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毒にも薬にも

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他人の努力を嘲笑うことで幸せになれるなら、この世は随分と楽なものだろう。

誰もが成功者となれるに違いない。

しかし、実際には他人を嘲笑っている者が世間的にはいわゆる<底辺>に属する人間だったりということもありふれ過ぎていると思われる。

ただし、<底辺>と呼ばれる境遇そのものが不幸というわけではないだろうけれど。

自身の不平不満を他人を嘲笑うことでしか贖えないというのが残念と言うべきか。

などと、こういうことを言えばそれを、

『マウントだ!』

と感じる者もいる。

そういう者達とはどう接すればいいのだろう?

残念ながら、アオにもその部分の答えはまだ出せていない。何を言っても自分に対するマウント行為だと解釈するタイプの人間との付き合い方は。

なので、

『障らぬ神に祟りなし』

を徹するだけだった。こちらから何かを言おうとしてなくても、特定の誰かに向けた表現でなくても、

『傷付けられた!』

『侮辱された!』

『マウントを取られた!』

と憤る者もいる。アオのアンチにもよくいるタイプだった。アオの作品の内容そのものが自分に対する<悪意>だと解釈する者である。

こうなるとそういうタイプの目に触れるかどうか自体が<運>頼みなので、対処のしようがない。

どう表現を工夫しても、不快だと受け取る人間がいない表現はないだろう。

あるとしても、実に当たり障りのない、そこれそ毒にも薬にもならないようなものになってしまうと思われる。

だから、

『アンチはいるもの』

とアオは割り切っている。

ただ、自分の子供達が<そういうタイプ>にならないようには努力してきた。

自分に向けて発信されたものでもない表現にキレて罵ったり粘着したりするような人間にはしなかった。

これも、

『不平不満があっても、赤の他人にぶつけるまでもなくアオやミハエルがそれについて丁寧に耳を傾けてくれるので、その必要がなかった』

ということに尽きる。

アンチの行為について、ミハエルと出逢う以前からある程度は推測はしていたものの、自分で子供を育ててみて、さくらとその子供達の様子を見てきて、実際に確認したことで、今ではさらに、

『親にちゃんと向き合ってもらえなかったんだな……』

と、それをぶつける相手が欲しいだけなのだろうと、思うようになった。

むしろ自分に粘着してもらってる間は他の人にそれが向けられることがないということだと考え、好きにさせている。

さくらも同じ考えだった。

しかし、アンチの中には、アオがそうやって平然としているのがまた気に入らないということで、さらに感情を拗らせているのもいるようだ。

このことについて、恵莉花えりか秋生あきお悠里ユーリ安和アンナも理解しつつある。

あきらは元々その種の悪感情に対しては鈍感らしくて気にしていないけれど。

また、椿つばきはまだ幼いだけあってそこまで割り切れていないものの、その『割り切れない』気持ちについてもアオやミハエルが受け止めてくれているので、深刻な状態にはならなかったのだった。

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