愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボット主任、アリシアの細腕奮戦記

千堂アリシア、楓舞1141-MPSと対峙する

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<バーチャル演習場>

それは、JAPAN-2ジャパンセカンド社のホストAIが直轄管理する専用AI内に設けられた戦闘シミュレーション用のフィールドである。

そこで、被検機体のAIをリンクさせて戦闘シミュレーションを行う。

千堂アリシアは戦闘モードの使用については制限があるものの、相手が人間でなければ重大な論理衝突は起こらないことは確認されている上に今回はシミュレーションなので、問題はないことは分かっている。その上でもちろん注意深くモニタリングされて何らかの異常が確認されれば即時中止される。

「それじゃあ、お互いに無理のないように」

監督役のエリナ・バーンズの指示を受けて、アリシアと楓舞フーマ1141-MPSは、ほぼ障害物のない荒野を再現したバーチャル演習場で対峙した。今回は単純に双方の戦闘力を測るだけのものなので、そこが選択された。双方共に完全に標準状態が再現されて、特別な装備は用意されていない。なので、アリシアの外見も、完全に出荷時のアリシア2234-LMNの姿になっている。

『うふふ♡ この姿も久しぶりですね』

最近は人間と同じように<服>を着ることの多かったアリシアは、本来の姿に戻ったことにそんなことを考えていた。しかしもちろん、<仕事>なので浮かれたりはしない。

なお、アリシアも楓舞フーマ1141-MPSもロボットなので人間のように音声での指示は必要ないものの、これはあくまで人間の側の感覚に配慮した<分かりやすい演出>なので、それ以上の意味はない。

「では、シミュレーション、開始!」

エリナの合図と共に、アリシアと楓舞フーマ1141-MPSは、初撃から様子見はなかった。基本的に相手のスペックは分かっている。となればまず自身が繰り出せる最大の攻撃で撃破を狙うだけだ。

とは言っても、戦闘用としての開発が行われている楓舞フーマ1141-MPSとアリシアでは、実は真っ向からぶつかり合っては勝負にならない。

要人警護仕様のメイトギアはあくまで<動く盾>であり、生身の人間相手であれば容易に圧倒できる程度の性能は有しているものの、最初から戦闘を目的に作られているロボットが相手では攻撃力が足りなかった。

加えて、楓舞フーマ1141-MPSに搭載されている戦闘用アルゴリズムは、他ならぬアリシア自身のデータを基に新開発されたものである。

それが、共に一切の様子見なしで全力でぶつかったのだから、結果は目に見えていた。

アリシアの掌底が楓舞フーマ1141-MPSの鼻っ柱を捉えるよりも早く、楓舞フーマ1141-MPSの牙がアリシアを捉え、彼女の首は容易くもぎ取られたのだった。

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