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ギャナンの章
得体の知れない恐ろしい事件
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こうして<惨劇>は幕を閉じたが、そこから先がまた大変な騒動になった。なにしろ、
<靴者の主人>
<ララ>
<パン屋の男の娘のシャルロット>
<身元不明の女>
<身元不明の新生児らしき何か>
が、とても人間の仕業とは思えない形で次々と惨殺されたのだから。アラベルについては、
「窓から逃げていった……」
ギャナンの証言により難を逃れたらしいとは察せられたがそれ以降の消息は知れなかった。
そして誰も、現場を検分した軍すらも、何が起こったのかは把握できなかった。明らかに人間の力では成しえない殺害方法だったこともあり、ギャナンが、
「知らない女が入ってきてやった……」
と証言しても、さすがに信じる者もいなかった。いなかったが、パン屋の寝室で死んでいた女の股間からは臍の緒が出ていて、どうやら女が産み落としたと思しき<新生児らしき何か>は、一見しただけだと人間の赤ん坊には見えないただの肉の塊のようになって死んでいたことについては、どうにも説明のしようもなく、誰もが首をかしげるしかなかった。
なお、この時の死体の貌があまりにも変わり果てていたことで、誰も<代書人の妻>だとは気付かなかったようだ。つまり、<代書人の妻>は、この事件の陰でひっそりと行方知れずになったということである。
そして、寝室で死んでいた女の仕業であるとの考えに至る者もおらず、何一つ謎が解明されないまま、
<得体の知れない恐ろしい事件>
として、語り継がれるだけになっていった。
なお、パン屋の男は、あの夜、翌日のための仕込みだけでなく、ララを見ていて思い付いた<新しい菓子>の試作に励んでいて、試作品を完成させたところだった。それは、蜂蜜をたっぷり練り込んだ生地をカリカリに焼き上げた中にバターを封入した、それこそ後の<シュー・ア・ラ・クレーム(シュークリーム)>に通ずる画期的な菓子だったが、これが日の目を見ることはなかった。
娘を殺され、女房も消息を絶った上に、自分の家が途轍もない惨劇の舞台となってしまったことで、パン屋の男の心は粉々に打ち砕かれ、厨房に立つことすらできなくなってしまっていたのだから。
しかも、ギャナンに対しても、
「消えろ……俺の前に姿を見せるな……なんで……なんで死んだのがシャルロットなんだ……お前が死ねばよかったのに……」
厨房の隅で吐き捨てるようにそう言った。それが、パン屋の男の本心だった。自分の娘は愛していたが、ギャナンのことは本当は邪魔者だとしか思っていなかったのだ。
「……」
ギャナンは、男にそう言われても何も言い返すこともなく、ただ冷たいを視線を向けただけで、パン屋の男の家から立ち去ってしまったのだった。
<靴者の主人>
<ララ>
<パン屋の男の娘のシャルロット>
<身元不明の女>
<身元不明の新生児らしき何か>
が、とても人間の仕業とは思えない形で次々と惨殺されたのだから。アラベルについては、
「窓から逃げていった……」
ギャナンの証言により難を逃れたらしいとは察せられたがそれ以降の消息は知れなかった。
そして誰も、現場を検分した軍すらも、何が起こったのかは把握できなかった。明らかに人間の力では成しえない殺害方法だったこともあり、ギャナンが、
「知らない女が入ってきてやった……」
と証言しても、さすがに信じる者もいなかった。いなかったが、パン屋の寝室で死んでいた女の股間からは臍の緒が出ていて、どうやら女が産み落としたと思しき<新生児らしき何か>は、一見しただけだと人間の赤ん坊には見えないただの肉の塊のようになって死んでいたことについては、どうにも説明のしようもなく、誰もが首をかしげるしかなかった。
なお、この時の死体の貌があまりにも変わり果てていたことで、誰も<代書人の妻>だとは気付かなかったようだ。つまり、<代書人の妻>は、この事件の陰でひっそりと行方知れずになったということである。
そして、寝室で死んでいた女の仕業であるとの考えに至る者もおらず、何一つ謎が解明されないまま、
<得体の知れない恐ろしい事件>
として、語り継がれるだけになっていった。
なお、パン屋の男は、あの夜、翌日のための仕込みだけでなく、ララを見ていて思い付いた<新しい菓子>の試作に励んでいて、試作品を完成させたところだった。それは、蜂蜜をたっぷり練り込んだ生地をカリカリに焼き上げた中にバターを封入した、それこそ後の<シュー・ア・ラ・クレーム(シュークリーム)>に通ずる画期的な菓子だったが、これが日の目を見ることはなかった。
娘を殺され、女房も消息を絶った上に、自分の家が途轍もない惨劇の舞台となってしまったことで、パン屋の男の心は粉々に打ち砕かれ、厨房に立つことすらできなくなってしまっていたのだから。
しかも、ギャナンに対しても、
「消えろ……俺の前に姿を見せるな……なんで……なんで死んだのがシャルロットなんだ……お前が死ねばよかったのに……」
厨房の隅で吐き捨てるようにそう言った。それが、パン屋の男の本心だった。自分の娘は愛していたが、ギャナンのことは本当は邪魔者だとしか思っていなかったのだ。
「……」
ギャナンは、男にそう言われても何も言い返すこともなく、ただ冷たいを視線を向けただけで、パン屋の男の家から立ち去ってしまったのだった。
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