異世界と剣と魔法とダルマな彼女

ユタポンヌ

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異世界と哀れな少年

第7話 剱の理由

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  空城 剱クウジョウツルギ視点。


  レオンとかいう男に蹴られ意識を失い。
  目を覚ましたらそこは馬車の中だった。

  強く蹴られた腹部に痛みは無く、聖子セイコが治してくれたんだろう。

「どれぐらい気を失ってた?」

  と俺が聞くとアヤが、

  「4時間ぐらいかしら?」

  と教えてくれる。
  そして目の前の座席には聖子と、コズエがいて寝息を立てているが、その目元が赤くなっているから多分二人とも泣いていたんだろう。

  8人ものクラスメイトを失ったんだ。
  無理もない、これが普通の反応だ。

  それに比べて、田中のした事は到底許せる事では無かった。
  クラスメイトを助けられるだけの力がありながらクラスメイトを助けなかったのだ。

  しかも、田中はクラスメイトが死んでも何も感じないと言ったのだ。確かに彼等は田中を苛めていたかもしれない。
  しかし、それは死ぬほどの事なのだろうか?

  田中を皆で苛めはしたが、田中は現に死んではいないのだし。
  死んで償うべき事だったのだろうか?

  酷い話だ。

  ふつふつと怒りがこみ上げて、手を『ギリ』っと強く握ると、彩が俺の手をそっと握る。

  「大丈夫?これから夜営するみたいだから剱も少し寝たら?」

  「夜営?」

  そういえば馬車が揺れてない。

  「そう、兵士と冒険者達で警備をしてくれるみたいだから何かあれば起こして貰えるでしょ、、、それもとも、、する?」彩は俺の股間を見て、「お口でしてあげよっか?」そう言って少し笑った。

  「ありがと、でも今は大丈夫だよ、流石に二人の前ではね」

  「あら?だから楽しいんじゃない?」

  そう小声でおどける彩に俺は微笑んで返した。

  寝ている二人を起こさない様に静かにしていると、外からは何やら話す声が聞こえた。
 
  田中の声だ。

  そしてその田中の奴隷だという女の声も聞こえる。
  この世界に奴隷がいるという事にショックを覚える。

  そしてそのクラスメイトがその奴隷を持っているという事にも。

  「この世界では奴隷は当たり前なんだろうか?」

  そう小声で彩に聞く。

  「そうみたいね」

  「まったく、信じられん。女性を、それもあんな綺麗な女性を奴隷として扱うなんて」

  「ずいぶんあの胸の大きな子の事が気になるみたいね?」

  「いや、そうじゃないよ、あまりにも可哀想だと、、、」

  「ふぅん」と言う彩が俺の事を怪しむ様な顔で見てくる。
 
  確かに綺麗な女の子で嫌いな感じでは無いが、

  「いや、腕も足も無いのに可哀想じゃないか」

  「でもホントよねぇ。きっと足も腕も治させずに無理矢理エロい事をしてるんじゃないの?」

  「そ!そうなのか!」

  思わず大きな声が出ると、彩が指を口の前に立てて、「シィー」っと言った。

  俺は慌てて小声で、「だからか、だからあんなに強くなったのか、、、」

  おかしいとは思ったんだ。
  田中は運動神経は悪くは無いが、俺のスキルをことごとくあそこまで捌くとはあまりにも予想外。しかしそれが神様より授かったスキルの恩恵なのだとしたら納得がいく。

  田中は女性と性行為をする事で強くなるスキルを持っていたはずだ。

  「なるほどな、、、」

  「本当に可哀想ね、もしかしたら田中は闇魔法の使い手かもよ?闇魔法の中には人の心を縛ったり、操ったり。快楽魔法なんて物もあるって聞いたわ」

  「闇魔法か、、、」

  確か、闇魔法とは邪神を崇める事で使える魔法だったはずだ。

  この世界には神様は二種類ある、良い神様と、悪い神様だ。

  そして良い神様っていうのが、主に人間や獣人に信望されている神様。悪い神様っていうのが、主に魔族に信望されている神様の事だ。
  そして、良い神様にお願いして起こしてもらう魔法を『奇蹟』って呼んで。悪い神様にお願いして起こしてもらうのを『魔法』って呼んでいる。

