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違う環境で生きるってんなら

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そうやって動作の一つ一つをトレーニングにしていくんだよ。その上で、時間がありゃあ、分かりやすい筋トレも行う。

『手だけで巣まで登ったり』

とかな。<見せる筋肉>を作るにゃあ余計な力の使い方をすることになるが、今の俺にとって必要なのは<実戦で使える筋肉>だ。目的が違う。見せる筋肉を作りてえなら、

<見せる筋肉を作るトレーニング>

をしなきゃいけねえ。それとは違うんなら、トレーニングも違ってくる。当たり前の話だろ?

と同時に、獲物の血も骨も丸ごといただく。たまに腹を下すこともあったけどよ。水分をしっかり取った上で出すもん出しゃ、どってこたあねえ。むしろ、俺の体がどんどんこの世界に合わせて作り直されていくのを感じるぜ。

いいな。いい。やっぱ、違う環境で生きるってんなら、自分の方が変わるのが筋だろ。

便利な道具もねえしな。

他の奴らにゃできねえことでも、俺にゃできるってんなら、やらねえ手はねえだろ?

こうやっていつでも迎え討てる準備はしてたんだけどよ。こうなると案外、出会わねえもんなんだよな。不思議と。

それでも準備はやっぱり怠らねえ。油断すりゃそこに来ることがあるってのも、あるあるってヤツだろ。

蟷姫とうきとしちゃ、あんな面倒くせえのになんざ関わりたくねえってのはあるかもしれねえけどな。

こっちに来てから日数なんざ数えちゃいねえから、正直、確かじゃねえが、前回からまあたぶん十日後ぐれえだったよな。

またあいつが現れたんだ。いや、『遭遇した』ってえ方が正確かもしれねえ。とにかくあいつが今、目の前にいやがる。

再戦ってわけだ。嬉しいぜ。

まあ、十日程度じゃあそれほど大して変わっちゃいねえだろうが、やれることはやったつもりだ。なら、今の俺がどれくらいのもんか、確かめてみてえよなあ。

「……」

蟷姫とうきは露骨に不機嫌そうな顔になってやがるが、それも、俺に勝てりゃ手の平返してくれるかもな。とか言っても実際はどうかは分かんねえけどよ。

ま、その辺もそうなってみりゃ分かんだろ。

だから俺は、こっちから近付いていってやった。久しぶりに顔を合わせたダチに挨拶するみてえにな。

そしたらあいつはビクッと体を跳ねさせたが、別にビビったわけじゃねえだろう。トラやライオンでも、相手が思いがけねえ動きをすりゃそんな反応もみせるさ。だから俺も油断はしねえ。『相手がビビった』と調子に乗るつもりもねえ。相手を侮るような奴あ、ただの間抜けだ。

なにしろあいつも、弾かれたみてえに突っ込んできやがったからな。

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