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(30) 狙われた王子
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探し当てたパトリシアは代わりの部屋中寝台に寝ているファビアンに呼び掛けた。
「ファビアン、大変だったな。火事か?」
現れたパトリシアが話かけても返事が無い。寝返りを打って無視する。パトリシアは、フランソワを思い出していた。
(エドときたら、自分のプライドが傷つくとスネルんだよなー。)
扉に向かって歩く足音に、ファビアンは跳ね起きる。
「おい、早いだろ。帰るのが!」
「だって、寝てるでちゅう。」
「腹が減ってんだよ、食べさせろ。」
「分かった分かった、引きずるな!」
ズルズルと引いている事にファビアンは気がついて、慌てて手を離す。そうだ、パトリシアは小さな女の子だ。忘れていた。
「ごめん、ごめんなさい、パティ!」
「ほら、泣くな。さっさと、食えよ。」
情けなくなったファビアンは、ラーメンを食べながら泣く。二本の棒で掴めないから、救い上げ。
「これ、旨い。この前の真っ黒なスープカレーと違うけど。これも、召喚された勇者が広めた食べ物なの?」
「そうだよ、日本とかから来てたらしい。部屋は火を点けられたのか。寝てられないな。」
「結婚式が延期になってから、事故が増えて。新居の別邸もこわされたんだ。」
「へえ、焦ってんのかな。お前、Xられるぞ。」
ファビアンは、口に入れたラーメンの麺を喉に詰まらせかけた。そんな事、平気で言わないでほしい。
「ゴホッ、ゴホッー。」
「ほら、ウーロン茶だ。王様は、何て?」
「変わらないよ、聞き流してる。僕なんか、どうなってもいいんだ。代わりは居るから。」
「やっぱり、考えた方がいいよ。長生きしたかったら。」
「うん、したい。パティと結婚して長生きしたい!」
パトリシアは、スカートのポケットから何かを取り出した。
「やっと、出来上がったんだ。作ってた薬が。」
「薬って、病気の?」
「違う違う、一粒で楽になれる薬だ。」
「楽になるって、何が?」
「苦痛も感じずに、眠るように旅立てる。あっという間に終われるよ。飲むかい?」
「それって、あの世へ行くって事じゃないか。嫌だよ!」
怒って睨み付けるファビアンに、パトリシアは笑った。おかしそうに。暗殺者に狙われて苦労してるのにとファビアンは怒っていた。
止まない刺客の攻撃。王子の生死に父親である王様は、無関心。なので、王宮で必死に守る者も居ない不幸。
本日のファビアン王子は、会見の間で外国からのお客様にご挨拶。王位継承者になる日が近くなると公務も多くなる。
(嫌だな、嫌だな。寝室に閉じ籠っていたいよ。仕事なんかしたくないよ。命を狙われてんだよ、心配してよ!)
心配してくれるのは、婚約者のパトリシアだけ。それだけは、確信が持てるファビアンだった。
挨拶を終えて、急いで部屋へと戻る。自分の安全地帯だ。パトリシアが付けてくれた警備のカエルさんが守ってくれるし。
「来たぞ、行けーー!」
待っていたよな男達に部屋に連れ込まれる。抵抗しても、微力なファビアンでは敵わない。
カーテンの閉じられた暗い部屋の中に、何本もの剣が光る。刺されたら痛そうだ。
(痛いだろーな。こんな事なら、パティの薬をもらっておくんだった。痛くないのなら。あ、同じ事あったな。え、僕の頭に何が見えてるの?)
