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ギャナンの章
賢明な判断
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<代書人の妻>には、格闘技の心得などなかった。護身術の類さえ、
『男には金的が効く』
程度の知識しかない。決して裕福な家庭の生まれではなかったが、かといって殺伐とした人生を送ってきたわけじゃないということだ。
そんな彼女が、大の男、それも、自警団の夜回りに動員されるような男五人を相手に何もさせず一方的にぶちのめしていく。彼女にとり憑いたものがいかにとんでもないかという証拠だっただろう。
そして、二人目が蹴り飛ばされた際に巻き添えで地面に転がった五人目が、汚物塗れになりながらもなんとか立ち上がって護身用の剣を抜き、背を向けていた<それ>に警告もなく斬りかかった。
『警告なし』というのは評価の分かれるところかもしれないが、他の四人がそれぞれ一撃で無力化されたことを考えれば、むしろ賢明な判断だったと言えるかもしれない。
相手がただの人間の凶悪犯であればだが。
しかし、人間相手であればおそらくダメージも与えられたであろう不意打ちも、<代書人の妻だったもの>には通じなかった。<暴力>そのものが餌であるそいつは、殺意や害意が手に取るように分かるのだ。<必殺の気概>などそれこそ、大声を上げつつ攻撃を繰り出すようなものでしかない。
いや、それどころか、
『今から斬りかかりますよ!!』
と断りを入れてから斬りかかるようなものだろう。しかも、目で見なくても正確に察知できるとなれば、反応できない方がおかしい。
五人目が振り下ろした剣は空を切り、体勢を整えるどころか剣を振り切る動作を終える前に、<代書人の妻だったもの>の肘が、剣を振り下ろしたことで下がった五人目のこめかみを捉え、頭骨が砕け脳が挫傷、さらに衝撃を受け止めきれなかった脛骨まで折れて、意識を失った。
現代の先進国の救急医療を受けても助かる確率は決して高いとはいえないであろうそれをこの時代で受けてしまっては、死んだも同然であった。そして実際に、五人目は、この後、数分で心停止し、死んだ。
睾丸を潰された一人目と、顎と鼻の骨をぐしゃぐしゃに潰された三人目は、死んでこそいなかったが完全に意識を失っており、とどめを刺されれば防ぎようもない状態だった。しかしその時、
「!!」
<代書人の妻だったもの>は何かを察したかのように顔を上げて、自身が向かっていた方に視線を戻した。その先に何かがあるのを分かっているかのような振る舞いであった。
一方この時、
「!?」
部屋の隅で息を殺すように蹲っていたギャナンも、何かを察したのか、頭を上げたのだった。
『男には金的が効く』
程度の知識しかない。決して裕福な家庭の生まれではなかったが、かといって殺伐とした人生を送ってきたわけじゃないということだ。
そんな彼女が、大の男、それも、自警団の夜回りに動員されるような男五人を相手に何もさせず一方的にぶちのめしていく。彼女にとり憑いたものがいかにとんでもないかという証拠だっただろう。
そして、二人目が蹴り飛ばされた際に巻き添えで地面に転がった五人目が、汚物塗れになりながらもなんとか立ち上がって護身用の剣を抜き、背を向けていた<それ>に警告もなく斬りかかった。
『警告なし』というのは評価の分かれるところかもしれないが、他の四人がそれぞれ一撃で無力化されたことを考えれば、むしろ賢明な判断だったと言えるかもしれない。
相手がただの人間の凶悪犯であればだが。
しかし、人間相手であればおそらくダメージも与えられたであろう不意打ちも、<代書人の妻だったもの>には通じなかった。<暴力>そのものが餌であるそいつは、殺意や害意が手に取るように分かるのだ。<必殺の気概>などそれこそ、大声を上げつつ攻撃を繰り出すようなものでしかない。
いや、それどころか、
『今から斬りかかりますよ!!』
と断りを入れてから斬りかかるようなものだろう。しかも、目で見なくても正確に察知できるとなれば、反応できない方がおかしい。
五人目が振り下ろした剣は空を切り、体勢を整えるどころか剣を振り切る動作を終える前に、<代書人の妻だったもの>の肘が、剣を振り下ろしたことで下がった五人目のこめかみを捉え、頭骨が砕け脳が挫傷、さらに衝撃を受け止めきれなかった脛骨まで折れて、意識を失った。
現代の先進国の救急医療を受けても助かる確率は決して高いとはいえないであろうそれをこの時代で受けてしまっては、死んだも同然であった。そして実際に、五人目は、この後、数分で心停止し、死んだ。
睾丸を潰された一人目と、顎と鼻の骨をぐしゃぐしゃに潰された三人目は、死んでこそいなかったが完全に意識を失っており、とどめを刺されれば防ぎようもない状態だった。しかしその時、
「!!」
<代書人の妻だったもの>は何かを察したかのように顔を上げて、自身が向かっていた方に視線を戻した。その先に何かがあるのを分かっているかのような振る舞いであった。
一方この時、
「!?」
部屋の隅で息を殺すように蹲っていたギャナンも、何かを察したのか、頭を上げたのだった。
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