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友達

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藍繪正真らんかいしょうまがドルイのところで話を聞いている時、トレアはいつもの通り、魚の干物の箱詰めをしていた。ただ今日は品物が少なかったそうで早々に仕事が終わってしまった。その分、給金も少なかったものの、その辺りは文句を言っても始まらないのでトレアは、

「ありがとうございます」

いつもの女性から給金を受け取ると、マーレに、

「一緒に買い物行こ!」

と声を掛けられて、

「うん、いいよ」

笑顔で応えた。

その姿は、それこそ普通の友達同士にしか見えない。

そんな二人に、

「あ、ごめん、買い物行くんだったら、ついでにうちにこれ届けておいてくれないかな。お駄賃出すからさ」

あの中年女性にそう声を掛けられて、マーレが、

「うん、分かった。おかみさん」

と応える。トレアが魚の干物が入っているらしい包みと銅貨二枚を受け取り、マーレと一緒に倉庫を出る。

二人はそのまま、商店街で食品店を営んでいる<おかみさん>の家を訪れて、二人より少し年上らしき、おかみさんによく似たちょっとふっくらした印象の店番の少女に、

「これ、おかみさんから預かってきた」

包みを渡した。

「ありがとう。店で売る分まで出荷分に回しちゃうんだから、うちの母さんはホントそそっかしい人だよね」

店番の少女は包みを受け取りながら苦笑いする。

でもすぐに、<店員の顔>に戻り、

「ところで、せっかく来たんだからついでにうちで買い物してきなよ。安くするよ」

抜け目なく商売っ気も見せてきた。

すると今度は二人が苦笑いになり、

「リティはしっかりしてるなあ」

などと言いつつも、

マーレは豆、トレアは干し肉を選び、その上で<イチジク>に似た果物も買い、それを食べながら商店街をぶらついた。

その姿もまた、現代日本の今時の女子中学生辺りが放課後に買い食いしながら街をぶらついているのと何ら変わりはなかっただろう。

どんな世界でもどんな時代でも、人間はそんなに変わらないということでもあるだろうな。



だが、この時、そんな当たり前の穏やかな時間を満喫していたこいつらに、抗い難い<災厄>が迫ってきていることを気付いている者は誰もいなかった。

この町のある地を治めていた領主が、かねてより諍いのあった隣国との決着をつけるべく、兵を動かしたのである。

しかもそれを察した隣国もまた、むしろこれを好機と捉えて兵を動かした。軍が陣地を築き準備を整える前に攻撃し、逆に一気に攻め入ろうと考えたのだ。

そして双方が戦いの舞台として選んだのが、この町、<トルカ>であった。

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