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日常編

成長しない自分に

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「ユぅカぁあぁぁっっ!!」

ガゼの咆哮は、周囲数百メートルにまで届いたという。それは当然、ユウカ自身にも届いた。裸にワンピースを纏っただけ、髪も濡れたままのユウカがハッと振り返り、アパートの前にいたガゼに気付いた。

「ガゼちゃん!」

声を上げながら駆け寄ると、ガゼが裸だということに気付く。

「ガゼちゃん! ダメだよそんな格好で!!」

慌ててガゼの体を隠すように抱き上げ、ユウカはアパートに駆け込んだ。

実はこの時、周囲の住人達にもガゼの咆哮を耳にした者はおり、何事かと窓を開けて外を見たりもしていたのだった。当然、ガゼが素っ裸なことにも気付いたが、意外なほどにそれに対して邪な気持ちを抱いた者はいなかった。皆、微笑ましい光景を見たというような目で見ていたのだ。中には眼福眼福と悦んだ者もいない訳ではなかったが、それはむしろ少数派だったし、そういう人間もさほど邪な気持ちにはならなかった。

ここで暮らして長いのが殆どだったからだろう。ここには雑多な価値観がある。その中で長く暮らしていると、この程度のことでは動じなくなるのだ。服を着るという習慣がない種族もいるので、そういう意味でも慣れてしまうのである。

とは言え、ユウカやガゼはそういう種族ではないし、まだ数十年という、<新入り>と言っても差し支えない程度の存在だから焦ってしまったというのもあった。

裸のガゼを抱いたままユウカは自分の部屋に戻り、でもそのままガゼを下ろさずに抱き締めた。

「もう…! 心配させないでよ……!」

呟くように言われて、ガゼも、

「ごめんなさい……」

と消え入りそうな声で謝った。

「ガゼちゃんにキスされたりしたのはびっくりしたしイヤだったけど、だからってこういうのはもっとイヤだよ……

だから、ガゼちゃん……もし…もしガゼちゃんがどうしてもって言うのなら、私……」

ユウカがそこまで言った時、ガゼはぶんぶんと激しく頭を横に振った。

「違う…! 違うよ!! ユウカは何も悪くない! 悪いのは私なんだよ! 私がバカだから……!!」

それ以上は言葉にならず、ガゼは、

「うぁああぁぁん…!」

と泣き出してしまった。以前にもこんなことがあってその時にも泣いてしまったことがあったのにまた同じようなことをしてしまって、成長しない自分に腹が立って情けなくて、ガゼは泣いてしまったのだった。

その後、しばらく泣いてようやく落ち着いてから二人でシャワーに入り直して、その日はそのまま抱き合うようにして一緒に寝たのであった。

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