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ムードない!
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人間は結局、自身が経験したことを基にしなければ行動できない。
つまりは、自身が気遣ってもらえた経験と実感がなければ、他人を気遣うこともできないのかもしれない。
結局、そこに行きついてしまう。
今、久人が他の園児達や灯安良を気遣うことができるのも、彼自身が蓮華や職員達に気遣ってもらえている実感があり、それを真似ているからだ。
ただ、今の灯安良にはまだその実感は届かない。彼女の側にそれを受け止めるだけの精神的な余裕がないのが一番の原因だと思われる。
これは、泰心も同じだろう。
だから蓮華の気遣いが届かない。とは言え、そもそも互いの間に信頼関係ができていなければ気遣われてもそれを素直に受け入れることもできないのもまた事実。
灯安良も泰心も、まだその段階にまで至っていなかった。
そんな相手を気遣うのは大変だ。自分ばかりが一方的に気遣っている気分になってしまう。そうなると心が折れてしまう。
そうならないように、職員達が久人を気遣う。その循環ができている。
「晩ごはんです」
灯安良の下に、久人が夕食を届けに来る。けれど彼女は部屋のドアを開けようとしないので、代わりに阿礼が食事を受け取った。なのでもちろん、阿礼の分も一緒に持ってきている。
「彼女の具合はどう?」
食事を届けるのと同時に灯安良の健康チェックも彼の役目だった。
「食欲自体はあるみたいだけど、赤ちゃんがすごく元気に動くから、あまり寝られないみたいだね」
阿礼の答えを、メモに取る。さらに、
「運動はどう? できてる?」
部屋に引きこもって出てこない灯安良のために、ランニングマシンが持ち込まれていた。それで、一日三十分を目安にウォーキングを日課にしている。
ただ、本人が進んでやることはあまりないので、阿礼が彼女を促してやらせる形になっているが。
これは、阿礼にしかできないことだった。他の人間が言ってもやらない。『怠けている』と言うよりは、反発してやらないと言った方がいいかもしれない。それが、阿礼に言われると渋々ながら従うのだ。
「灯安良、がんばろ? 愛してる」
「っば…! なんだよその言い方……! ムードない!」
などと文句を言いながらも、彼と並んでランニングマシンを使う。だからランニングマシンは二台用意されている。
灯安良のペースに合わせて、阿礼もゆっくり歩く形でランニングマシンを使う。
灯安良の様子を確かめながら。
そんな阿礼の気遣いが、妊娠の辛さも加わって精神的に余裕のない今の灯安良を支えているのだった。
つまりは、自身が気遣ってもらえた経験と実感がなければ、他人を気遣うこともできないのかもしれない。
結局、そこに行きついてしまう。
今、久人が他の園児達や灯安良を気遣うことができるのも、彼自身が蓮華や職員達に気遣ってもらえている実感があり、それを真似ているからだ。
ただ、今の灯安良にはまだその実感は届かない。彼女の側にそれを受け止めるだけの精神的な余裕がないのが一番の原因だと思われる。
これは、泰心も同じだろう。
だから蓮華の気遣いが届かない。とは言え、そもそも互いの間に信頼関係ができていなければ気遣われてもそれを素直に受け入れることもできないのもまた事実。
灯安良も泰心も、まだその段階にまで至っていなかった。
そんな相手を気遣うのは大変だ。自分ばかりが一方的に気遣っている気分になってしまう。そうなると心が折れてしまう。
そうならないように、職員達が久人を気遣う。その循環ができている。
「晩ごはんです」
灯安良の下に、久人が夕食を届けに来る。けれど彼女は部屋のドアを開けようとしないので、代わりに阿礼が食事を受け取った。なのでもちろん、阿礼の分も一緒に持ってきている。
「彼女の具合はどう?」
食事を届けるのと同時に灯安良の健康チェックも彼の役目だった。
「食欲自体はあるみたいだけど、赤ちゃんがすごく元気に動くから、あまり寝られないみたいだね」
阿礼の答えを、メモに取る。さらに、
「運動はどう? できてる?」
部屋に引きこもって出てこない灯安良のために、ランニングマシンが持ち込まれていた。それで、一日三十分を目安にウォーキングを日課にしている。
ただ、本人が進んでやることはあまりないので、阿礼が彼女を促してやらせる形になっているが。
これは、阿礼にしかできないことだった。他の人間が言ってもやらない。『怠けている』と言うよりは、反発してやらないと言った方がいいかもしれない。それが、阿礼に言われると渋々ながら従うのだ。
「灯安良、がんばろ? 愛してる」
「っば…! なんだよその言い方……! ムードない!」
などと文句を言いながらも、彼と並んでランニングマシンを使う。だからランニングマシンは二台用意されている。
灯安良のペースに合わせて、阿礼もゆっくり歩く形でランニングマシンを使う。
灯安良の様子を確かめながら。
そんな阿礼の気遣いが、妊娠の辛さも加わって精神的に余裕のない今の灯安良を支えているのだった。
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