あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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認識のズレ

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ウルイと一緒なら、イティラはどこでも楽しかった。途中で見かける草花や景色のどれもが綺麗で楽しげで、胸が躍った。

それは、ウルイが一緒にいてくれるから。

自分のことをちゃんと見てくれて、認めてくれて、受け入れてくれる彼がいるから、自分の目に映るものの<意味>が違って見えた。

以前は、自分以外の全てが、

『自分にとって怖いか否か』

『自分にとって痛いか否か』

『自分にとって危険か否か』

『自分にとって食べられるものか否か』

『自分にとって嫌なものか否か』

だった。それ以外の意味で何かを見ていた覚えがない。<綺麗>とか<楽しい>とか、そんなことを考える余裕はまったくなかった。

この世の全ては、自分にとって怖いか痛いか危険か嫌かであって、ごくたまにそうじゃないものがあるだけだった。

そんな彼女の前に現れたウルイ。

無愛想で不器用で気が利かなくておまけにほぼ文無し。

金はまあ、なくても生きていける環境なのでそれはいいとしても、金が必要なことは何一つできないのも確かだろう。

でも、それでも、

『怖いことをしない』

『痛いことをしない』

『危険を感じさせない』

『嫌なことをしない』

そして、なにより、

『自分が生きてることを許してくれてる』

もうただそれだけで彼女にとっては<神様>みたいな存在だった。

しかもその上、自分が楽しそうにしてると目が優しくなって、嬉しそうにしてくれる。

これ以上、何が必要か? 

彼と一緒にいるだけで、世界がキラキラして見えるのだ。光に溢れ、色に溢れ、心地好さに溢れ、楽しいことに溢れているように思えるのだ。

それがイティラの認識だった。

とは言え、それはあくまで<イティラの認識>。ウルイとイティラは別人であるというのが紛れもない現実。

自分が思っていることと他人が思っていることは必ずしも一致しないのは、普通に人間としてこの世で生きていればほとんど誰でも知っていることのはず。

『美味い飯が食えて綺麗な服が着られてあたたかい家に住めて楽しく遊べるのが幸せだ』

という価値観を知るウルイからすれば、

『何も持っていない自分が彼女を幸せにできるはずがない』

と思っても無理はないのかもしれない。彼にとって世界はただそこにあるだけで、楽しいとか美しいとか、そういうものでは決してなかった。

だからこそ、イティラの存在を認めるがゆえに、

『こいつだって幸せになる権利はあるんじゃないのか?』

と思ってしまうのだ。ただ毎日を生き延びるだけじゃなく。

『こいつは頭もいい。気が利くし、獣人の<美人>がどういうのかは俺には分からないが、たぶんブサイクってわけでもない気がする。

だとしたら、ちゃんとした奴に育ててもらった方が、絶対、幸せになる』

そんな風に思ってしまう。多少なりとも<情>が湧き始めてるのを自覚するからこそ、

『幸せになった方がいい……』

と。

そのために、山を越え谷を越え、沢を渡り、目的地を目指した。

そこにまだ、<彼>がいることを願いつつ……

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