、ましになるだろ」
普通に尋ねれば、男は、一瞬だけその眼を見開いたが、すぐに、眼差しを意味有り気に変化させた。
---なるほどな。
平明な説明を聞けば、男の反応も理解できる。
だが、どうしてだろう。
へぇ、と口角を上げたその姿に、言い知れぬ不安を感じてしまうのは。
---魔力回路、か……。
この身体にも、その魔力回路が備わっているそうだ。
だが、それが、幾重にも絡まり合っていて、正常に機能していないという。
故に、許容を超えた魔力が、体内に蓄積され続けていて、男曰く、それで、まともな状態でいるのは、異常らしい。
---先天的なものじゃないのか……。
アウロラは、内心で少し驚きを感じていた。
小説では、アウロラは、膨大な魔力をその身に宿していたが、扱うための器官が欠如していたから、魔力を消耗することができず、元から短命の定めであると描写されていたし、そもそも、魔力回路なんて単語は、出てきてすらいなかった。
故に、魔力とは、生得的な、ある種の才能だと思っていたのだが。
---止めだ。
思考を取られそうになって、振り払う。
思案に沈んでも、無駄でしかないというのに。
「……そうか」
回路の調整に関しては、何も問うことはしなかった。
不利益にもならないようなので、文句を言うこともないし、多少の利点もあるようだが、聞く気にもならない。
どうせ、序で感覚で行ったことだろうことは、勘でしかないが、そう男の態度から感じるため、感謝の気持ちすらも湧かないのだ。
「それで、お前は何が知りたいんだ?」
不意に、男に問われる。
アウロラの脳内には、一瞬だけ疑問符が浮かんだが、すぐに、あぁ、と少し前に交わした会話の内容を思い出した。
あれは有効だったのか、と今更ながらに、驚きしかない。
---そうだな……。
我ながら、随分と薄い好奇心だと思う。
男に問われるまで、頭の片隅にすら、問い掛けようとする考えが無かったのだから。
確かに、冷静に思考を繰り広げてみれば、全くと云っていいほどに、有用性も有益性も感じない情報である。
だが、それでも、好奇心があるという事実には、変わりないのだ。
「じゃあ、」
アウロラが、疑問を言葉として形成しようと、声を発しようとした瞬間。
「ツヴァイ様っ!」
「……ちっ、時間切れか」
覚えのない声が、遠くから聞こえてきた。
声のした方向を見れば、丸い眼鏡を掛けた青年が、此方に向かって走ってくる様子が、目に入った。
「見つけましたよっ!!」
瞳は黄檗色で、一つに束ねている肩まで伸びた髪は青磁色だ。
容姿は、男と比べてしまえば見劣りはするが、それでも、整っている方の部類ではある。
身長もそこそこあり、年齢は、高校生くらいだろうか。
それに、よく見れば、男と同じデザインの衣服を着用している。
色は、黒ではなく、灰色だが。
「いつも最悪だな、お前は」
「それは、僕の台詞ですよっ!どこに消えてしまったのかと思って、辿ってみれば、まさか、こんなところに居られるなんて……」
口振りからしても、どうやら、知り合いのようだ。
「帝国の所有者が何方か、忘れていませんよねっ!?もし、こんな勝手が知られたりでもしたら、また、問答無用で--」
「ねーよ」
「貴方ではなく、僕のことを言ってるんですっ、僕のことをっ!!」
はぁ、と青年の、がっくしと項垂れるように吐く溜息には、どことなく疲弊を滲ませている。
魔導師らしい不審な男に加えて、正体不明の青年まで出現した。
現時点で、アウロラの、彼らに対する知識は皆無だったが、取り敢えず、聞こえてくる話の内容から、青年の不憫さだけは、大いに感じ取れた。
「その程度で、いちいち騒ぐなよ」
男が、髪をがしがしと掻いて、鬱陶しそうに立ち上がる。
「……はぁ、ほら、もう行くぞ」
