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もえぎ園
世間知らず
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『話になんねぇ!』
そう吐き棄てて<もえぎ園>の事務所を出て行った守縫恵人だったが、その後も毎日のように園を訪れては宿角蓮華(すくすみれんげ)に食って掛かった。どうやら家に帰ってからネットでいろいろ調べてそれを根拠にしようとしてるらしいが、所詮、そんな付け焼刃など、ここの園長だった祖母や母が難癖をつけてくる親達を撃退する様子を生まれた時から見て育った彼女にはまるで通用しなかった。
やがて、声を荒げるのにも疲れたのか、不遜な態度ながらも多少は落ち着いた話ができるようになってきた。
その時、蓮華がふと尋ねる。
「あんたさあ、他人に対していちいちそういう態度取ってて、結婚とかどうするつもりなの? あんたみたいのと結婚してくれるようなのそうそういないわよ?」
唐突な質問に恵人は怪訝そうな顔をしながらも「はっ!」とシニカルな笑みを浮かべて応えた。
「結婚? なんで結婚とかしなきゃいけないんだよ。そんなのに人生使うのとか有り得ないだろ」
斜に構えてドヤ顔でそう言い切った恵人に、蓮華は呆れたように返す。
「は? 子供も作らない訳?」
だが恵人はさらに得意げに言い放った。
「こんなクソみたいな社会で子供作るとか無責任でしかねーだろ」
その彼の前で、蓮華は、「はぁ…」と頭を抱えて呆れたように溜息を吐いた。
「結局、口先だけか……まあいいわ。やっぱり久人さんはあんたみたいのがいるところには帰せないわね。本人の希望通り、うちでの保護を継続します」
と改めてきっぱりと断言した。するとまた、恵人の顔がみるみる真っ赤になっていく。
「ふざけんな! 家族の許可なしでそんなことできるかよ!」
とまたも声を荒げる彼に、蓮華は脇に置いてあった封筒を手に取って中から一枚の書類を取り出し、前に掲げた。
「ご両親の承諾ならもらってるわよ。ほら、この通り」
それは、<もえぎ園>で守縫久人を保護することに同意するという、両親の連名の署名が入った同意書だった。しかし恵人も引き下がらない。
「あいつらはガキ一人躾けられないような能無しだからそんなの無効だ!」
と言ってのける。
蓮華はますます呆れたような顔をして、
「はあ? あんた何言ってんの? これはちゃんと法的に有効な書類よ?」
と冷淡に返した。なのに恵人は、
「俺が無効だって言ってるんだから無効なんだよ!」
とまで言い出す始末だ。
「あんた、言ってることが無茶苦茶よ?」
蓮華の言うとおりだった。『俺が無効だって言ってるんだから無効』。そんな理屈が社会で通用する筈もない。それが通用するなら、役所はいちいち書類など作らせない。
自分がそんなことも理解できない程に世間知らずなのだと自ら告げているとさえ、恵人は気付いていなかったのだった。
そう吐き棄てて<もえぎ園>の事務所を出て行った守縫恵人だったが、その後も毎日のように園を訪れては宿角蓮華(すくすみれんげ)に食って掛かった。どうやら家に帰ってからネットでいろいろ調べてそれを根拠にしようとしてるらしいが、所詮、そんな付け焼刃など、ここの園長だった祖母や母が難癖をつけてくる親達を撃退する様子を生まれた時から見て育った彼女にはまるで通用しなかった。
やがて、声を荒げるのにも疲れたのか、不遜な態度ながらも多少は落ち着いた話ができるようになってきた。
その時、蓮華がふと尋ねる。
「あんたさあ、他人に対していちいちそういう態度取ってて、結婚とかどうするつもりなの? あんたみたいのと結婚してくれるようなのそうそういないわよ?」
唐突な質問に恵人は怪訝そうな顔をしながらも「はっ!」とシニカルな笑みを浮かべて応えた。
「結婚? なんで結婚とかしなきゃいけないんだよ。そんなのに人生使うのとか有り得ないだろ」
斜に構えてドヤ顔でそう言い切った恵人に、蓮華は呆れたように返す。
「は? 子供も作らない訳?」
だが恵人はさらに得意げに言い放った。
「こんなクソみたいな社会で子供作るとか無責任でしかねーだろ」
その彼の前で、蓮華は、「はぁ…」と頭を抱えて呆れたように溜息を吐いた。
「結局、口先だけか……まあいいわ。やっぱり久人さんはあんたみたいのがいるところには帰せないわね。本人の希望通り、うちでの保護を継続します」
と改めてきっぱりと断言した。するとまた、恵人の顔がみるみる真っ赤になっていく。
「ふざけんな! 家族の許可なしでそんなことできるかよ!」
とまたも声を荒げる彼に、蓮華は脇に置いてあった封筒を手に取って中から一枚の書類を取り出し、前に掲げた。
「ご両親の承諾ならもらってるわよ。ほら、この通り」
それは、<もえぎ園>で守縫久人を保護することに同意するという、両親の連名の署名が入った同意書だった。しかし恵人も引き下がらない。
「あいつらはガキ一人躾けられないような能無しだからそんなの無効だ!」
と言ってのける。
蓮華はますます呆れたような顔をして、
「はあ? あんた何言ってんの? これはちゃんと法的に有効な書類よ?」
と冷淡に返した。なのに恵人は、
「俺が無効だって言ってるんだから無効なんだよ!」
とまで言い出す始末だ。
「あんた、言ってることが無茶苦茶よ?」
蓮華の言うとおりだった。『俺が無効だって言ってるんだから無効』。そんな理屈が社会で通用する筈もない。それが通用するなら、役所はいちいち書類など作らせない。
自分がそんなことも理解できない程に世間知らずなのだと自ら告げているとさえ、恵人は気付いていなかったのだった。
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