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共に民衆を守る為に働く者同士、胸襟を開いて語り合いましょうぞ!

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クレガマトレンとレンガトレントでの小麦をはじめとした作物の収穫だけで、シャフセンバルト卿のところに納められた税は例年の総額の七割に達したってことだった。他からのものも合わせると例年の三割増しになるらしい。たった三割って思うかもだけど、もし、卿の領地全てでこれと同じレベルの収穫になると、単純に計算しても例年の二倍を大きく超えるってことだった。

去年、『来年の収穫の二倍を目指す』と立てた目標を実現できたどころか、それを大きく上回る結果に、私自身、興奮せずにはいられなかった。だけどまだだ。これを毎年コンスタントに維持できなければ意味がない。出だしだけ良くて後は尻すぼみじゃ駄目なんだ。

それと同時に、やりすぎても駄目なんだよね。これで調子に乗って無茶な計画を立てて強引なことをすると失敗する。その土地から得られるものには必ず上限がある。そのことを忘れて搾り取ろうとすれば必ずしっぺ返しがあるんだ。それも忘れちゃいけない。浮かれすぎて冷静さを失うと駄目なんだ。

とは言え、今回の成功に対してシャフセンバルト卿直々に私に礼が言いたいということで、アウラクレアに仕立ててもらった礼服を身に付けて私は卿の前に立ってた。

「おお! 貴殿がカリン・スクスミか! なるほど聡明そうな方だ!!」

そう言って手を差し出してきたのは、メロエリータの父君、エルゴセイン・シュタイア・シャフセンバルト卿だった。その横には母君のメロエネリス・シュタイア・シャフセンバルトが控えてた。二人とも真っ直ぐに相手を見詰めてくる、いかにも貴族って感じの威厳を感じさせつつ優しくて人がいい性格がにじみ出てる人物だと感じた。なるほど、これならメロエリータを奔放にさせてくれそうだなって思ったりも。

それでも、握手を交わした手はとても力強く、しっかりと握り返さないと潰されそうな気さえした。この辺りに、貴族として家を守ろうとする当主の剛健さも感じさせてきたな。舐められないって実感した。

だけど基本的にはすごく気さくな人達で、横柄で横暴な印象はなかった。私が一夜漬けで身に付けてきた形式ばった挨拶には、

「ははは! 貴殿は私にとって重要な客人だ! それほど改まる必要はない。それに、魔法使いは爵位こそ持たないがその身分は慣例的に貴族に準じるものでもある。共に民衆を守る為に働く者同士、胸襟を開いて語り合いましょうぞ!」

だって。

私がこのシャフセンバルト卿の領地内に現れることができたのも、本当に幸運だったと思う。そうじゃなければこんなに上手くいってなかったと実感したのだった。

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