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本当に調子のいい奴だな
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ミズモには、『自分の力で何とかしよう』という気概がまるでない。とにかく一から十まで他人任せで他人頼みで、自分はただ楽をして恩恵に与ろうという性根しかなかった。
「……お前は本当に調子のいい奴だな」
僕がそう言っても、
「…え、と……ありがとうございます……」
と、おどおどした様子で礼を言うだけで、皮肉すら通じない。
本心から自分の在り方に疑問を持ってないんだ。心底『これでいい』と思ってる。
そんな奴に何を言ったところで届きはしない。
だから僕は、もうあれこれ言うのもやめた。ヒャクは言えば言っただけ本人に響いたから言葉にもしたが、ミズモには何も響かないんだ。
でも、ミズモにはそれがよかったらしい。
ただただ毎日、僕が作る飯を食ってはゴロゴロしているだけという日々を過ごした。
言われないと本当に何もしないんだ。家の掃除さえ。
ここでもし、僕に人間と同じような<色欲>があれば夜伽の相手でもさせたところだろう。無駄に抱き心地は良さそうな体をしてたからな。
だけど僕にはそんなものもない。せめて人間の男の体をしていればまだ違ってたかもしれないものの、この時も女の体をしていたからな。
ホトリと同じ体だ。まだ若かった頃の。
まあそれはいいとして、ミズモの方は飯を食ってはゴロゴロしているという生活なものだから、元々肉付きのいい体が見る見る膨れ上がってな。
とにかく身の回りのことはすべて僕にやらせて自分は何もせずぶくぶくと肥え太っていくミズモに、他の生贄達はただただ呆れていた。
「ミズモ! あんたいい加減にしなよ! 竜神様に申し訳ないと思わないのかい!?」
さすがに見かねたのがミズモをそう叱責したものの、無駄だ。こいつはそういう自分の在り方そのものを欠片ほども恥じちゃいない。
「え…? え…? そんな、私はただ……」
当然、自分がなぜ叱責を受けているのかさえ理解できていなかった。
こいつにしてみれば、
『何も<悪さ>をしてない』
わけで、叱られる理由が分からないんだろう。
『悪さだけじゃなく、それ以外にも何もしていない』
のが問題なのだと考えが至らないのだ。
ミズモを叱責した奴も、それ以上、僕の前で騒々しくするのは駄目だと察して、徹底して無視するようにしたようだ。
とはいえ、確かにこのままじゃいろいろと拙そうだったから僕はミズモに、
「お前は、日に三度、私の髪を梳け。それがお前の仕事だ」
と、ミズモに<仕事>を与えたんだ。
「は……はい……」
『はい』とは言いながらも明らかに億劫そうな貌で応えたミズモだったものの、さすがにこの程度だったらいいと思ったのか、朝と夕と寝る前に僕の髪を梳くようになったのだった。
「……お前は本当に調子のいい奴だな」
僕がそう言っても、
「…え、と……ありがとうございます……」
と、おどおどした様子で礼を言うだけで、皮肉すら通じない。
本心から自分の在り方に疑問を持ってないんだ。心底『これでいい』と思ってる。
そんな奴に何を言ったところで届きはしない。
だから僕は、もうあれこれ言うのもやめた。ヒャクは言えば言っただけ本人に響いたから言葉にもしたが、ミズモには何も響かないんだ。
でも、ミズモにはそれがよかったらしい。
ただただ毎日、僕が作る飯を食ってはゴロゴロしているだけという日々を過ごした。
言われないと本当に何もしないんだ。家の掃除さえ。
ここでもし、僕に人間と同じような<色欲>があれば夜伽の相手でもさせたところだろう。無駄に抱き心地は良さそうな体をしてたからな。
だけど僕にはそんなものもない。せめて人間の男の体をしていればまだ違ってたかもしれないものの、この時も女の体をしていたからな。
ホトリと同じ体だ。まだ若かった頃の。
まあそれはいいとして、ミズモの方は飯を食ってはゴロゴロしているという生活なものだから、元々肉付きのいい体が見る見る膨れ上がってな。
とにかく身の回りのことはすべて僕にやらせて自分は何もせずぶくぶくと肥え太っていくミズモに、他の生贄達はただただ呆れていた。
「ミズモ! あんたいい加減にしなよ! 竜神様に申し訳ないと思わないのかい!?」
さすがに見かねたのがミズモをそう叱責したものの、無駄だ。こいつはそういう自分の在り方そのものを欠片ほども恥じちゃいない。
「え…? え…? そんな、私はただ……」
当然、自分がなぜ叱責を受けているのかさえ理解できていなかった。
こいつにしてみれば、
『何も<悪さ>をしてない』
わけで、叱られる理由が分からないんだろう。
『悪さだけじゃなく、それ以外にも何もしていない』
のが問題なのだと考えが至らないのだ。
ミズモを叱責した奴も、それ以上、僕の前で騒々しくするのは駄目だと察して、徹底して無視するようにしたようだ。
とはいえ、確かにこのままじゃいろいろと拙そうだったから僕はミズモに、
「お前は、日に三度、私の髪を梳け。それがお前の仕事だ」
と、ミズモに<仕事>を与えたんだ。
「は……はい……」
『はい』とは言いながらも明らかに億劫そうな貌で応えたミズモだったものの、さすがにこの程度だったらいいと思ったのか、朝と夕と寝る前に僕の髪を梳くようになったのだった。
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