200万秒の救世主

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
34 / 93

大人の責任

しおりを挟む
アリーネさんが担当できる分、百体の怪物を倒して、いよいよ僕が残りを片付けないといけなくなった。

後、百五十弱。

だけど、僕の体はますます言うことを聞かなくなってきている。既に処方された痛み止めも残り少ない。痛み止めについては、最悪、病院から拝借してくればいいかもしれない。薬を勝手に持ち出せば病院側に迷惑が掛かってしまうのは分かっていても、もう既に僕にはそれを気遣う余裕は残されていなかった。

勝手にどこかから調達してくるアリーネさんは別にして、僕と吉佐倉よざくらさんとみほちゃんとエレーンさんとシェリーちゃんの飲食費で所持金も底をつき、申し訳ないと思いながらも大手スーパーから無断で拝借してくる状態になった。

それでも、一つの店舗でそれをすると被害が大きくなると考え、なるべく毎回別の店舗から調達することを心掛けた。

「泥棒させてしまってすいません」

エレーンさんが、スーパーから出てくる吉佐倉さんに向かって申し訳なさそうに頭を下げた。ああ、いい子だなあ。

みほちゃんも、

「あとでちゃんとかえしたらだいじょうぶだよね?」

って心配してくれる。

だけどここは敢えて、

「後で返すつもりでも、勝手に持っていったら泥棒なんだよ。だから僕が、責任を取らなくちゃいけない。僕は大人だからね」

と説明した。

「そんなあ……」

みほちゃんが悲しそうにそう言った。

「大丈夫、ちゃんと説明したら分かってもらえると思うし、『コラッ!』って怒られるだけで済むと思うよ」

それでも納得できないみほちゃんは、

「じゃあ、わたし、がまんする。おなかへってもがまんする! おじさんやおねえちゃんがおこられるのイヤだ」

とまで言い出した。

なんて優しい子なんだろう……

だけど、

「ダメだよ。これはおじさんからの命令だ。みほちゃんはしっかり食べないとダメ。しっかり食べて、元気なままでパパとママのところへ帰らなきゃダメ。でないとおじさんとお姉ちゃんは本当にお巡りさんに捕まっちゃうよ」

「え~…?」

納得はできないみたいだけど、「わかった…」とは言ってくれた。そんなみほちゃんの頭を、僕はそっと撫でる。

「ありがとう。みほちゃんは本当にいい子だな…」

厳密に言えば、いくら食べ物を盗んだところで僕達の犯行だということはきっと立証されない。だから逮捕されたりもしないだろう。でも、そうじゃないんだ。『犯罪だと立証できないならやってもいい』って訳じゃないっていうことを、これから大きくなって社会に関わっていくことになるみほちゃんやシェリーちゃんやエレーンさんには分かってもらわなくちゃいけないんだ。

それが大人の責任だと、僕は思ったのだった。

しおりを挟む

処理中です...