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ここで生きるのに必要なこと

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朝飯を終えてそれから水汲みも終えたヒャクに、僕は声を掛けた。

「ついてこい。ここで生きるのに必要なことを教えてやる」

「は、はい……っ!」

やや緊張した面持ちで僕の後を歩く彼女を伴って、僕は洞を出た。僕が降らせた雨は二日間降り続き、山は潤いに満ちていた。

元々この山は、たっぷりと水を含んでいて、人間達の田畑を潤すだけの水が足りなくなってもそれほど差し障りがあるものじゃなかった。

それでも、表面はそれなりに乾いてきていたから、下草は勢いを失っていたんだ。しかしそれも今では関係ない。うっそうと茂るそれらの中には、人間の口に合うものもある。

街の人間達全ての腹を満たすにはまったく足りないとはいえ、ヒャク一人が生きるには十分だ。

それと、木に生る実にも、さすがにそのままじゃエグ味が強くて食えたものじゃないだろうが、水に浸して灰汁を抜いた上でよく煮れば食えなくもないものもある。

これまでは僕が下拵えをして団子にしたものをヒャクに与えていたのを、これからは自分で用意してもらう。

まあ、そうは言っても猪などはさすがにヒャクには無理だろうから、そちらは僕が捕らえる。

しかし同時に、兎や鳥については<罠>を使えばヒャクでも獲れるだろうし、罠の作り方も教えよう。

こうして、僕は、まず、人間でも食べられる野草を教えてやることにした。

「これと、これと、これは食べられる。でも、こっちのは、よく似てるが、人間にとっては毒だ。気をつけろ。<はらわた>がちぎれて死ぬ奴もいる。

見分けるには、茎のここを見ればいい。食べられるやつはつるんとしてるが、こっちのは、葉のつくところが段になっている」

「ああ、本当ですね。葉だけ見ると同じようにも思えるけど、こうして見ると全然違う」

ヒャクは目を輝かせながら言った。

彼女もいくつかは知っている野草や山菜もあったものの、さすがにずっと街に住んでいただけあって、かつて里がまだ小さな村だった頃の人間達ほどは詳しくなかった。わざわざ山にまで分け入らなくても田畑で取れたものを食べれば済むからな。

それでも、彼女はとても熱心に僕の話を聞いて、手にした野草をしっかりと見て覚えようとしていた。それは<生きる力>そのものだ。食えるものを知る者は生き、知らぬ者は死んでいく。それが<理>だ。

時には<知らぬ者>が生き延びることもあるが、もちろん<知る者>に比べれば数は多くない。本当にたまたまだ。生きるべくして生きたのとは違う。

それを思えば、ヒャクは、生きるべくして生きる者だろう。

そういうところも、ヒアカとクレイの娘らしいと言えるだろうな。

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