神河内沙奈の人生

京衛武百十

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求められること

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藍繪汐治らんかいせきじ山下沙奈やましたさなに求めることはただ一つ。

自分の性的欲求に逆らわずに応じること。

それだけだった。それさえ応えていれば、食事も与えてもらえたし風呂にも入れてもらえた。ただし、学校には通わせてもらえなかった。六歳になり四月を過ぎても、彼女は学校に通うことはなかった。そもそも、彼女自身が学校というものの存在を理解してなかったのだが。

彼女は、両親の育児放棄による低栄養状態が災いして、脳に若干の萎縮が見られた。その為、検査した医者からは、決して無視できないレベルの知能の遅れが出るだろうと診断を受けていた。事実、彼女はまだ、日常会話すら満足にできない。

多少、片言で単語を並べる程度のことはできるようにはなった。故に最低限の意思疎通くらいは可能になっていたが、それは言葉を覚え始めた乳幼児のそれと大差ないレベルだった。だから普段は殆ど口を開くこともなかった。陰鬱に押し黙り、まるで深淵の向こうから覗き込んでくるかのような虚ろな視線をただ前に向けて、部屋の隅に佇んでいた。そして、藍繪汐治が求めたらそれに応じるだけだった。

初めて体を貫かれた時、膣が裂けて派手に出血した為にさすがの藍繪汐治も怖気づき、一ヶ月ほどは彼女を裸に剥いてその体を舐めまわすように鑑賞しつつ触れるだけにしていたが、僅かだが体に肉も付き、傷もすっかり癒えた筈だと思うとまた我慢できなくなってきたようだった。ただしさすがに最初のような無茶はせず、カリ首だけを彼女の膣に潜り込ませて小さく浅くその感触を楽しんだ。それだけでも結構満足できたようだ。実に下劣で最低最悪な話だが。

だがそれでも、山下沙奈にとってはその程度の相手をすれば生存を保証されるのだから、彼女がそれを拒む理由はなかったのだ。それに、執拗にそうやって弄られ続けているうちに、それまでの暴力に比べればいくらか心地好かっただけのそれが、少しずつはっきりとした『気持ち良さ』へと変わってきていることを、彼女自身も感じていたのだった。

そんな状態が一年ほど続き、そのシルエットも<標準に比べればかなり痩せている>程度のそれになったある日、彼女が七歳の誕生日を迎えた直後、藍繪汐治との生活は突然、終わりを迎えたのだった。

「へえ、こいつがそうかよ…」

それは、見た目こそ別人ではあるが、その本質は藍繪汐治と何も変わらない下衆だというのが顔にも表れている男だった。名は、網螺春喜あみらはるき。藍繪汐治のバイト先の先輩で、藍繪汐治が自分の姪に何をしているかというのを知り、それを警察に告げられたくなければ自分に山下沙奈を貸せと言ってきたのであった。

もっとも、返すつもりなど毛頭なかったようではあるのだが。 

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