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(22) 大嫌いです

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エレンの部屋から聞こえてくる楽しそうな女性たちの笑い声。どうやら、ゴメス商会のカタログを見て晩餐会へ着ていくドレスを選んでいるようだ。

自分の部屋の入ったエドワードは、顔をしかめた。


「また、やっちゃった。僕って、感情が出ちゃうんだ。」


王子と生まれて感情を隠す癖は身に付いているはずなのに。転生前の自分が出るようになった。表面は仲良くしている女性たち。だけど、時々、苛ついてしまう。それは、前世の記憶が蘇ったからだ。

その原因は、テレサ・エバンスという商人の女。


「ゴメスの婚約者だった女。だけど、自分の利己的な考えでポイ捨てできる浅はかさ。奴は本気で掘れてたのに!」


後1ヶ月て挙式という時に悩んでいる様子だったのは、マリッジブルーか。試しに口説いてみたらエドワードの求婚を受け入れたのだ。信じられない事をする。


「結婚式前に捨てられたゴメスが、どんなに苦しんでいたか。でも、そんな女と結婚させたくなくて我慢したんだ。我慢し過ぎて戦死したのかも。ゴメスに絶交されてたから、寂しくて!」


好きだよ、誰よりも。僕の命なんか惜しくない。君の為になら、また、やれる。ゴメスを騙す女は近づけさせないから。似てるんだよ、彼女にガブリエルが。ゴメスが彼女を見て思い出してるのを気がついているんだよ。

絶対に、2人が親しくなるのを阻止してやるんだ!









商品化して売り出す事の決まった栽培したリーフに、それを包む布袋を村の女性達が縫うことになった。

エレンの叔父が逃げるように去ってから定期収入の無かった女性達は大歓迎。その責任者をエリザベスが引き受ける事になる。


「こんにちは。リーフの袋を持って来ましたの。」


門番は顔馴染みになったエリザベスを笑顔で入れてくれる。彼女が美人だから、愛想が良い。荷物を乗せた馬車は門の中へ入った。


「やあ、エリザベスさん。お客様に袋を見せてくれないか。」


伯爵が出て来て声を掛ける。挨拶したエリザベスは、馬車から降ろした商品の箱を伯爵の連れて来た客に見せる。顔を見て驚いた。


(何なの?この人が、お客様ですって!)


それは、知っている相手だったからだ。それは、彼女を婚約破したジェラルド王子だったのだ。王子は、見つめるエリザベスに話かけてくる。



「こんにちは、お嬢さん。あなたは、どなたかのご令嬢でしょうか?」

「いいえ、私は平民でございますわ。エリザベス・ゾイといいますの。何なの?オホホー。」



ジェラルド王子が自分を覚えてないのに、胸を撫で下ろす。パトリシアが魔法で処理したと言っていたが、こういう事なのか。どうやら、別の人物に見えてるらしい。

慌てて村に帰ると、「茹で玉子」のメンバーに教えて回る。伯爵の城に来ているのなら、会う可能性が高いからだ。





だが、嫌でも顔を合わせなければいけなくなった。

伯爵がジェラルド王子の為に晩餐会を催し、皆を招待したからだ。出ないわけにはいかない。
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