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自分の金

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『暇ならこっち手伝っておくれ』

見知らぬ中年女にそう言って引っ張られたトレアは、

「あ…あの、私は……」

と声を掛けたものの、

「いいからいいら、あんた奴隷だろ? でも主人を待ってるだけだったら別に仕事しながらでも待てるでしょ。今日来るはずだった女の子が二人も来なくてさ、人助けだと思って手を貸してよ」

強引に倉庫のような場所へと連れてこられてしまった。

そこには、ちょうどトレアと同じ歳くらいの少女達が魚の干物らしきものを箱詰めしているところだった。どうやら下ろした荷物の代わりに積み込むものを準備しているところのようだ。

その作業をする人手が足りないということで、声を掛けられたらしい。

何か怪しいことをさせられるわけではないと察したことで、トレアはほっと胸を撫で下ろしていた。

主人に黙って勝手なことをしていたら叱られるかもしれないとも思ったものの、

『御主人様なら、このくらいだったら許してくださるかも……』

と思えたことで、そのまま作業につくことになった。まあ、それ以上に、

「ほらほらここに座って、これを箱に入れて!」

などと強引に作業につかされただけだったのだがな。

『御主人様がお仕事しているところを見てたかったな……』

そんなことを思いつつも、それでも作業を始めればトレアは真面目に仕事をこなした。

元々真面目な性格だったからな。

『ああ、よかった。これで何とかなりそうだね』

トレアを強引に連れてきた中年女も、その働きぶりを見てホッと胸を撫で下ろす。

そうこうしている間にも箱詰めは終わり、出荷に間に合った。

「ご苦労さん。今日は来なかった子の分の給金をみんなで分けるよ。頑張ってくれたお礼だ」

中年女がそう言うと、

「やった…!」

という声が上がる。

二人来なかったところにトレアが加わったので実際には一人分を十数人で分ける形になるが、それでも多少なりとも増えるのは嬉しいのだろう。

次々と給金を受け取っていく少女達の最後に、トレアも、

「ありがとうね。これ、ちょっと色を付けておいたから。よかったらまた手伝っておくれ」

と言って銅貨十枚が渡された。働いていたのは二時間ほどだったから、まあざっと時給五百円と言ったところか。

子供相手ということでかなり足元は見ているが、少なくともちゃんと支払われているあたりは、まあ良心的なのかもしれん。

トレアは渡された銅貨を握り締めた。

奴隷だったので給金というものはここまでもらったことがなく、生まれて初めて手にした<自分の金>だった。

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