「どうして、僕が、我儘言ったみたいになってるんですか」
面倒臭そうに、促すような言葉を発せば、青年は、不満を通り越して、最早、呆れ気味に呟きながら、姿勢を正す。
「全く、本当に自分勝手な人なんですから……って、」
その過程で、どうやら此方の存在に気付いたようだ。
向けていた視線が、その瞳とかち合って、青年は、驚愕したように、大きくその眼を見開いた。
「えっ、どうして、人間が--っ、」
「うるせーな」
青年の狼狽さを他所に、男は、心底煩わしそうに、一つ指を鳴らす。
--パチンッ。
綺麗に音が鳴ると同時に、先程まで、ここに居たはずの二人の人間が、消え去ってしまった。
---瞬間移動か。
そして、ぽつんと残されたアウロラは、その光景を眼前にして、ただ、へぇ、とだけ思う。
---と、言うか……。
結局、何の質問もできなかったな、とふと思い出す。
不完全燃焼では全く無いので、特段後悔はしていない。
ただ一つ、胸の内にできたのは、勿体無いことをしたという、小さな感情だけだ。
決して、未練や心残りでもないので、すぐに忘却の彼方へと行ってしまったが。
---まぁ、機会はあるだろ。
別に、無くても構いはしないが。
男が、自分の言葉に責任を持つ人種なのかは分からない。
だが、この身体には、死を拒絶するという課題が、まだ残っているのだ。
それに、男の興味の持ち方からも推測するに、また、やっては来るだろう。
「……はぁ、」
独りになったからか、疲労の蓄積のせいで、かなり重くなっていた身体が、更に重みを増したように感じる。
横になって、疲れを取ろう。
そう思って、そのまま、芝の生えた柔らかな地面に横たわると、降り注ぐ暖かな陽の光が眠気を誘ってくる。
徐々に重くなっていく目蓋に、アウロラは、逆らうことをしなかった。
◇◇◇
普通に尋ねれば、男は、一瞬だけその眼を見開いたが、すぐに、眼差しを意味有り気に変化させた。
---なるほどな。
平明な説明を聞けば、男の反応も理解できる。
だが、どうしてだろう。
へぇ、と口角を上げたその姿に、言い知れぬ不安を感じてしまうのは。
---魔力回路、か……。
この身体にも、その魔力回路が備わっているそうだ。
だが、それが、幾重にも絡まり合っていて、正常に機能していないという。
故に、許容を超えた魔力が、体内に蓄積され続けていて、男曰く、それで、まともな状態でいるのは、異常らしい。
---先天的なものじゃないのか……。
アウロラは、内心で少し驚きを感じていた。
小説では、アウロラは、膨大な魔力をその身に宿していたが、扱うための器官が欠如していたから、魔力を消耗することができず、元から短命の定めであると描写されていたし、そもそも、魔力回路なんて単語は、出てきてすらいなかった。
故に、魔力とは、生得的な、ある種の才能だと思っていたのだが。
---止めだ。
思考を取られそうになって、振り払う。
思案に沈んでも、無駄でしかないというのに。
「……そうか」
回路の調整に関しては、何も問うことはしなかった。
不利益にもならないようなので、文句を言うこともないし、多少の利点もあるようだが、聞く気にもならない。
どうせ、序で感覚で行ったことだろうことは、勘でしかないが、そう男の態度から感じるため、感謝の気持ちすらも湧かないのだ。
「それで、お前は何が知りたいんだ?」
不意に、男に問われる。
アウロラの脳内には、一瞬だけ疑問符が浮かんだが、すぐに、あぁ、と少し前に交わした会話の内容を思い出した。
あれは有効だったのか、と今更ながらに、驚きしかない。
---そうだな……。
我ながら、随分と薄い好奇心だと思う。
男に問われるまで、頭の片隅にすら、問い掛けようとする考えが無かったのだから。
