読後感? 知らんなそんなもの。アンボイナにでも食わせてしまえ

京衛武百十

文字の大きさ
64 / 92

よかった

しおりを挟む
「ほら、今日の分だ」

ドルイはそう言って、座り込んだ藍繪正真らんかいしょうまにやはり銅貨十枚を渡した。

「そこに水があるからよ。勝手に飲んでいけ。あと、しょっぱいものを食え、でないとほんとに倒れるぞ」

それは、ドルイ自身の経験から得た知識だった。おそらく、汗をかいた後には水分と塩分を補給したほうがいいと感覚的に察していたんだろうな。

昨日の藍繪正真らんかいしょうまは水が用意されていたことに気付かずそのまま帰ろうとしたから、教えたのだろう。

「…っぷぅ……!」

がぶがぶと水を飲み、人心地ついたことで、藍繪正真らんかいしょうまは現場を後にした。

そして、昨日と同じように一緒に来ていてまた魚の干物の箱詰めを手伝わされたトレアと合流する。が、建物の影でまた地面に座り込んでしまう。さすがに多少休んでからでないと帰ることもできなそうだ。

「御主人様、これを…」

そう言ってトレアが差し出したのは、昨日も食べた肉の串焼きだった。

トレアがなぜそんなものを手に入れられたのか気付く余裕もなく受け取って、藍繪正真らんかいしょうまは肉にかじりつく。

さりとて、さすがに疲労が限界を超えていて食欲もなかったので、少しずつゆっくりと食べる形だったが。

地面に座り込んでもそもそと串焼きの肉を食うみすぼらしい男と、裸足で足首に奴隷の刺青を施された少女の姿に、行きかう人間達はちらりと視線を向けるだけで、特に声を掛けてきたりもしなかった。

まあ、物乞いが同じように座り込んでいたりもするので、それほど珍しい光景でもないしな。

この町の連中は、係わり合いになった相手には愛想も振りまくものの、そうでない相手には積極的には係わらないようにしているようだ。

先にも言ったが、元々、様々な事情で様々な地から逃げてきた連中が、なんとなくここに集まり、自然発生的にできた町だからな。規模も小さく、王都から遠く、他国との交易や軍事上もさほど重要な土地でもなく、いちいち管理するのも面倒ということで領主からも相手にされず放置されている町だ。

係わり合いになった相手には仲間意識も持つものの、そうでなければ商売でもない限り自分からは積極的に係わらない。

それがこの町の気風だった。

だが、それが逆にこの<普通じゃない主人と奴隷>にとっては過干渉を受けずに済むという点において居心地が良かったようでもある。過度の余計なおせっかいは、藍繪正真らんかいしょうまにとっては地雷そのものなのだ。

何とか肉も食べ切ると、今度は猛烈な睡魔が押し寄せてきた。なので気を失うようにして壁にもたれかかって寝てしまう。

「御主人様……?」

心配げに声を掛けたトレアだったが、すうすうと穏やかに寝息を立てているだけの主人の様子に、

『よかった。お疲れだっただけなのですね……』

とホッとする。そして自分も壁にもたれて座り、主人の体を支えた。その重みと体温を実感して、

『御主人様はあたたかいですね……』

トレアは自分の体の中があたたかくなるのを感じた。こうしていられるのが幸せだと思ったのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます

由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。 だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。 そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。 二度目の人生。 沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。 ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。 「今世は静かに生きられればそれでいい」 そう思っていたのに―― 奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。 さらにある日。 皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。 「沈薬は俺の妃だった」 だが沈薬は微笑んで言う。 「殿下、私は静王妃です」 今の関係は―― 皇叔母様。 前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。 それを静かに守る静王。 宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...