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(2)因縁の王子に会いたくないけど

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そして、いよいよ、ステファン王子の登場となった。前触れの声が響き渡る。


「ステファン王子様の、お成りーー!」


召し使いや侍女を引き連れて小さな男の子が歩いてくるのだ。アンジェラは2度目の光景にウンザリしている。


(あの時は何もかもが輝いて見えたのです。今は、全部が灰色ですわ。)


令嬢たちが王子に夢中になっている間に目立たない場所へと移動する。椅子の後ろの植え込みの影に身を潜めた。

作戦実行、王子と顔を合わせないで帰る。可愛い子が好きなんだから、令嬢の誰かと上手くいくといいのよ。


(そういえば、噂はありましたわね。王子様の侍女が時々だけど入れ替わるらしいと。)

「お前は、何をしているのだ?」


頭の上から聞こえた声に飛び上がる。恐る恐る上を見上げると水色の瞳が見下ろしていた。それが、王子だと気がついて驚く。

あの撫で付けられたダークブロンドの髪は、間違いない。成長したら栗色になっていたが。アンジェラは立ち上がる。


「いえ、あの、その。お菓子、落としちゃってー。探してたんですけど、無いわねー。あちらかしらー、オホホのホ。」


バタバタと走り出す。それは、逃げ出すとも言う。その後、令嬢たちの間に割り込みテーブルの上のお菓子をパクパクと食べ出した。


「おい、この令嬢にお菓子を用意してやるのだ。王家から空腹で帰らせられない。」


という王子の声。聞こえてアンジェラは困惑。直ぐ様、運ばれて来た大きな料理皿の上の色とりどりのお菓子の山。見ただけで、お腹いっぱい。


(仕方ありませんわ、食べるしかないわね。)


後は食べるだけのアンジェラ。締め付けたコルセットが、苦しい。周りの令嬢たちの白い目。


「何、あれ?王子様のお誕生会で、やる?」
「絶対に、婚約者にはなれないわね。可哀想に。クスクスー。」


いいのよ、なれなくて。あなた達が頑張って下さらないと怒るわよ。

令嬢たちに囲まれた王子様。それで満足かというと、そうでは無いらしい。退屈そうに生欠伸している。視線が大皿の前の赤毛の令嬢に止まった。

食べてる手を止めて見回すと何処かへと行く。何処へ行くのかと見ていると花で飾り立てたポールの影に。変わった令嬢だ。


「お前は、何をしているのだ?」


またしても、王子に見つかった。慌てて逃げる。次は、テントの影に。


「お前は、何をしているのだ?」


またしても、王子に見つかった。アンジェラは苛立つ。前の時間では、儀礼的な会話しかして来なかったのに。どうしたというのよ?

自分が悪目立ちしている事には気がついていなかったのだ。王子は、まとわりつく令嬢は構わずにアンジェラに寄ってくる。


(こやつ、面白いなー。)


山のように与えられているオモチャより楽しそうだ。付きまとわれてアンジェラが恐怖を感じてる事など分かるわけない。所詮、子供なのだ。

追い詰められたアンジェラは、激怒。処刑台に送られた恐怖が甦る。この王子のせいで殺されたのに。


「もう、止めて下さい!」


クッションを持ち振り上げた。相手は、せせら笑い。それは、叩く素振りだけと思ってる。


「何だ、お前。我は、この国の王子だぞ。次期王だぞ。偉いんだぞ。我に何かしたら、処刑だぞー。」


あ、最悪のキーワードを王子は口にしてしまった。それは、「処刑」だ。

アンジェラは、ブチッと切れる。処刑?それなら、もう、やられたわよ。1度やったら、怖いもんなんて無いわ。あんたも、やってきたら。

アンジェラは、ニヤリとした。そして、力を込めてクッションを叩きつけたのだ。見ていた令嬢たちが悲鳴を上げる。







帰り道は、上機嫌でルンルンのアンジェラ。だけど、後から帰宅した父親の公爵はカンカンだった。


「お前は、何て事を仕出かしてくれたのだ。アンジェラ、この家の娘として品格を欠く行動をしてはならないのにだ。」

「はい、お父様。申し訳ありません。(これは、あのバカ王子が言いつけたわね)」


長いものには、巻かれろ。悪くなってないけど、謝れば良いか。だから、悪いとは思ってないけど謝る。だが、その考えは甘かった。


「申し訳ありません。アンジェラが悪うございました(私はわるくありませんけど)』

「お前は、母親の妹に預ける事にした。そこで、身を慎める事を学べ!」

「はあ?お母さまの妹って辺境地?あんな田舎にですか、嫌です!」

「相手は、次期王になるかもしれない王子なのに。何ていう事をする。寝込まれているそうだぞ。小さな子供を相手に暴力三昧で立ち上がれない程の傷を負わせるとは。我が娘ながら情けない!」

「立ち上がれないなんて、嘘よ。クッションで1回だけ叩いただけなのに!」

「言い訳は、するな。お前の顔など観たくない!」


事実上の縁切りであった。アンジェラは涙を流し大声を上げてギャン泣き。およそ、公爵令嬢らしからぬ事で皆が驚く。

せっかく時間を戻せたのに王子に落とし入れられるなんて。不幸に堕ちて行く。
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