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(13) 待たれていた契約の時

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広大な葡萄畑も、かっての姿は無い。荒れ地になった畑に、エレンは戸惑う。


「どうしてなの?半年前は、葡萄は元気だったのに。」


案内した農夫は、妙な事を口にする。


「呪いにかかったとしか、思えないんです。お嬢様。」


ある日、次々に葡萄が枯れだしたと言うのだ。叔母夫婦は何人もの専門家を呼んで調べさせたが、原因は分からなかったらしい。

両親が大事にしていた葡萄が駄目になっていたので、エレンは元気が無くなってしまった。


「駄目だよ、食べないと。うちの執事の料理が好きだろ?」


エドワードの執事が作った料理をエドワードとパトリシアがドアから運んで来る。
執事は遠い土地へ運び込んだとは考えもしないだろう。

パトリシアが、窓の外を見て言う。


「皆さん、夜になったらお客様が来ます。挨拶をして下さい、丁重に。」


前置きして注意をするのは、身分の高い者なのか。好奇心に、皆で外を気にし出す。誰が来るのだろう。知らない土地で。










夜の8時くらいだろうか。玄関の扉の外で音がする。到着したらしい。エドワードが、走って行った。誰なのか、知りたいからだ。


「ようこそ・・、ええっー!」


エドワードの驚いた声に、エリザベスは飛んで行く。そして、同じように声を上げた。


「何なの?ええっー!」


玄関の扉を押し開ける小さな手は、小さな妖精達だった。そして、開けられた扉から光に包まれた若者が入って来る。滑るように。

その背には、透き通った羽根が輝いていたのだ。頭の中に流れ込むのは、情報。彼が誰なのかを教えていた。


『こちらは、妖精の王様ですー。』


エドワードとエリザベスは、呟く。驚愕(きょうがく)して。


「まさか、妖精の王様?」「何なの?本当に、妖精の王様なの!」


美しい女性のような顔をした若者は、居間から出て来たエレンを見つけて微笑んだ。優雅に会釈する。


「こんばんは、エレン令嬢。再会できて嬉しく思います。」


エレンはフラフラと妖精の王の前に歩み膝まつく。 妖精の王は微笑んだ。


「エレン・カーター。この日の来るのを待ち望んでいました。契約を成し遂げましょう。」


この夜、エレンは妖精の王の訪問を受け祝福を授けられた。妖精の守護を受ける事になったのだ。

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