21 / 126
格
しおりを挟む
その男は、緩くウェーブしたやや明るめの黒髪を無造作に首の辺りまで伸ばし、パッと見のシルエットだけならひょろりと背が高いだけに見えるが、しかし実際に向かい合ってみるとそこから受ける印象はまったく違っていた。
ただ何気なく立っているだけのはずにも拘らず、何とも言えない<圧>があるのだ。
粗末な服の袖から見える腕も、
『細い』
のではなく、
『無駄がまったくないから細く見える』
だけなのが分かってしまう。
「キトゥハ……」
男の姿を見たウルイがそう呟いたのに合わせるかのように、ポツポツと滴がイティラの頬を打った。雨が降り始めたのだ。
「何をボーっとしている。その子を濡らすな。これを使え」
<キトゥハ>と呼ばれた男は、顔まで毛皮に包まれたイティラの姿を見てもまったく動じることなく手にしていた毛皮を差し出す。脂を塗って防水処理した雨具だった。
その上で、
「お前はどうでもいいがな」
とも付け加える。
ウルイがムッとしたような様子も見せなかったので、どうやらこれがいつものやり取りらしい。
黙って毛皮を受け取ったウルイがそれをイティラの頭から被せ、フードのようにして、括り付けられていた革紐を首の下で結ぶ。これで少々の雨でも大丈夫だ。
ウルイの方は自身が羽織っていた毛皮を頭から被り、やはり紐を結ぶ。
キトゥハが言ったように『雨の用意をしていなかった』のではなく、いざとなればイティラを背負ってその上から毛皮を掛ければいいと思っていたのだ。
もっとも、キトゥハの方もそれは承知の上で言ったようだが。
しかしそのやり取りの間、イティラはキトゥハに対して明らかに警戒している様子を見せていた。
彼女には分かってしまっていた。
『この人……お父さんと同じ……』
イティラの<父親>。それは、狼人間。その父親と同じ匂いを、キトゥハは発していたのである。
「……」
そうして自分を明らかに警戒しているイティラに対して、キトゥハはフッと微笑んで見せただけだった。
『礼儀知らずな子供だ』
といったことは口にしない。幼い子供が見ず知らずの相手を警戒し怯えるのは当然だと知っているからだ。しかもウルイなどと一緒にいるということは、
『訳有り』
以外の何ものでもない。だから<普通の挨拶>などできなくて当然と考えていた。そんなことができる段階にないことを一目で察していた。
ゆえに、
「こんなところで雨に打たれている必要もないだろう。さっさとこい。今は俺一人だ。遠慮はいらない」
そう言って、フイと背中を見せた。その身のこなしがまた、体のどこにも力が入っていないのに恐ろしくバランスが良くてなめらかなのが分かる。
もうそれだけで、自分はおろかウルイよりも圧倒的に格上なのが、幼いイティラにさえ察せられてしまったのだった。
ただ何気なく立っているだけのはずにも拘らず、何とも言えない<圧>があるのだ。
粗末な服の袖から見える腕も、
『細い』
のではなく、
『無駄がまったくないから細く見える』
だけなのが分かってしまう。
「キトゥハ……」
男の姿を見たウルイがそう呟いたのに合わせるかのように、ポツポツと滴がイティラの頬を打った。雨が降り始めたのだ。
「何をボーっとしている。その子を濡らすな。これを使え」
<キトゥハ>と呼ばれた男は、顔まで毛皮に包まれたイティラの姿を見てもまったく動じることなく手にしていた毛皮を差し出す。脂を塗って防水処理した雨具だった。
その上で、
「お前はどうでもいいがな」
とも付け加える。
ウルイがムッとしたような様子も見せなかったので、どうやらこれがいつものやり取りらしい。
黙って毛皮を受け取ったウルイがそれをイティラの頭から被せ、フードのようにして、括り付けられていた革紐を首の下で結ぶ。これで少々の雨でも大丈夫だ。
ウルイの方は自身が羽織っていた毛皮を頭から被り、やはり紐を結ぶ。
キトゥハが言ったように『雨の用意をしていなかった』のではなく、いざとなればイティラを背負ってその上から毛皮を掛ければいいと思っていたのだ。
もっとも、キトゥハの方もそれは承知の上で言ったようだが。
しかしそのやり取りの間、イティラはキトゥハに対して明らかに警戒している様子を見せていた。
彼女には分かってしまっていた。
『この人……お父さんと同じ……』
イティラの<父親>。それは、狼人間。その父親と同じ匂いを、キトゥハは発していたのである。
「……」
そうして自分を明らかに警戒しているイティラに対して、キトゥハはフッと微笑んで見せただけだった。
『礼儀知らずな子供だ』
といったことは口にしない。幼い子供が見ず知らずの相手を警戒し怯えるのは当然だと知っているからだ。しかもウルイなどと一緒にいるということは、
『訳有り』
以外の何ものでもない。だから<普通の挨拶>などできなくて当然と考えていた。そんなことができる段階にないことを一目で察していた。
ゆえに、
「こんなところで雨に打たれている必要もないだろう。さっさとこい。今は俺一人だ。遠慮はいらない」
そう言って、フイと背中を見せた。その身のこなしがまた、体のどこにも力が入っていないのに恐ろしくバランスが良くてなめらかなのが分かる。
もうそれだけで、自分はおろかウルイよりも圧倒的に格上なのが、幼いイティラにさえ察せられてしまったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる