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美辞麗句を盾にして

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結局、野生の世界じゃ役目を終えた親は、次の世代を守るために死んでいくってことだな。

それが人間社会じゃ『親を敬え』『お年寄りを敬え』ってえ美辞麗句を盾にして、親や年寄りが若い奴らに負担を掛けるんだ。

ま、『人間ってのはそういうもんだ』って言っちまえばそうなんだろうけどよ。

そんな人間とは違って、白ウサギのコスプレザルの年寄りは、衰えた体じゃあ行道ゆきみちからは逃げ切れねえで、一瞬で追い付かれる。

けどな、だからって簡単にゃあ諦めねえ。

「ぎゃあっっ!!」

行道ゆきみちに追い付かれたとなった瞬間、反撃を試みたんだよ。他の肉食獣のそれに比べりゃおとなしくても人間に比べりゃ十分に頑丈で武器にもなる爪で引っ搔こうとしてきた。その諦めねえ姿勢は大したもんだぜ。感心する。

でもなあ、カマキリ怪人相手にゃそれも徒労ってえもんだな。ましてや行道ゆきみち相手じゃ。

反撃にされてもまったく気にも留めねえで、行道ゆきみちはそいつの手をカマで捕えてわざと木の枝から落ちて、相手もろとも地面へと。

「うぎっ!!」

相手も途中で枝に掴まってぶら下がったけどな、足で。そこに行道ゆきみちはグイッとカマで掴んだ手を引き寄せることで自分の体を持ち上げ、相手の首に食らいついて肉を食いちぎった。

「ぎゃああーっっ!!」

容赦のねえそれに、白ウサギのコスプレザルの年寄りは悲鳴を上げて、足で掴んでいた枝を放しちまって結局、地面に落ちる。でかい岩の脇だった。落ちた時にその岩にでも頭をぶつけてりゃそのまま終わっちまってたかもしれねえ。

「げひっ!?」

で、行道ゆきみちは空中で体勢を整えて白ウサギのコスプレザルをクッションにした。んでもって今度は肩口に食らいつき、肉を食いちぎり、そのまま食う。

それでも相手も諦めねえ。何とか体を起こして行道ゆきみちを振り切ろうと必死で暴れる。

だってのに、体の大きさはまるで違うのによ、まったく振り切れねえんだよ。それどころか、行道ゆきみちはそいつの口に手え突っ込んで掴み、ものすげえ勢いで振り回した。振り回して、そのまま、岩の尖った部分にフルスイングで頭を叩きつけたんだ。

「パギャッッ!!」

ってえ、なんとも言えねえ音がして、白ウサギのコスプレザルの年寄りの頭が爆発したみてえに弾けた。血と脳漿が飛び散ったのが俺にも分かったぜ。

人間にとっちゃえげつねえ<グロ映像>だろうけどよ。ここじゃまあ、別に普通だよな。

<白ウサギのコスプレをした人間>

みてえにも見える奴の頭がそんな風になるのもな。

別に大したこっちゃねえ。

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