突然、鮮明に記憶が蘇る。転生する前のエドワード・ランスロットのだ。
『エド、新しい薬だ。苦痛も感じずに眠るように旅立てる。飲んでみるか?』
そんな物は必要ないと、エドワード・ランスロットは怒って喧嘩になったんだった。
でも、戦って死ぬ時に思ったんだ。
『強すぎる、負けるぞ!痛いのは、嫌だな。あの薬をもらっておくんだった。』
屈強の魔法使いと恐れられたドルウ・ゴメスに、もう一度、会いたい。
あんたが、大好きだったぜ。次に会う時は、女になっていてくれ。俺が、結婚してやるから。お前に言えなかったけど。
愛してたんだ、誰よりも。
「ファビアン、大変だったな。火事か?」
現れたパトリシアが話かけても返事が無い。寝返りを打って無視する。パトリシアは、フランソワを思い出していた。
(エドときたら、自分のプライドが傷つくとスネルんだよなー。)
扉に向かって歩く足音に、ファビアンは跳ね起きる。
「おい、早いだろ。帰るのが!」
「だって、寝てるでちゅう。」
「腹が減ってんだよ、食べさせろ。」
「分かった分かった、引きずるな!」
ズルズルと引いている事にファビアンは気がついて、慌てて手を離す。そうだ、パトリシアは小さな女の子だ。忘れていた。
「ごめん、ごめんなさい、パティ!」
「ほら、泣くな。さっさと、食えよ。」
情けなくなったファビアンは、ラーメンを食べながら泣く。二本の棒で掴めないから、救い上げ。
「これ、旨い。この前の真っ黒なスープカレーと違うけど。これも、召喚された勇者が広めた食べ物なの?」
「そうだよ、日本とかから来てたらしい。部屋は火を点けられたのか。寝てられないな。」
「結婚式が延期になってから、事故が増えて。新居の別邸もこわされたんだ。」
「へえ、焦ってんのかな。お前、Xられるぞ。」
ファビアンは、口に入れたラーメンの麺を喉に詰まらせかけた。そんな事、平気で言わないでほしい。
「ゴホッ、ゴホッー。」
「ほら、ウーロン茶だ。王様は、何て?」
「変わらないよ、聞き流してる。僕なんか、どうなってもいいんだ。代わりは居るから。」
「やっぱり、考えた方がいいよ。長生きしたかったら。」
「うん、したい。パティと結婚して長生きしたい!」
パトリシアは、スカートのポケットから何かを取り出した。
「やっと、出来上がったんだ。作ってた薬が。」
「薬って、病気の?」
「違う違う、一粒で楽になれる薬だ。」
「楽になるって、何が?」
「苦痛も感じずに、眠るように旅立てる。あっという間に終われるよ。飲むかい?」
「それって、あの世へ行くって事じゃないか。嫌だよ!」
怒って睨み付けるファビアンに、パトリシアは笑った。おかしそうに。暗殺者に狙われて苦労してるのにとファビアンは怒っていた。
止まない刺客の攻撃。王子の生死に父親である王様は、無関心。なので、王宮で必死に守る者も居ない不幸。
本日のファビアン王子は、会見の間で外国からのお客様にご挨拶。王位継承者になる日が近くなると公務も多くなる。
(嫌だな、嫌だな。寝室に閉じ籠っていたいよ。仕事なんかしたくないよ。命を狙われてんだよ、心配してよ!)
心配してくれるのは、婚約者のパトリシアだけ。それだけは、確信が持てるファビアンだった。
挨拶を終えて、急いで部屋へと戻る。自分の安全地帯だ。パトリシアが付けてくれた警備のカエルさんが守ってくれるし。
「来たぞ、行けーー!」
待っていたよな男達に部屋に連れ込まれる。抵抗しても、微力なファビアンでは敵わない。
カーテンの閉じられた暗い部屋の中に、何本もの剣が光る。刺されたら痛そうだ。
(痛いだろーな。こんな事なら、パティの薬をもらっておくんだった。痛くないのなら。あ、同じ事あったな。え、僕の頭に何が見えてるの?)
突然、鮮明に記憶が蘇る。転生する前のエドワード・ランスロットのだ。
『エド、新しい薬だ。苦痛も感じずに眠るように旅立てる。飲んでみるか?』
そんな物は必要ないと、エドワード・ランスロットは怒って喧嘩になったんだった。
でも、戦って死ぬ時に思ったんだ。
『強すぎる、負けるぞ!痛いのは、嫌だな。あの薬をもらっておくんだった。』
屈強の魔法使いと恐れられたドルウ・ゴメスに、もう一度、会いたい。
あんたが、大好きだったぜ。次に会う時は、女になっていてくれ。俺が、結婚してやるから。お前に言えなかったけど。
愛してたんだ、誰よりも。
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