ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第五幕

最後の息子

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盗んだバッグに入っていた拳銃で強盗をしようとして、でもその拳銃が不良品で暴発したというアンドリーイの話に、イゴールも安和アンナも言葉がなかった。

そんな二人の前で、アンドリーイは続ける。

「拳銃が破裂してその破片を浴びて、僕は『ああ、これで俺は死ぬんだ……』って思ったよ。でも同時に、『これで楽になれる』とも思った。こんな世界とおさらばできるならそれでいいとも思ったんだ。だけど、僕がその時に強盗を働こうとした相手が吸血鬼でね。僕は眷属になったことで生き延びたんだ」

そこまで話したところで、アンドリーイはいったん話を中断し、自分が注文したコーヒーを口にした。するとイゴールが、

「その吸血鬼は、今はどうしてるんだ……?」

と尋ねる。単純に気になったんだろうな。それに対してアンドリーイは、

「亡くなったよ。夫婦だったけど、二人とも寿命でね。僕と出逢った時にはもう長くなかったみたいだ。それでも二十年は一緒にいられて、実の息子みたいに大事にしてもらえた。二人にとって僕は最後の息子だったのかもしれないね」

穏やかに微笑みながら応えた。その上で、

「僕は本当に二人の息子として育てられたことで、新しい僕に生まれ変わることができた。その上で成長することができた。暮らしは裕福とかそんな感じじゃなかったけど、すごく充実してたよ。それまでできなかった勉強もたくさんできた」

と語り、さらに、

「だけどそのおかげで、僕は自分の名前を間違えて覚えてたことを知ったんだ。実は両親が間違えてて、両親から教わった僕も間違えたまま覚えてたんだよ」

今度は苦笑いを浮かべながら口にする。

現代じゃそういうことも減ったのかもしれないけど、昔は文字を間違えて覚えてるなんてことも珍しくなかったそうだ。満足に学校とかにも通えなかったために、間違いが正されることがなかったっていう事例も少なくなかった。周囲の大人達も学校とかに通ってなかったから誰もその間違いに気付けなかったんだね。

そんな形で文字が変遷していった事例もあったらしい。

人間の寿命は短いから、昔は情報が途切れがちになり、正しい情報を持つ人間との出会いも限定的で間違いが正されずに時間が経って間違ったまま広まってしまって、ということか。

吸血鬼の伝承についても似たようなものだね。間違ったまま伝わって正されることもなく定着してしまって、それをまた人間が創作とかに使うからますます正しくない伝承が残ってしまう。

その点、吸血鬼は寿命が長いから、情報に齟齬があっても修正できる機会がそれだけ多いんだ。

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