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日常編

赤ちゃん返り(物理)

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「ここに来たばかりの頃の荒んだキリオのことを、ミルクティオは本当に献身的に面倒見たと思う。それこそ、子供を育てる以上にね。

実際、ミルクティオのやったことは、キリオを赤ん坊の頃から育て直す感じだった。彼女のことをすべて受け入れて、受け留めて、おむつ替えやミルクやりをするくらいの感じで一切合切の面倒を見たわ。

だから、ミルクティオに懐いてからのキリオは、今度は手の付けられないワガママな<子供>になった。

そう、子供になったのよ。体そのものが。彼女の無意識が強くそれを望んだんでしょうね。それでも、ミルクティオはキリオを見捨てなかった。彼女のワガママに付き合い、<書庫>の中を旅したりもした。その旅は、三十年ほど続いたんだって」

「さ、三十年!?」

「そうよ。もっとも、ここでの三十年なんてあっという間なのは、ユウカたちも感じてるかもしれないけど。でも、子供に戻ったキリオにとっては十分な時間だった。

散々ワガママを言って、でもそれをミルクティオに受け留めきられてしまって、ついにはワガママを言うのにも飽きてしまったみたい。

帰ってきた時のキリオは、逆にミルクティオのことを気遣う余裕のある女性に変わってた」

「……」

「私も子供を育ててみて分かったんだけど、子供って、一時的にすごくワガママになる時期があるの。大きくなる自我と社会性との間でうまくバランスが取れなくて、自我が抑えられなくなるんでしょうね。

だけどその時にきちんと対処してもらえると、自我と社会性とのバランスを学ぶことができる。ワガママを受けとめきられてしまうと、ある時期には満足してしまうのよ。そして、社会性との折り合いを付けられるようになる。

…なんて、私も頭では分かってるんだけど、実践するのはなかなか大変で、まだまだ未熟だって実感してしまうけどね。

でも、ミルクティオはそれをやり切った」

「…その割にはあんなだけどね、キリオ」

不意にガゼが容赦ないツッコミを入れる。確かに、ワガママ放題に飽きて気遣いができるようになった割には今でも十分に奔放すぎる気もする。だが、マニはそれにも動じずに微笑んだ。

「そうね。けど、あれでも一時期に比べたら信じられないくらいにマシになったのよ」

「ええ? あれで!? じゃあ、昔のキリオってば、どんなだったっていうのよ!?」

「たぶん、今のガゼちゃんじゃ、毎日百回くらいキレるんじゃないかしら」

「えぇ……?」

何とも言えない表情をするガゼの隣で、ユウカは少しだけ何かを納得したような表情をしていたのだった。

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