悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ツェザリ・カレンバハの章

三人がもう

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こうしてイザベラの宿に立ち寄ったものの、肝心のイザベラとケインとバーバラの安否はまったく掴めなかった。

『<得体のしれない怪物>が彼女の宿から出てきて、なぜか溶けて消えてしまった』

という証言こそは得られたが、イザベラとケインとバーバラの姿を見た者は誰もいなかったのだ。もっとも、イザベラもケインもバーバラも、実際には目撃されている。ただ、目撃者がそうとは認識できなかっただけだ。

三人の消息は知れなかったが、ボリスには予感があった。三人がもうこの世にはいないという。

根拠はない。根拠はないが、たくさんの死に直面してきた彼の直感がそう告げている。

「イザベラ……ケイン……バーバラ……」

分かりやすく涙を流したり慟哭したりはしなかったものの、ボリスは悔しそうな表情かおで、三人の名を口にした。

だが、それだけだった。ボリスは、自身の顔を両手でバーン!と力強くはたいて、

「おしっ!」

と声を上げた。

「!?」

突然のそれに、ツェザリがビクッと反応する。しかしツェザリも、すぐにいつもの様子に戻った。

人間としての心を失っているツェザリは元より、ボリスも、自身の過酷な経験から、起こってしまったことは、嘆いても、憤っても、決してなかったことにならないのを骨の髄まで思い知っていた。だから、気持ちを切り替えるしかないのだ。

死んだ人間は還らない。なればこそ、生きている人間を見なければいけない。

ツェザリを見なければ。

そう気持ちを切り替えたボリスは、すぐに仕事に戻った。生きるために。ツェザリを生かすために。

そしてこの世界も、イザベラやケインやバーバラがいなくなったところで大きな変化を見せるわけもなく、続いていく。感情が揺り動かされることのないツェザリでも、それは理解できた。

人間が何人か死んだところで、世の中は何も変わらないのだということが。

ゆえにツェザリもこれまでと何も変わることなく仕事を続けたのだった。



でも、この世界を司る<神>とやらは、どこまでも愉悦を好むらしい。

ある日、いつものように仕事をしていたツェザリの姿を見て、

「げ…っ!」

と声を上げた者がいた。

その聞き覚えのある声に彼が顔を上げると、そこには、大きな腹を抱えた中年女が立っていた。

「……」

ツェザリは、ただ黙って女を見詰める。それは、まぎれもなく、ツェザリ、いや、<ギャナン>の実母、アラベルだった。

パン屋の男の家での惨劇の後、一目散に一人逃げ去ったアラベルが、大きな腹を抱えて市場にいたのだ。

また、妊娠していたのである。

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