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第三幕

この世はね、誰か一人のためにあるんじゃないんだ。誰か一人の好みに合わせて作品は作られるわけじゃないんだよ。この当たり前のことを

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『今日も今日とて、編集部には読者の好き勝手なメッセージが届いてるってさ。私の作品に対するのだけじゃなくて、他の作家さんへのも、ね。

で、結局、多いのが、『自分の好みに合わせた作品づくりをしてほしい』ってやつ。

まあね。言うのは自由だよ。好きに言えばいいと思う。だけどね、自分の思い通りにならないからってキレて罵詈雑言並べるのは違うんじゃないのかなあ。作品を貶すのもおかしいと私は思ってる。

この世はね、誰か一人のためにあるんじゃないんだ。誰か一人の好みに合わせて作品は作られるわけじゃないんだよ。この当たり前のことを理解できてない人がどうしてこんなにいるんだろうなあ。やっぱり親から教わってないからなのかなあ。

改めて言うけど、『自分の好みを押し付けようとする』のはね、『自分にとって気に入らない表現をこの世から消してしまいたい』っていうのと、やってることは同じなんだ。『世の中の方が、自分の都合に合わせてくれるのが当然だ』って思ってるのと同じなんだよ。

なんて言っても、認めようとしないだろうけどさ。『自分が面白いと思う作品づくりをすることこそが、創作のためになる!!』とか思い込んじゃってるんだろうな。

だけどそれもやっぱり、『自分が不快と感じる表現を規制することこそが、世の中にためになる!!』って思い込んで自分の<正義>を振りかざしてる人と同じなんだよね。

どうしてその事実と向き合おうとしないんだろう。向き合えないんだろう。

実際に売れてる作品のことさえ、自分の好みに合わないと、『こんなのが売れてるのはおかしい。ゴリ押しだ。陰謀だ』とか言って、『面白い』と思ってる人達のことさえ馬鹿にする自分の振る舞いをどうして客観的に見ることができないんだろうね。

客観的に見ることができたら、『自分が不快と感じる表現を規制することこそが、世の中にためになる!!』みたいなことを言ってる人達と同じ考え方だって分かると思うんだけどなあ。

楽しんでる人達にとっては、<大きなお世話>なんだよ。気分悪いしさ。

しかも、『不味いラーメンを不味いと言えないのはおかしい!』とか言う人もいるけど、味の好みなんて人それぞれだから自分にとって美味しいと思えないものを美味しいと思えなんて言わないけど、それを美味しいと感じて応援してる人の前で『このラーメンは不味い!』とか大声で言うのは、ホント、ただの<迷惑>でしかない。

それで店主が迷走してそれまでの味と変えちゃったりしたら、それまでのを美味しいと思ってた人にとっては<損失>以外の何ものでもない。

そんなことしなくたって、『美味しい』と思ってくれる人が少ない、その店を利用するメリットが少ない、そんなラーメン屋は放っておいても潰れるんじゃないの?

もしそれで潰れないのなら……

まあそれはそれで、経営を続けるメリットが、経営者側にはあるんだろうね』



確かにそうだね。この世は、誰か一人のためだけにあるんじゃない。それを理解できれば、諍いの多くも解消されるんじゃないかな。

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