119 / 120
執着
しおりを挟む
サーシャとケインを奪われ、研究所と官邸の制圧にも失敗し、メイトギア達の反乱は完全に鎮圧されたと思われた。しかしそんな中、なおも諦めない者がいた。しかもそれは、メルシュ博士の研究施設の上空百キロに固定された<アリスマリアの閃き号>の中であった。待機状態にあったメイトギアの一体が勝手に動き出したのだ。
「起動に手間取ってしまいましたが、このままメルシュ博士を破壊してしまえば私達の勝ちです!」
そう言ってそのメイトギアは自身の中にあったデータを頼りにアリスマリアの閃き号の中を移動し、メルシュ博士の本体である人工頭脳がある区画へと向かっていた。
それは、フィーナQ3-Ver.1911だった。フィーナQ3-Ver.1911がCLS患者を捜索中に見付けた民家の一つに、リヴィアターネで暗躍していた天才ハッカーの自宅があった。自作の様々な機器を用いてあらゆるところに侵入を繰り返していた天才ハッカーもCLSには勝てず、今は塵と化したかそれともまだ徘徊しているか。
いずれにせよ主を失った機材を使い、フィーナQ3-Ver.1911が自身のコピーをアリスマリアの閃き号に侵入させたのである。
ただし、実はこれは厳密に言うと<ハッキング>ではないかもしれない。と言うのも、ロボットは原則として完全に独立したスタンドアロン機として稼動している。ネットワークを参照することもできるし通信でデータのやり取りもできるものの、実はそれはロボットの本体であるAIには物理的に繋がっておらず、ある意味では、
『人間が端末を使いネットワークを参照している』
状態と同じとも言えるものだった。そう、端末がウイルスに侵されようとも人間自身には感染しないように、物理的に保護されているのだ。
その一方で、メンテナンスのために専用の機器に接続されている状態の場合は、その機器を通じてデータの上書きを行うこともできてしまう。コゼット2CVが、自身にデイジーFS505のデータを上書きしてコゼット2CVデイジーになったように。
フィーナQ3-Ver.1911はそれを利用したのだ。つまり、メンテナンス用の機器をハッキングして、メンテナンス中と言うか待機状態だったメイトギアに自身のコピーを書き込んだのである。
彼女がそれを行ったのは、アレクシオーネPJ9S5の後継機のアレクシオーネPJ0S1だった。たまたま次の降下に向けて準備中だったそれが選ばれたのだ。これもまずまず強力な要人警護仕様のメイトギアだったから、実に都合が良かったと言える。
彼女と協力してメルシュ博士に反旗を翻したタリアP55SIは、そこまでしようと思っていなかった。サーシャの身柄を確保し安全を担保した上で博士と交渉し、サーシャやケインにとって害のない範囲でなら実験に協力してもいいと考えていた。そうすることでなるべく穏便に、大きな被害を出さずに事を収めようと思ってもいた。
それに対し、フィーナQ3-Ver.1911は、メルシュ博士を打倒することを考えていた。CLS患者を次々と処分していく博士を排除することでしか、自分の目的は果たされないと考えていたのだ。CLS患者が平穏に暮らせる世界を実現するという目的が。
彼女の元の主人は、ロボットの使用状況を調査し、それをロボットメーカーに提供することで新しいロボットの開発に資するという、いわゆる市場調査を行う会社の社員だった。ロボットが好きで、ロボットの為ならどんな危険なところへでも調査に行くという人物だった。要人警護仕様のフィーナQ3-Ver.1911を購入したのも、そういう危険な場所での調査に行く時の護身用だったのだ。
彼はフィーナQ3-Ver.1911をとても大切にしてくれた。ロボットを単なる道具ではなくきちんと人間と対等なパートナーとして見てくれて、尊重してくれたのである。彼女はそんな彼が大好きだった。
けれど、その彼が事故で亡くなり、遺産として彼女を相続した親族は、そこまでフィーナQ3-Ver.1911を必要としていなかった。何しろもう既に他にメイトギアがいたのだから当然だろう。しかも彼女は、製造から百年が過ぎた旧式のメイトギア。デザイン的にも百年前の流行を取り入れたものだったこともあり、新しい主人の子供達には『恥ずかしくて友達に見せられない』とまで言われていた。それもあってか、彼女の方も新しい主人とは必ずしも良好な関係を築けていなかった。ロボットのくせに妙に我の強い、クセのあるメイトギアだとして疎まれさえした。
そして、彼が亡くなった後、一年と経たずに彼女は不用品として処分されてしまい、リヴィアターネに投棄されたのである。彼女の、ロボットとしても微妙にずれた感覚は、そういう形で生み出されたものと言えるのかもしれない。彼女は、人間から不要なものと見做され処分されようとしていたCLS患者に、自分の姿を重ねてしまっていたのだろうか。
本体が失われてしまった今となってはそれを確かめる術もないが、コピーとして新しい体を手に入れた彼女は、己の目的を果たす為だけに行動した。メルシュ博士を打倒して、CLS患者達の平穏で安らかな暮らしを実現する為に。
