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子供達
幽鬼(やっぱり怖いな。こういう部分は)
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ヒト蛇に絡みつかれイレーネの姿が見えなくなった時、俺もシモーヌも声を失ってしまった。
正直、バックアップは取ってあるからデータだけは残る。でも、彼女が完全に破壊されてしまった場合、新しいボディが手に入らない以上は、イレーネが帰ってくることはなくなってしまう。
「イレーネ…っ!」
ようやく絞り出すようにシモーヌが彼女の名を口にした時、ヒト蛇の体がビクンッと撥ねた。
「ガァアァアアァアァァッッ!!」
恐ろしい叫び声をあげ、身悶えながらヒト蛇の体が地面をのたうつ。その中から現れたのは、真っ赤に染まったイレーネだった。だがそれはおそらく、ヒト蛇自身の血じゃない。ヒト蛇が食った動物達の血だろう。ヒト蛇自身の体液は透明なはずだからな。
「そうか…巻き付かれたことで、逆に……」
そう。イレーネは、ヒト蛇が絡みついてきたことを逆に利用して、<貫手>を腹の柔らかい部分に突き入れたんだ。そして、力一杯、引き裂いた。
左足一本で立ち、血まみれの体でのたうち回るヒト蛇を、イレーネは冷淡な表情で見下ろしていた。ただ無表情なだけのはずなのに、まるで幽鬼のようにも見える。
グンタイ竜の女王の時のエレクシアもそうだったが、やはり彼女らは、人間以外に対しては、必要とあればいくらでも冷酷になれるんだというのを改めて教えられた気がする。
だが、それは野生の獣も同じか。自分と自分が守るべきもの以外に対しては冷酷になれるから生きていけるというのもある。
人間社会はそれを良しとしないが、人間社会から外れたところではやはり必要になってくるんだ。
ロボットは、と言うか、ロボットに搭載されているAIは、その辺りをしっかりと切り替えてくる。そういう部分がやはり人間とは違うな。
『人間を決して傷付けてはいけない』ということは、裏を返せば、『人間を傷付けようとする者に対しては容赦はしない』という意味でもある。その辺りで致命的な矛盾が出ないように、かつてのAIの開発者達は苦労したんだろうな。だがその辺りを割り切ったからこそ、AIやロボットは人間の強い味方になったというのもあるのか。
人間にも、人間以外にもいい顔をしようとしてどっちつかずの中途半端にならないようにしたんだろう。
あくまで、『人間を傷付けない範囲内でのみ、人間以外を守る。双方の価値がぶつかる時は、人間を優先する』ということか。
今回、俺は、『ヒト蛇を駆除しろ』と命令した。それを彼女は確実に実行したんだ。
それでも、ヒト蛇は死ななかった。そして、逃げなかった。
命に係わる程に危険な存在だとイレーネのことを認識して、近付かないように警戒してくれるならそこで終わって良かった。
だが、ヒト蛇にはそういう感覚が存在しないらしい。
腹を割かれて内容物が溢れて血まみれになりながらなおも、イレーネに襲い掛かろうとしたのだった。
正直、バックアップは取ってあるからデータだけは残る。でも、彼女が完全に破壊されてしまった場合、新しいボディが手に入らない以上は、イレーネが帰ってくることはなくなってしまう。
「イレーネ…っ!」
ようやく絞り出すようにシモーヌが彼女の名を口にした時、ヒト蛇の体がビクンッと撥ねた。
「ガァアァアアァアァァッッ!!」
恐ろしい叫び声をあげ、身悶えながらヒト蛇の体が地面をのたうつ。その中から現れたのは、真っ赤に染まったイレーネだった。だがそれはおそらく、ヒト蛇自身の血じゃない。ヒト蛇が食った動物達の血だろう。ヒト蛇自身の体液は透明なはずだからな。
「そうか…巻き付かれたことで、逆に……」
そう。イレーネは、ヒト蛇が絡みついてきたことを逆に利用して、<貫手>を腹の柔らかい部分に突き入れたんだ。そして、力一杯、引き裂いた。
左足一本で立ち、血まみれの体でのたうち回るヒト蛇を、イレーネは冷淡な表情で見下ろしていた。ただ無表情なだけのはずなのに、まるで幽鬼のようにも見える。
グンタイ竜の女王の時のエレクシアもそうだったが、やはり彼女らは、人間以外に対しては、必要とあればいくらでも冷酷になれるんだというのを改めて教えられた気がする。
だが、それは野生の獣も同じか。自分と自分が守るべきもの以外に対しては冷酷になれるから生きていけるというのもある。
人間社会はそれを良しとしないが、人間社会から外れたところではやはり必要になってくるんだ。
ロボットは、と言うか、ロボットに搭載されているAIは、その辺りをしっかりと切り替えてくる。そういう部分がやはり人間とは違うな。
『人間を決して傷付けてはいけない』ということは、裏を返せば、『人間を傷付けようとする者に対しては容赦はしない』という意味でもある。その辺りで致命的な矛盾が出ないように、かつてのAIの開発者達は苦労したんだろうな。だがその辺りを割り切ったからこそ、AIやロボットは人間の強い味方になったというのもあるのか。
人間にも、人間以外にもいい顔をしようとしてどっちつかずの中途半端にならないようにしたんだろう。
あくまで、『人間を傷付けない範囲内でのみ、人間以外を守る。双方の価値がぶつかる時は、人間を優先する』ということか。
今回、俺は、『ヒト蛇を駆除しろ』と命令した。それを彼女は確実に実行したんだ。
それでも、ヒト蛇は死ななかった。そして、逃げなかった。
命に係わる程に危険な存在だとイレーネのことを認識して、近付かないように警戒してくれるならそこで終わって良かった。
だが、ヒト蛇にはそういう感覚が存在しないらしい。
腹を割かれて内容物が溢れて血まみれになりながらなおも、イレーネに襲い掛かろうとしたのだった。
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