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(5) 側に居たい

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でも、でも、やっぱり、気になるんです。私としては彼が。


(ゴメスさんのお父さんでもあるわけでしょ。)


パトリシアさんの中にゴメスさんが居ますから。ゴメスさんのお父さん。もし、結婚したら私の義父?きゃーっ!(ゴメスの父親となると違う)。

いきなり、赤くなってクッションで椅子をバンバンやり出したエレンに問いかけるパトリシア。


「で、どうだった?」

「どうって?バンバン!」

「呪文だよ、魔法の。」

「効いてました、とっても。バンバン!」

「なら、良かったでしゅう。」

「はいー、バンバン!」


舌ったらずになったり、男言葉になったり。それって、呪いのせいですか?呪いは一生とれないのかしら。とれないと結婚できないでしょ。私、呪いがあっても良いですけど。


「きゃーっ、イヤイヤおー。バンバン!(動揺している)」

「シモン君の部屋を用意させてるでしゅ。見に行きまし。」


知らなかったのだけど、弟が退院して後に暮らす部屋が用意されていた。エレンの部屋と同様に改装したばかりだ。パトリシア(ゴメス)は、気配りをする人だというのが分かる。


「足りない物があったら、取り寄せましゅ。エレン?」


エレンは、涙が溢れるのを止められない。赤の他人なのに親切にされてるから。ほら、また。手に握らされるアイロンのかかったハンカチ。


「あうあう、ひーん。」


口の中でゴニョゴニョと言ったら「ありがとうございます」にならなかった。お願い、優しくしないで。優しくして欲しいけど。私のして欲しい事をしないで。期待してしまうから。何もお返し出来ないもの。


(私を好きになってくれたら、いいのに!)


好かれてるのなら、遠慮なく甘えられるのに。貴方が化け物でも幽霊でも、離れないのに。

貴方が人間では無くて不死の身体でも、私が年をとってお婆ちゃんになっていっても、側に居たい。それまで優しくしてくれた誰もが背を向けたの。救ってくれたのは、貴方だけなの。


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