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新世代

來編 自己満足

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あかりは強い。ビアンカも強い。そして、久利生くりうも強い。

でも、だからって油断していいわけじゃないし、準備を怠るのも違うと思う。

ドローンも随伴させて周囲を警戒する。

こうすることで、自分達の命も守ることになるし、翻って、人間にとっては危険な動物達の命も守ることになる。

単に近付けなければいいところをそれを怠って、それで接近させておいて、

『人命を守るために』

とか言って命を奪うのは、そりゃおかしいだろう。

と言うわけで、ここで、

『ピンチになって、それでバーンとやっつけてカッコいいところを見せる』

なんていう<演出>はないので、ご容赦願いたい。

さりとて、<不測の事態>ってのはいつだって起こり得るので、

『絶対に何も起こらない』

ってわけでもないけどな。

だから当然、準備万端な上にも用心は欠かさない。

そうして久利生くりうも河岸に降り立ち、改めて河を見る。

「私達はこの規模の河を直接見たことはなかったが、やはり素晴らしい光景だな。こうして見ているだけだと地球の自然と区別がつかない……」

久利生くりうが感慨深げに呟いた。するとビアンカも、

「はい。私もまったく同感です……この惑星は、私達が捜し求めていたものそのものだっていうのを実感しています……」

そう応える。

例の不定形生物についても、対処法さえ分かってしまえば危険度は普通の猛獣と変わらない。あの不定形生物からすれば新しく見付かった生物の情報が欲しくてたまらなくて何度も襲ったようだが、それにしても水辺から遠く離れれば襲ってはこれなかった可能性が高く、やはりその辺りの情報不足が悔やまれる。

AIによる行動予測も、その時点ではデータが少なすぎた。

本当に不幸なだけだったよ。

だが今はもう、接近してくればさっさと逃げてしまえばいい。そもそもすでにデータを持ってる生き物を積極的に狙う理由さえ向こうにはないだろう。

おかげでゆっくりと調査ができるというものだな。

泥と水を採集し、サンプルをローバーに積んであったケースに入れる。これを、明日、ビアンカとメイフェアがコーネリアス号に向かう時に一緒に持っていって、分析するということだ。

もっとも、分析器の精度は光莉ひかり号のそれの方が上だけどな。

そして、久利生くりう自身、それがただの自己満足のポーズに過ぎないことは分かっているんだと思う。彼は合理的な判断ができる優秀な軍人だそうだし。

でも、同時に、合理的だからこそその種の<自己満足>が人間の精神に及ぼす影響も承知してるんだろうと思う。

不定形生物に同化されたメンバーはあの中で生きてるんだとしても、それ以外の原因で亡くなったメンバーは本当に亡くなってしまったわけで、志半ばで亡くなってしまった彼らへの弔いの意味もあるんじゃないかな。

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