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(16) 再婚約したけど

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謁見の間の前では不機嫌な顔のエドウィン公爵が待っていた。


「何をしている、遅いぞ!」

「申し訳ありません、気分が・・」

「王様をお待たせしているのだぞ、倒れる前に来い!」

「はい、お父様(倒れる前に来るなんて人間じゃないわ)」


公爵が腕を出した。そして、苛立ちながら睨まれてしまう。意味の分からないアンジェラは顔を見返した。


「何をしている。手だ、手!」

「手って手?あー、手ですのね(単語で喋るな)」


やっと、理解した。父親の腕に自分の手を組んだ。何だか、護送される犯人の気分。落ち込むわよ。シズシズと開かれた扉の中へ。

だだっ広い部屋の中にポツンと王座。王座には、王様。右にお妃様、左に王子様の顔ぶれ。広い部屋の、あんなとこに王座を置いてるから、扉から歩いても歩いても辿り着かない。

1番、豪華なドレスを着せられてます。色んな物を付けているから重いー。10キロ以上はある。汗、汗、で到着。罰ゲームだ!


(これが、パパちゃまとなら楽しいのになあ。パパちゃまなら私の歩きに合わせてくれるわ。このオヤジって、優しくないー!)


内心、プリプリしながら王座の前に立つ。そして、刺さる視線に顔を向けると正装したステファン王子がアンジェラを睨んでいるではないか。嫌な予感。


(もしかして、もう、私を排除する事を考えてるの?怖っー!)


アンジェラの笑顔が強張る。頭の中に婚約破棄された時の場面がフラッシュ。寒気がしてきた。エドウィン公爵が紹介する声に頭を下げるのに精1杯。死にそうよー。


「陛下、私の娘のアンジェラでございます。」

「うむ、第1王子との婚約を認めよう。但し、ゴニナル病に犯されたなら解消とする。良いな?」

「はっ、お受けいたします!」

「話は終わった、下がれ。」


え、これだけ?この数分の為に私は時間かけて化粧やドレスの着付けをしたんかい。アンジェラはムカッとした。おまけに、病になったら解消だと?だったら、婚約なんかすんな!

でも、笑顔で膝を折り再びシズシズと退散したのであった。決意を新たに。絶対、解消してやると決意して。









翌日、学校に登校すると周囲が変わっていた。それまでは、遠巻きにしていた生徒たちが挨拶してくる。


「アンジェラ様、おはようございます。」


戸惑いながらも、挨拶を返す。気持ち悪ー、何で?と思ってたら、教師もだ。


「アンジェラ・エドウィン公爵令嬢、おはようございます。そして、ステファン王子様とご婚約されたのですね。おめでとうございます。」


まあ、もう知れ渡っているのね。早っー。成る程、それが理由か。王位継承者と婚約した女子生徒というステータスだわ。人って、接し方が変わるのね。見え見えよ。

でも、変わらないのも居る。


「ねえ、ねえ、アンジェラ様。おはようございます。僕の名前、覚えてくれた?」


ステファン王子の取り巻きの1匹だ(人間です)


「もしかして、忘れたらとか。僕、泣いちゃうからー。」


じゃ、泣けー。無視して、歩き出すと付いて来る金色のクルンクルン頭。本当、子犬っぽい。言葉は理解しないし。


「あのね、私は授業がありますのよーと。あなたとは学部が異なりましてよー。さよーなら!(追いかけないで)」

「あ、嫌だー。逃げないでよ。僕、ジョバンニ・エルゴランテ。ジョバンニ・エルゴランテだから!」


ハイハイハイハイ。美少年から逃げるように走る。どうして、私にかまうの?あー、頭、痛い!









学校を終えて迎えの馬車で帰宅すると贈り物の山が出来ていた。令嬢が第1王子と正式な婚約をしたかららしい。母親は喜んで上機嫌だ。


「パーティーの招待状が、こんなに。ドレスを新調しなくてはいけませんわ。あなたもね。」


別に1張羅(いっちょうら)で着まわしてもいいんだけどう。どーせ、婚約解消するんだしい。昨日のステファン王子の目付きからしたら、直ぐにでもやりたいんじゃないのう(やけになっている娘)。


「婚約披露もある事ですし、他のご令嬢に負けないくらいのドレスがないかしらー。だって、未来の王妃様ですものう。オーホホホ!(高笑い)」


興奮して赤らんだ母親の顔。眼を輝かせて笑っているけど、自分のプライドだけ。娘が第1王子の婚約者という事で満たされていたのが婚約破棄で無しになった。それを取り戻せて大喜び。


(貴族界では、相手にされなくなったのね。王子の元婚約者なんて何の役にも立たないから。やりたくない、婚約披露なんて。私は、2度目よ。10歳の時にやったんだから。)


アンジェラは、繰り返す。どーせ、どーせ、婚約破棄するんだから無駄よ!


(あら、何か落ちたみたい。何かしら?)


コロンーとアンジェラの頭から落ちたのは、恋の魔法。アグアニエベが振りかけた惚れ薬の残り。強固な防御魔法によって弾かれました。でも、ほんの少しだけ目の上に付いている粉。イメージがボンヤリと残っているのだ。


『私の名前は、・・・。都のゴメス商会で・・しています。』


イケメンの顔は忘れません。名前を忘れていても。
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