確かに、冷静に思考を繰り広げてみれば、全くと云っていいほどに、有用性も有益性も感じない情報である。
だが、それでも、好奇心があるという事実には、変わりないのだ。
「じゃあ、」
アウロラが、疑問を言葉として形成しようと、声を発しようとした瞬間。
「ツヴァイ様っ!」
「……ちっ、時間切れか」
覚えのない声が、遠くから聞こえてきた。
声のした方向を見れば、丸い眼鏡を掛けた青年が、此方に向かって走ってくる様子が、目に入った。
「見つけましたよっ!!」
瞳は黄檗色で、一つに束ねている肩まで伸びた髪は青磁色だ。
容姿は、男と比べてしまえば見劣りはするが、それでも、整っている方の部類ではある。
身長もそこそこあり、年齢は、高校生くらいだろうか。
それに、よく見れば、男と同じデザインの衣服を着用している。
色は、黒ではなく、灰色だが。
「いつも最悪だな、お前は」
「それは、僕の台詞ですよっ!どこに消えてしまったのかと思って、辿ってみれば、まさか、こんなところに居られるなんて……」
口振りからしても、どうやら、知り合いのようだ。
「帝国の所有者が何方か、忘れていませんよねっ!?もし、こんな勝手が知られたりでもしたら、また、問答無用で--」
「ねーよ」
「貴方ではなく、僕のことを言ってるんですっ、僕のことをっ!!」
はぁ、と青年の、がっくしと項垂れるように吐く溜息には、どことなく疲弊を滲ませている。
魔導師らしい不審な男に加えて、正体不明の青年まで出現した。
現時点で、アウロラの、彼らに対する知識は皆無だったが、取り敢えず、聞こえてくる話の内容から、青年の不憫さだけは、大いに感じ取れた。
「その程度で、いちいち騒ぐなよ」
男が、髪をがしがしと掻いて、鬱陶しそうに立ち上がる。
「……はぁ、ほら、もう行くぞ」
「どうして、僕が、我儘言ったみたいになってるんですか」
面倒臭そうに、促すような言葉を発せば、青年は、不満を通り越して、最早、呆れ気味に呟きながら、姿勢を正す。
「全く、本当に自分勝手な人なんですから……って、」
その過程で、どうやら此方の存在に気付いたようだ。
向けていた視線が、その瞳とかち合って、青年は、驚愕したように、大きくその眼を見開いた。
「えっ、どうして、人間が--っ、」
「うるせーな」
青年の狼狽さを他所に、男は、心底煩わしそうに、一つ指を鳴らす。
--パチンッ。
綺麗に音が鳴ると同時に、先程まで、ここに居たはずの二人の人間が、消え去ってしまった。
---瞬間移動か。
そして、ぽつんと残されたアウロラは、その光景を眼前にして、ただ、へぇ、とだけ思う。
---と、言うか……。
結局、何の質問もできなかったな、とふと思い出す。
不完全燃焼では全く無いので、特段後悔はしていない。
ただ一つ、胸の内にできたのは、勿体無いことをしたという、小さな感情だけだ。
決して、未練や心残りでもないので、すぐに忘却の彼方へと行ってしまったが。
---まぁ、機会はあるだろ。
別に、無くても構いはしないが。
男が、自分の言葉に責任を持つ人種なのかは分からない。
だが、この身体には、死を拒絶するという課題が、まだ残っているのだ。
それに、男の興味の持ち方からも推測するに、また、やっては来るだろう。
「……はぁ、」
独りになったからか、疲労の蓄積のせいで、かなり重くなっていた身体が、更に重みを増したように感じる。
横になって、疲れを取ろう。
そう思って、そのまま、芝の生えた柔らかな地面に横たわると、降り注ぐ暖かな陽の光が眠気を誘ってくる。
徐々に重くなっていく目蓋に、アウロラは、逆らうことをしなかった。
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