異世界と剣と魔法とダルマな彼女

ユタポンヌ

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異世界と哀れな少年

第24話 三年間の

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  異世界での生活はとても良くって。 
  何となくだけど僕の体にはとても合っているのだと思う。

  テレビも無いし。
  コンビニも無いし。
  ファーストフード店も無い。
 
  不便極まりない。
  でも全然かまわない。マリアも居るし、剣の師匠のレオンさんがいたり、神殿に行けばジルさんや、僕の顔をディスってくる神殿長がいたり。
  そんな感じで、ちょっと問題のある人はいるけど、でも大丈夫。
  みんな大切な隣人だ。  

  そして食べ物にも困ってない。
  異世界にも地球の食べ物が少量だけど出回ってるし、テリマヨバーガーなんて物までこの世界で食べる事が出来た。

  住むところは神様のお陰でラブホテルに泊まる事が出来るし。

  とてもこの世界は住みやすいのだった。
  そしてこの世界で生きる事が楽しく感じられる何よりも大きい理由が、

  学校も無いことだ。
  いろんな物が異世界にはないのだが、

  学校も無い。
  これが僕の異世界生活を楽しく感じさせている一番の原因だろう。

  学校では苛められていたから。

  身の回りの物が隠されたり、謂れの無い暴力を受けたり、仲間外れにされたり。

  そんな記憶ばかりだ。

  その嫌な記憶の真ん中にいる二人に会ってくれとクロードさんに言われた。

  クロードさんがそう僕に頼むのだから、それはきっと僕の為にも言ってくれているのだろう。
  人間関係を修復した方が良いだろうという大人の考えだ。

  道理的で、人情的で、
  思い遣りから出た行動だと思う。

  だけど、
  それは僕の為にはならない・・・・

  断じて僕の為にはならない。
  僕の為では無い。

  彼等の事を許せと言うのなら、彼等のしてきたことを許せと言うのなら、それは僕の為にはならない。

  そんな思いの中でクロードさんが先導するその後を歩く。

  僕の見た目は怖いのでイライラしても顔に出さない様に普段しているのだけど、今僕はそれをしていない。
  さぞかし恐ろしい顔をしているだろう。

  人とすれ違う時は下を向いて顔を隠した。
  そして堪えきれない感情を抱いたまま広場に通され、二人を見付けると思わず睨んだ。

  すると二人が息を飲むのがわかる。

  その二人の方へとどんどん歩いて距離を縮める。

  学校で二人の姿を見ると『殴られるんじゃあないか』という感情からいつも体を固くさせていたが。
  今はそんな事はない。

  むしろ荒事になったら大体対処出来る自信がある。

  二人からも僕に怯えている雰囲気はあるけど、僕以上の力を感じ取れない。国王様や、レオンさん、クロードさん、のはるか格下。
  僕でも十分二人同時に相手取れるだろう。

  そして二人のすぐ前に立って、二人を見つめるのだけど、
  二人はおずおずと怯えた表情で、
  中々喋ろうとしない。

  しびれを切らした僕が、

  「何か用?」

  そういうと、
  山田君がやっと、

  「今まで悪かった」

  小さな声で言った。
  それにつられて、

  「俺も悪かったよ」

  村田君もそう言った。
  だけどそう言っただけで黙ってしまう。
  二人は身を縮めながら、視界の隅で僕をチラチラと観察している。

  「三年間僕を苛めておいてそれだけ?『悪かった』の一言で僕が君らを許せると思ってるの!」

  僕の声がどんどん荒く成っていく。

  「どんな思いで学校に通っていたのか!わかってるのか!」

  僕がそう怒鳴っても二人は黙ったままで、
  二人に近付くと、二人の胸を両手で、『ドン』と押した。

  二人は大袈裟に倒れて、『ズサッ』っと尻餅を付くが黙ったままだ。

  「大体お前らは一方的に殴られる痛みとか、恐怖とかそういうものをわかってるのかよ!」

  僕は倒れた二人に摘めよってさらに捲し立てる!
 
  「どれだけ僕が苦しい思いをしたか!わかってるのかよ!」

  そこで黙ったままだった山田君が恐る恐るって感じで、自分の袖をめくって、

  「分かるよ、嫌だよな、一方的に殴られるのはよぉ痛てぇよなぁ」

  そう言った。
  すると山田君の地肌が見える。

  「分かるよ、、、。怖いよなぁ、痛かったよな」

  山田君の地肌には大きな火傷の痕があった。
  村田君もゆっくりと袖を捲るのだが、そこにも点々と火傷の痕がある。

  「なんだよ、それは」

  「俺達はずっと親から虐待を受けてたんだ。だからわかるよ」山田君はガタガタと震えながら怯えた顔をしている。「その苦しみをお前にぶつけて発散させてたんだよ、、、ゴメンよぉ、ゴメンよぉ」

  「ふざけんなよ!そんなの僕には関係無いじゃないか!なんで八つ当たりで僕が殴られなきゃいけないんだよ!」

  「ゴメンよぉ、ゴメンよぉ」

  体を小さく縮めてガタガタと震えながら謝る山田君は虐待に怯える小さな子供にしか見えなくなっていて、

  「三年間だそ!三年間ずっと!ずっと!それを『ゴメン』った言われたからって許せると思ってんのかよ!」

  「ゴメンよぉ、ゴメンよぉ」

  「ふざけてんじゃねぇよ!」

  そう必死で僕は怒鳴ってはいるが、
  降り下ろす為に振り上げた拳の降り下ろし先を失った事を察していて。
  それを隠す為に必死になって大声を張っていた。

  「謝ったら許されるなんて思ってんじゃねぇよ!」

  この時の僕はさぞかし滑稽だったと思う。
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