  とは言っても、傷を治す奇蹟も『神聖魔法』と呼ばれており、どうも呼び方は混同されている様だが。

  そして、悪い神様を信望すれば直ぐ闇魔法を使えるかというとそうでは無い。

  適正だ。

  これにはカルマという物が関係しているらしいが、普段の行いが良いものであれば良い神様との関係が濃くなり、悪い行いを続けていると悪い神様との関係が濃くなり、やがて闇魔法が使える様になるらしい。

  つまりは、『行いが魔法の適正に左右される』というのだ。

  そして闇魔法と、田中という人間。
  マリアと呼ばれる田中の奴隷は、田中の事を『神にも等しい』と言っていたが、どう考えても田中と神様は結び付かない。田中と結び付くとしたらどちからというと邪神の方か。
  
  なんせ田中はオークとドワーフを足して2でかけた様な顔をしているんだ。

  マリアという女性が言ったのも神は神でも邪神の事ではないのか?

  だとしたらあまりにも可哀想だ。

  治せる傷を治されずに体を弄ばれもてあそばれ、強姦され、田中の事を神の様に静かに敬うように強要される。

  誰かが助けてあげなければ。

  そう思い馬車の扉をゆっくりと開けると、田中が兵士さんに向かって無理難題を吹っ掛けているのを見た。

  「賠償金としてまず金貨1000枚とぉ、異世界人を国で一人養うのに掛かってる経費を1日金貨10枚としてぇ、それを僕にも生活費として月に300枚だからぁ、この世界に来て、半年は経つから、金貨1800でぇ、だからまずは金貨2800枚払って貰うとしてぇ、さらにそれを今後も払ってもらうとなるとぉ、、、」

  「程々にしたまえ」

  俺がそう言いながら近付くと皆の視線が俺に向いた。

  「そんな恐喝みたいな真似をするものではない」

  「恐喝?何処が?兵士さんの方から『いくら払ったら良いか』聞いてきている事に、『いくらだ』と伝える事が恐喝なの?」

  そう言う田中の言葉には珍しくトゲがあった。

  「恐喝だ!どんどん金額を吊り上げようとしていたじゃないか!」

  「どうでも良いけど小さい声で喋れないの?寝てる人がいるんだよ?お前達を警護するためのさ」

  「それは、、悪かった」

  確かに回りには座ったり転がったりして寝ている冒険者がいた。

  「しかし、君のやっている事は到底許せる事ではない」

  俺がそう言うと田中は表情を変えずに、

  「何が?」

  と言った。
  普段田中は喋ればコロコロと表情を変える表情の豊かな男なのだが、田中は表情を変える事が無く、今その目は鋭く冷えていた。

  「大体、そのマリアさんの腕と足はどうして治してあげないんだ?この世界には魔法があって手足の欠損は治してあげる事が出来るんじゃないのか?それを治しもしないで、、、」

  田中は冷めた目で俺を見るだけで何も喋らない。

  「田中君は確かに僕に勝ったが、もしかしてそのマリアさんを強姦して得たものじゃあないだろうな?しかも、そのマリアさんが田中君の事を神の様に扱っている所をみると、もしや闇魔法を使ってマリアさんの心を操っているんじゃあないのか?おい!どうなんだ?黙ってないで何か言いたまえ!!」

  そう捲し立てると、田中はユラリと魔力を纏って。


  「死ぬか?」


  その言葉と共に田中から放たれた怒気に思わず足が震える。
  俺は思わず兵士に助けを求める様に視線を泳がせるが、兵士も俺を冷たく見るだけで、回りの冒険者やマリアさんも助けに入ってはこない。

  何より、田中だ。

  その体に魔力が満ちていているのだが、その量が明らかに俺を上まっていて俺は思わず後退ろうとするが、

  「クッ」

  震える足が上手く動かず尻餅を付いてしまう。

  その瞬間田中は腰の剣を抜くとなんの躊躇いも見せずに俺の胸を貫いた。

  「「ギャアァーー!」」
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