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幸せ

野生で生きる為の能力が(最適化されてる)

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らいが勝利を確信し、<ボスの木>に上って改めて、

「うおーっっ!!」

と歓喜の雄叫びを上げている時、地面にぐったりと横たわっていた<暫定ボスだった雄>が突然起き上がり、脇目も振らずに走り、密林の中へと姿を消した。死んでいなかったのだ。

それがいわゆる<死んだふり>だったのか、単に意識を失ってただけなのかは分からない。ただ、命の危機を乗り切ったことだけは確かだろう。

もっとも、今回の怪我が原因でこの後、命を落とすこともあるかもしれないが。とは言えそれは彼自身の問題だ。生き延びて再びボスの座を目指すか、死んで命の循環に還っていくか。

俺はその姿に、ほまれの未来を垣間見てしまった気もした。もちろん同じ結末を迎えるだろうという訳じゃないし、そうなってほしくないとは思うが、可能性としては否定もできない。

「厳しい世界だな……改めて……」

思わず呟きが漏れる。人間にはおよそ耐えられない厳しさだろうな。なるほど、己の能力すべてをつぎ込まないと、こんな世界じゃ一日たりとも生きていけない気がする。余計なことに思考を割く余裕もない。

だから『知能が低い』という表現は適切じゃないのかもしないという気もする。むしろ、

『野生で生きる為の能力が最適化されてる』

ってことのような気もしたよ。

人間は、『余計なことを考える余裕のある世界で生きてる』んだって実感した。そして、『余計なことを考える余裕のある世界でないと生きられない』ということもな。

面白い。







新暦〇〇二二年十月二十八日。



その後、結局、らいがその群れのボスに収まる形となった。まあ、<漁夫の利>という形ではあったが、一応はボノボ人間パパニアンの社会のルールに則ってではある。

で、『めでたしめでたし』となったのかと言えば、実はそうじゃなかった。むしろこれが始まりだったんだろうな。

と言うのも、ボスに収まったらいは、これまでにも増して横暴に振る舞いだしたんだ。

『調子に乗ってしまった』と言うか。

それでも仮にもボスだから他のボノボ人間パパニアンも一応は従ってた。雌も、渋々ながらもらいを受け入れてたようだ。

が、そういう状態を長続きさせるのは、たぶん、並大抵のことじゃなかったんだろう。今度は、元から群れにいた雄の反発を招き、一ヶ月と経たずに<内紛>という形で争いが始まり、実質的なナンバー3だった雄が、他の雄の協力も得てらいを倒し、新たなボスの座に就いたのだった。

その時にも、ほまれのサポートがあったらしい。

メイフェアは言う。

ほまれ様は敢えてサポート役に徹することで、今回の一連の騒動を冷静に分析していたようです。

『参考になった』的なことをおっしゃっていました」

と。







新暦〇〇二二年十一月六日。



なお、ボスの座を追われたらいがどうなったかと言うと、命からがら群れを逃げ出した後、しばらく一人で生きていたようだったが、一週間後、カマキリ人間マンティアンに捕食されているところが、ドローンのカメラによって捉えられたのだった。

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