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日常編

ところ変われば美意識もそれぞれ

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「あ、ごめんなさい。呼び出しがかかってしまいました。それではまた今度、こうやってお話しできたらいいですね」

携帯に着信があり、シェルミはそう言って店じまいして、アパートを出て行った。

エルダーの仕事はいつこうやって呼び出されるか分からない大変な仕事だが、先任のアーシェスもシェルミも決してそれを表に出さない。誰かの為に動くということが好きだからできることなのだろう。そしてそういう人間がエルダーに選ばれるのだということだ。

「シェルミさんって、本当にあったかい人だな」

後姿を見送りながら、ユウカはそう呟いていた。

『あのシェルミさんがどうして宇宙海賊なんかになったんだろう……』

それは気になるところだったが、

『私の方から訊くことじゃないよね……』

と、いずれシェルミの方から話してもらえたらでいいかと思った。

その時、二号室のドアが開いて、マニが姿を現した。にこやかな笑顔で挨拶してくる。

「あらユウカちゃん、ガゼちゃん、こんにちは」

相変わらずすごいボリュームの筋肉に圧倒されつつ、ユウカとガゼも「こんにちは」と返した。するとマニがさらに、

「あ、そうだ。今からアイアンブルーム亭にお昼食べに行こうと思ってたんだけど、もしよかったら一緒に行かない? 奢るわよ」

と誘ってきた。

「はい、ご一緒します」

二つ返事でユウカとガゼもアイアンブルーム亭へと向かった。

ちなみにこのマニにも、辛い過去がある。と言っても、もしかすると地球人には理解しにくい辛さかもしれない。

マニ達の種族は、基本的にこういう外見が通常であり、マニ自身はその中ではむしろ<貧弱>な方である。彼女はそれで特に気にしていなかったのだが、彼女の両親が我が子の貧弱さを酷く心配し、更に体を大きくしようとあれこれ干渉してきたのだ。

まあそこまではよくある親心だったのかもしれないものの、両親はマニをスパルタで有名な施設に預けてしまい、彼女は過酷なトレーニングの果てに体を壊し、施設に入る以前よりもむしろ体が小さくなってしまったのだった。

こうなると、<普通の見た目じゃない>ということで彼女は嘲笑や憐憫の対象となり、それに耐えられなくなって施設を脱走。それがまた家庭の恥だということで両親から勘当され、しかも両親に勘当されるような人間は信頼もされない為に社会的に孤立。まともな職にもありつけず、体調を崩しても医者にも掛かれず、やがて彼女は人知れず安アパートの一室で短い生涯を閉じたという訳だ。

マニがリリとの関係を上手く築けないのも、両親との関係が良好でなかったことが影響しているかもしれない。しかし彼女は、それを承知した上で努力していた。

ここでは外見でとやかく言われることもないのだ。ただ穏やかに生きることが望まれるのだから。

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