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(12) 優しい貴方

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泣いて喜ぶ村人達の相手をして疲れたエレンは、居間へ入って驚いた。


「お母さま・・・!」


居間の暖炉の上に飾られた大きな肖像画。花嫁衣装の美しい娘の姿。その面影は、エレンに似ている。

パトリシアが、泣き出したエレンにハンカチを差し出した。



「財産を奪った君の叔父の夫婦は、破産すると全てを売り払った。この屋敷の記憶からコピーしたのだけど、所詮、偽物に過ぎない。許してくれ。」

「いいえ、ありがとうございます。充分です!」



例え、写し絵だろうと嬉しい。それが、パトリシアの心使いなら尚更だ。全て、自分の事を考えてした事だから。

エレンの両親の突然の死亡。エレンの弟が正式な相続人なのに、屋敷から葡萄畑まで何もかも取り上げられて追い出された。


「シモンと乗せられた馬車で、遠縁を頼って行ったのですが。付いていた召し使いにお金も持っていた物を盗まれてしまって。もう、どうして良いのか分からなくて不安で不安で!」


母親の肖像画を見ながら、エレンは涙が止まらない。あの時、パトリシアに拾われなかったら。どうなっていたか。

ここを出てから、半年ほどしか立ってないのに数年が過ぎたように感じている。パトリシアが、横に立った。


「君が、弟が成人して主人になるまで頑張るんだ。大丈夫、魔法の呪文があるだろ?」


もらい泣きしていたエリザベスが、保証する。


「何なの?私なんて、刺客に殺されかけた時に呪文で逃げ出せたわよ。呪文を唱えたら、エレンの家のクローゼットに入ってたもの。」


何回も聞かされたエリザベスの危機脱出の話。

エレンは物音に気がついてクローゼットを開けたら、黒い袋を被った侵入者に驚いて悲鳴を上げた顛末。
屋敷の召し使いが駆けつけて騒動になった。助かったから笑い話だ。



エリザベス「何なの?私達が居るでしょ。」

ガブリエル「そうよ。私達が守るわ。」

エドワード「おっと、僕も忘れないでね。」



彼等が側に居るなら、不安になる事は無いだろう。エレンはハンカチで涙を拭きながらパトリシアを見た。この人が居る限り、大丈夫。だって、最高の魔法使いですもの。大好きです!



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