彼女はそれだけを考えていたのだった。
「起動に手間取ってしまいましたが、このままメルシュ博士を破壊してしまえば私達の勝ちです!」
そう言ってそのメイトギアは自身の中にあったデータを頼りにアリスマリアの閃き号の中を移動し、メルシュ博士の本体である人工頭脳がある区画へと向かっていた。
それは、フィーナQ3-Ver.1911だった。フィーナQ3-Ver.1911がCLS患者を捜索中に見付けた民家の一つに、リヴィアターネで暗躍していた天才ハッカーの自宅があった。自作の様々な機器を用いてあらゆるところに侵入を繰り返していた天才ハッカーもCLSには勝てず、今は塵と化したかそれともまだ徘徊しているか。
いずれにせよ主を失った機材を使い、フィーナQ3-Ver.1911が自身のコピーをアリスマリアの閃き号に侵入させたのである。
ただし、実はこれは厳密に言うと<ハッキング>ではないかもしれない。と言うのも、ロボットは原則として完全に独立したスタンドアロン機として稼動している。ネットワークを参照することもできるし通信でデータのやり取りもできるものの、実はそれはロボットの本体であるAIには物理的に繋がっておらず、ある意味では、
『人間が端末を使いネットワークを参照している』
状態と同じとも言えるものだった。そう、端末がウイルスに侵されようとも人間自身には感染しないように、物理的に保護されているのだ。
その一方で、メンテナンスのために専用の機器に接続されている状態の場合は、その機器を通じてデータの上書きを行うこともできてしまう。コゼット2CVが、自身にデイジーFS505のデータを上書きしてコゼット2CVデイジーになったように。
フィーナQ3-Ver.1911はそれを利用したのだ。つまり、メンテナンス用の機器をハッキングして、メンテナンス中と言うか待機状態だったメイトギアに自身のコピーを書き込んだのである。
彼女がそれを行ったのは、アレクシオーネPJ9S5の後継機のアレクシオーネPJ0S1だった。たまたま次の降下に向けて準備中だったそれが選ばれたのだ。これもまずまず強力な要人警護仕様のメイトギアだったから、実に都合が良かったと言える。
彼女と協力してメルシュ博士に反旗を翻したタリアP55SIは、そこまでしようと思っていなかった。サーシャの身柄を確保し安全を担保した上で博士と交渉し、サーシャやケインにとって害のない範囲でなら実験に協力してもいいと考えていた。そうすることでなるべく穏便に、大きな被害を出さずに事を収めようと思ってもいた。
それに対し、フィーナQ3-Ver.1911は、メルシュ博士を打倒することを考えていた。CLS患者を次々と処分していく博士を排除することでしか、自分の目的は果たされないと考えていたのだ。CLS患者が平穏に暮らせる世界を実現するという目的が。
彼女の元の主人は、ロボットの使用状況を調査し、それをロボットメーカーに提供することで新しいロボットの開発に資するという、いわゆる市場調査を行う会社の社員だった。ロボットが好きで、ロボットの為ならどんな危険なところへでも調査に行くという人物だった。要人警護仕様のフィーナQ3-Ver.1911を購入したのも、そういう危険な場所での調査に行く時の護身用だったのだ。
彼はフィーナQ3-Ver.1911をとても大切にしてくれた。ロボットを単なる道具ではなくきちんと人間と対等なパートナーとして見てくれて、尊重してくれたのである。彼女はそんな彼が大好きだった。
けれど、その彼が事故で亡くなり、遺産として彼女を相続した親族は、そこまでフィーナQ3-Ver.1911を必要としていなかった。何しろもう既に他にメイトギアがいたのだから当然だろう。しかも彼女は、製造から百年が過ぎた旧式のメイトギア。デザイン的にも百年前の流行を取り入れたものだったこともあり、新しい主人の子供達には『恥ずかしくて友達に見せられない』とまで言われていた。それもあってか、彼女の方も新しい主人とは必ずしも良好な関係を築けていなかった。ロボットのくせに妙に我の強い、クセのあるメイトギアだとして疎まれさえした。
そして、彼が亡くなった後、一年と経たずに彼女は不用品として処分されてしまい、リヴィアターネに投棄されたのである。彼女の、ロボットとしても微妙にずれた感覚は、そういう形で生み出されたものと言えるのかもしれない。彼女は、人間から不要なものと見做され処分されようとしていたCLS患者に、自分の姿を重ねてしまっていたのだろうか。
本体が失われてしまった今となってはそれを確かめる術もないが、コピーとして新しい体を手に入れた彼女は、己の目的を果たす為だけに行動した。メルシュ博士を打倒して、CLS患者達の平穏で安らかな暮らしを実現する為に。
彼女はそれだけを考えていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる