美智果とお父さん

京衛武百十

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ズボンで行っていいかなあ?

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「パパ。中学の制服なんだけど、ズボンで行っていいかなあ?」

ある日、美智果が急にそんなことを言い出した。と言うのも、中学の制服は、女子でもズボン、と言うかスラックスで行けるということを誰かから聞いたらしい。

でも僕は、別に驚かなかった。

だって美智果がスカートを嫌ってることは以前から知ってたから。しかも、女子だけどスラックスで通ってる子がいることも知ってたから。美智果らしいなと思っただけだった。

だけどこの子は、トランスジェンダーとかそういうのじゃないことも知ってる。男の子には今のところ興味はないけれど、だからって女の子が恋愛対象って訳でもない。ただ単にスカートが嫌いというだけだ。『女の子らしくしろ』と言われるのが嫌いなだけだ。

「う~ん。もしかしたらズボンで行ってる子は美智果だけになるかもしれないけど、それでもいいんならいいよ」

ぼくも別に悩むことなくそう応えた。女子でもスラックスを選択できるのは、この子が通うことを予定してる中学校で正式に認められた自由だ。そして毎年のように、一人か二人程度だけど実際にスラックスで通う子がいる。

トイレとかで揉めないのかって誰かが言ってたけど、堂々としてればそれほど気にする人もいないらしい。訊かれたら「女ですけど?」とちゃんと答えれば問題ないそうだ。

イジメとかの原因にならないのかっていう話もあっても、学校自体がそういうのを放っておかないところなので、相談すればすぐに対処してくれるということだった。そう言えば去年、海で見かけた、僕と同じように奥さんを亡くして男手一つでお子さんを育ててる人の娘さんも、中学の時からスラックスで行ってるという話を聞いたことがある。毎年、スラックスで行くことを希望する女の子がいて、実際にスラックスで通ってる女の子の保護者の人が話を聞かれたりすることがあるそうだ。

『実際、どうなんですか? 何か困ったこととかありませんか?』

ってことで。

でも、『スラックスだから』ということで困ることはないそうだ。それで行くことを覚悟してる子達はそもそも、周囲が多少何か言ってても気にしないタイプなんだろうなとも思った。

美智果も、これまでの経験で、周りに少々何か言われてもいつまでも気にしないようになれたと思う。<アイドル好きのリンちゃん>とのこととか、<意地悪なことを言ってきたアキちゃん>とのこととかを乗り越えたのが、この子の自信になってるんだと思う。

そうだ。嫌なことや辛いことなんて、普通に学校に通ってるだけでもある。大事なのはそういう経験をした時にめげずに乗り切れたっていう、小さな成功体験をすることなんじゃないかな。

必要なのは<我慢>よりも、<具体的な対処法>を見付けることだと思うんだ。

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