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構造解析

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そうしてひめが砕氷さいひを目指す子供達を指導しているその一方で、ひめが掘り当てた<居住スペース>の方では、渋詞しぶしらによる調査が続けられていた。そこに、

「こんにちは。お邪魔します」

と、ひめが姿を表した。

「おう」

渋詞しぶしが短くそう返事をすると、一緒に作業をしていた阪丈はんじょう研果けんかが頭を下げる。

石斗こくと新万しんばんは別の部屋で作業をしていてその場にはいなかった。

「メンテナンスルームは確保してある」

「ありがとうございます」

そのやり取りが示すように、ひめは今日、砕氷さいひとしての仕事は休み、メンテナンスカプセルでメンテナンスを受けるために来たのだった。それを承知していた渋詞しぶしがそう応えたのである。

これまでにも何度もあったことなので、それ以上はやり取りもない。渋詞しぶしらは仕事に戻り、ひめはメンテナンスカプセルのある部屋へと入っていく。

『確保してある』という渋詞しぶしの言葉通り、そこは敢えて手を触れず、管理をすべてひめに任せることが決められていた。ひめにとって大切なものであるメンテナンスカプセルを下手に触って壊しでもしたら大変と、折守おりかみ市として決定したのだ。

事実、今の折守おりかみ市の技術では、メンテナンスカプセルの構造などについては理解することさえままならない。概要についてはひめからデータをして提供されていて技術者達が解析を行っているが、やはり殆ど魔法のようなものにしか見えず、何がどうしてそうなるのかがまるで理解できなかった。

特に、<ナノマシン>と呼ばれる、大きさ数ミクロンの極小ロボットについては、電子顕微鏡でその外観を見ることしかできなかった。構造を確認しようと思っても、どうやって触れていいのかも分からない。

もっとも、いきなりナノマシンそのものに触れようというのが無理な話なのである。ナノマシンは、それ専用のマイクロマシンによって製造されるので、まずそのマイクロマシンがなければどうすることもできないのだ。壊すだけなら極小の針で突けば壊せるしこれまでにも何度も<解体>したものの、その時点で完全に破壊されてしまって構造さえ分からなかった。

これもまあ、模式図がひめから提供されてはいるものの、やはり現物で確認したいというのは技術者達の本音なのだった。

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