死の惑星に安らぎを

京衛武百十

文字の大きさ
49 / 120

日記

しおりを挟む
タリアP55SIが出会った少女の名前は、アンナと言うらしかった。バリケード内の店舗の事務室をどうやら寝室代わりに使っていたらしく、仮眠用のベッドと思われるものとソファーで睡眠をとっていたようだ。そしてその事務室の机の上に、日記らしきものが残されていたのである。それには、こう書かれていた。

『星歴2007年10月3日。今日はアンナはとても落ち着いていた。彼女が落ち着いていると私も気分が落ち着く。だから今日から日記を付けることにした。

それが起こったのは、星歴2007年8月17日だった。まさかこんな映画のようなことが現実で起こるなんて、思ってもみなかった。確かに別の都市で何か大変なことが起こってるらしいというニュースは流れていたが、正直、自分達には関係ないと思っていた。

それにあの日は、アンナの誕生日だった。家族みんなでモールに来て楽しみたかったんだ。それなのに。

客もモールの従業員も次々おかしくなった。サオリも気分が悪いと座り込んだと思ったら、何十分かして完全におかしくなって噛み付いてきた。腕の肉が食いちぎられて結構な血が出た。

私とアンナだけは何故か平気だった。こういう時、噛まれた者も感染するという話が多い気がするが、どうやら私は平気らしい。血も止まったし。

彼らは力は強いが動きがのろくて知能もないらしく、しかもちょっとした段差も越えられないので、最初は恐ろしかったが慣れてくるとそんなに大変な敵でもないことが分かってきた。何より、おかしくなったサオリに噛まれたのに私は平気だ。だから少なくとも私はこの病気か何かに対して免疫があるのだろう。それは非常に幸運だった。

アンナも私と同じかどうかは分からないので、噛まれないように気を付けた。それに何しろ彼らは人間を襲って食う。噛まれるだけで済まないのだから。

最初は、この事務室に立てこもっていた私とアンナだったが、彼らがそれほど脅威でもないことに気付いてからは、私は生活空間の拡大に努めた。私自身を囮にして彼らを誘導し、階段やエスカレーターから突き落としてやると二度と上がってこれなかった。

幸い、来たのが開店直後だったこともあってかレストラン街には客も少なく、ここの彼らを排除してバリケードを築き、そこそこの空間を確保できた。

こうしていくらか落ち着いたことで精神的に余裕も生まれ、私は日記をつけることにした。しかし、まだ八歳のアンナにはショックが強すぎたのだろう。あの子が壊れてしまっているのは私にも分かった。

いや、こんなことを冷静に日記にしたためてる私ももうまともじゃないというのは自分でも感じる。サオリを喪ったことにも平然としてられるのだから、正気ではないのだろう。あんなに愛していた筈なのに。

けれど、命がある限りは生きる努力は続けたいと思う。幸い、水も食料も充分にある。そういう意味でもレストラン街を確保できたのは幸いだったと言えると思う』

その日記を読んだことで、少女の名前がアンナであると推測したのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...