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(15) 恋花は咲くのか

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そんな事、誰が予想できただろう。それは、出来レースとか叩かれる以前の問題だ。


「私以外の令嬢たちが、流行り病になったって?嘘ーー!!」


病に倒れた婚約者候補は、必然的に外される。驚異的に丈夫な身体のアンジェラが婚約者に決定。まるで、誰かが仕組んだように。

父親が来たしてアンジェラを呼んだ。今日は珍しく上機嫌だ。


「喜べ、お前がステファン王子の婚約者だ!」

「はい、お父様。きっと、神様が力を貸して下さったのです。」

「神様だと?わしが、力をつくしたとは思わないのか。馬鹿な娘だ、下がれー。」

「はい、お父様。」


やっぱりね、悪どい。婚約者候補たちを病にするなんて。ゴニナル病にしなくても、似た症状にすればいいのよ。ゴニナル病の症状って、何かしら。気になるわ。

部屋に戻ってアンジェラは目眩がした振りをした。寝着に着替えさせられて寝台に寝かせられる。アンジェラは身代わり人形と代わると壁の穴の部屋へと入った。そして、平民服に着替えると移動ドアに命じる。


「街に行くわ!」


ドアは街の建物の裏口にアンジェラを通した。アンジェラは情報を集める為に本屋の前に置いてある手刷りの新聞を求める。その時、山積みされたガリ版刷りの下町小説に目が止まる。


「なあに、これが人気なの?ふーん、女の子が主人公ね。この子は、伯爵令嬢なんだ。」


それは、乙女ゲームというジャンルの作品だった。タイトルは「アビゲイル令嬢は泣かない」という作品。18歳の令嬢は王宮の陰謀に巻き込まれて都から追放される事に共感した。


「私と似てる、辺境に閉じ込められるのね。読みたい、買っちゃお。え、作者が「パパちゃま」って笑える。アグアニエベさんの呼び名と同じだなんて親しみが湧くわ。」


いいえ、たまたま、同じだなんて違います。本当に同じなんです。それは、アグアニエベのデビュー小説でした。あなたが、主人公の。








その頃、アグアニエベは焦っていた。小説の納期が迫っていたからだ。出版した作品が売り切れとなり増刷したのはいいが、続編を求められている。


「売り上げが良ければ続編を書くという契約を交わさなければ良かった。今になって後悔しても遅いけど。まだですか、先生?」


机の上の右腕の白骨は、ペンを握ったまま動かない。筆が進まないようだ、困った。大昔の小説家の偉人の墓から持ち帰ったが、偉人は気難しい。気分が乗らないと話が書けないのだ。


「天使のお仕事をしている悪魔としては、約束は敗れないんですよ。約束を守れないと天使の資格を剥奪されるかもしれない。わー、嫌ですよ。どうして、書けないんですか?」


パニックになって喚く悪魔に骨の腕は何かを書き出した。そして、それをアグアニエベへつき出す。


「何ですって?話の種が無い?要するに題材になっているアンジェラさんの話が少ないというわけですか。成る程!」


確かに辺境へ追放されてダンジョンで活躍では、少々ベタですか。


「では、恋花を追加しましょうー。」


決定、アンジェラに恋をしてもらいます。本人の意志など関係ありません。では、実行。天使のお手伝いをする悪魔は、行動力では負けませんよう。








アンジェラは、馬車で王宮へ向かっていた。父親の公爵は仕事で朝から王宮へ入っている。王宮で待ち合わせる事になっていた。

今日は、第1王子の婚約者になった事で王様と王妃様へのご挨拶の日です。


(うー、緊張するう。処刑される前は、よく会ってたけど。今回の顔合わせは初めてなのよね。)


忘れもしない婚約破棄された舞踏会の場になった王宮。嫌な思い出しかない。


(ステファン王子が浮気してたのを我慢してたけど、辛かったー!それでも、結婚して王妃になったら国を支えるつもりで勉強して。あの努力は、何だったんだ?クソ王子!!)


思い出すと気分悪い。立ち止まり回廊の柱に寄りかかった。案内する召し使いの困った顔。そりゃ、そーだ。王様の処に連れて行かないといけないのに。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」


声をかけて来た若い男の声。次には手を取られ腰に腕を回されて庭にあるベンチへ座らされる。見事な手順だ、呆気にとられた。それに、すこぶる美男子。


「少し、休まれるといい。ご気分は、如何ですか?」


覗き込む灰色の瞳が銀色にも見えて眩しい。鼻筋の整った顔が美形だ。髪は黒なんですね。クスリと笑われた。


「私の顔が、お気に召しましたか?」


見つめてしまってたのに、気がつく。恥ずかしさに顔が赤らんだ。


「貴女のような可愛いい方に見つめてもらえたら、嬉しいですよ。自己紹介させて下さい。私の名は、エイドリアン・ハーパー。この都のゴメス商会支店で店長をやっています。お見知りおきを。」


アンジェラの頭に浮かんだ名。何処かで聞いた覚えがある、思い出せないけど。そうだ、会話はしていないけど紹介された。ヤリ直す前に招待された貴族のパーティーで。


(この人って、意外に優しいのね。近よりがたくて冷たい感じがしてたのに。)


こんな風に介抱するなんて思わなかった。今も優しい眼差しで微笑んでいるし。アンジェラは礼を言って立ち上がる。


「ありがとうございました。気分が良くなりましたわ。私の名前は、エドウィン公爵家のアンジェラです。ハーパーさん。」


礼を言って名を名乗る。ゴメス商会の店があると考えてもみなかった。あのゴメスの事だから、貴族にも手広く商売をしているはず。

今は、謁見の間に行かなくては。そして、待っている召し使いに詫びると王様の待っている部屋へと歩き出すのだ。

それを見送るエイドリアン。その背後に立つアグアニエベにアンジェラは気がつかなかった。


「どうですか、可愛いいでしょ。ほらほら、好きになる。好きになっちゃうー!」


残念ながらキューピッドの矢は貸してもらえなかっので、惚れ薬を頭から振る。作品の為なら、人の心も操ります。やる気満々の悪魔。他にする事がないのか。




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読んで下さって、ありがとうございます。

今日は午後(16時)の更新がありますー!( v^-゜)♪
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