370 / 2,360
幸せ
野生で生きる為の能力が(最適化されてる)
しおりを挟む
雷が勝利を確信し、<ボスの木>に上って改めて、
「うおーっっ!!」
と歓喜の雄叫びを上げている時、地面にぐったりと横たわっていた<暫定ボスだった雄>が突然起き上がり、脇目も振らずに走り、密林の中へと姿を消した。死んでいなかったのだ。
それがいわゆる<死んだふり>だったのか、単に意識を失ってただけなのかは分からない。ただ、命の危機を乗り切ったことだけは確かだろう。
もっとも、今回の怪我が原因でこの後、命を落とすこともあるかもしれないが。とは言えそれは彼自身の問題だ。生き延びて再びボスの座を目指すか、死んで命の循環に還っていくか。
俺はその姿に、誉の未来を垣間見てしまった気もした。もちろん同じ結末を迎えるだろうという訳じゃないし、そうなってほしくないとは思うが、可能性としては否定もできない。
「厳しい世界だな……改めて……」
思わず呟きが漏れる。人間にはおよそ耐えられない厳しさだろうな。なるほど、己の能力すべてをつぎ込まないと、こんな世界じゃ一日たりとも生きていけない気がする。余計なことに思考を割く余裕もない。
だから『知能が低い』という表現は適切じゃないのかもしないという気もする。むしろ、
『野生で生きる為の能力が最適化されてる』
ってことのような気もしたよ。
人間は、『余計なことを考える余裕のある世界で生きてる』んだって実感した。そして、『余計なことを考える余裕のある世界でないと生きられない』ということもな。
面白い。
新暦〇〇二二年十月二十八日。
その後、結局、雷がその群れのボスに収まる形となった。まあ、<漁夫の利>という形ではあったが、一応はボノボ人間の社会のルールに則ってではある。
で、『めでたしめでたし』となったのかと言えば、実はそうじゃなかった。むしろこれが始まりだったんだろうな。
と言うのも、ボスに収まった雷は、これまでにも増して横暴に振る舞いだしたんだ。
『調子に乗ってしまった』と言うか。
それでも仮にもボスだから他のボノボ人間も一応は従ってた。雌も、渋々ながらも雷を受け入れてたようだ。
が、そういう状態を長続きさせるのは、たぶん、並大抵のことじゃなかったんだろう。今度は、元から群れにいた雄の反発を招き、一ヶ月と経たずに<内紛>という形で争いが始まり、実質的なナンバー3だった雄が、他の雄の協力も得て雷を倒し、新たなボスの座に就いたのだった。
その時にも、誉のサポートがあったらしい。
メイフェアは言う。
「誉様は敢えてサポート役に徹することで、今回の一連の騒動を冷静に分析していたようです。
『参考になった』的なことをおっしゃっていました」
と。
新暦〇〇二二年十一月六日。
なお、ボスの座を追われた雷がどうなったかと言うと、命からがら群れを逃げ出した後、しばらく一人で生きていたようだったが、一週間後、カマキリ人間に捕食されているところが、ドローンのカメラによって捉えられたのだった。
「うおーっっ!!」
と歓喜の雄叫びを上げている時、地面にぐったりと横たわっていた<暫定ボスだった雄>が突然起き上がり、脇目も振らずに走り、密林の中へと姿を消した。死んでいなかったのだ。
それがいわゆる<死んだふり>だったのか、単に意識を失ってただけなのかは分からない。ただ、命の危機を乗り切ったことだけは確かだろう。
もっとも、今回の怪我が原因でこの後、命を落とすこともあるかもしれないが。とは言えそれは彼自身の問題だ。生き延びて再びボスの座を目指すか、死んで命の循環に還っていくか。
俺はその姿に、誉の未来を垣間見てしまった気もした。もちろん同じ結末を迎えるだろうという訳じゃないし、そうなってほしくないとは思うが、可能性としては否定もできない。
「厳しい世界だな……改めて……」
思わず呟きが漏れる。人間にはおよそ耐えられない厳しさだろうな。なるほど、己の能力すべてをつぎ込まないと、こんな世界じゃ一日たりとも生きていけない気がする。余計なことに思考を割く余裕もない。
だから『知能が低い』という表現は適切じゃないのかもしないという気もする。むしろ、
『野生で生きる為の能力が最適化されてる』
ってことのような気もしたよ。
人間は、『余計なことを考える余裕のある世界で生きてる』んだって実感した。そして、『余計なことを考える余裕のある世界でないと生きられない』ということもな。
面白い。
新暦〇〇二二年十月二十八日。
その後、結局、雷がその群れのボスに収まる形となった。まあ、<漁夫の利>という形ではあったが、一応はボノボ人間の社会のルールに則ってではある。
で、『めでたしめでたし』となったのかと言えば、実はそうじゃなかった。むしろこれが始まりだったんだろうな。
と言うのも、ボスに収まった雷は、これまでにも増して横暴に振る舞いだしたんだ。
『調子に乗ってしまった』と言うか。
それでも仮にもボスだから他のボノボ人間も一応は従ってた。雌も、渋々ながらも雷を受け入れてたようだ。
が、そういう状態を長続きさせるのは、たぶん、並大抵のことじゃなかったんだろう。今度は、元から群れにいた雄の反発を招き、一ヶ月と経たずに<内紛>という形で争いが始まり、実質的なナンバー3だった雄が、他の雄の協力も得て雷を倒し、新たなボスの座に就いたのだった。
その時にも、誉のサポートがあったらしい。
メイフェアは言う。
「誉様は敢えてサポート役に徹することで、今回の一連の騒動を冷静に分析していたようです。
『参考になった』的なことをおっしゃっていました」
と。
新暦〇〇二二年十一月六日。
なお、ボスの座を追われた雷がどうなったかと言うと、命からがら群れを逃げ出した後、しばらく一人で生きていたようだったが、一週間後、カマキリ人間に捕食されているところが、ドローンのカメラによって捉えられたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
162
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる