あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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狂乱

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「ごあっ! ごああああっ!!」

恐ろしげな雄叫びを上げるドムグは、完全な狂乱状態にあった。生命の危機を察したのだろう。それから逃れるためにはどうすればいいのかを、その脳は必死に捜し求め、しかし何も見付けられず混乱しているものと思われる。

だが、<憎悪>だけは明確だったようだ。

岩陰から立ち上がるウルイの姿を見付け、明確な殺意をもって彼目掛けて走った。

「ウルイ!!」

それを見てイティラが悲鳴のような声を上げる。

かすっただけでも死に至る毒矢が首筋に命中したというのに、普通その位置なら瞬時に毒が回って心臓が止まるというのに、ドムグは動いて見せたのだ。

何という化け物。

ウルイを助けに行こうにも、もう満足に体が動かない。

「逃げてぇ!!」

呼吸すらままならない中で悲鳴のような声を上げる。

けれど、ウルイは逃げなかった。逃げても無駄なことは悟った。今のこの動きであれば、おそらくドムグの命が尽きる前に追いつかれて先に自分が殺されるであろうことは悟ってしまった。

だからとどめを刺すことでしか生き延びられないと判断。身に染み付いた狩人としての能力が彼を突き動かす。

瞬時に新たな矢をつがえ、放つ。

それは寸分違わず、ドムグの額を貫いた。

貫いたはずだった。なのに、

『浅い……っ!?』

矢が刺さったが、浅かったのだ。おそらく分厚く頑丈な頭骨に阻まれ、脳にまで達していないのだと思われる。

するとウルイは躊躇うことなく次の矢を放った。先の矢のすぐ脇に刺さるも、やはり浅い。ドムグは止まらない。

だからウルイは、三度、矢を放った。並みの狩人ではおよそ可能とは思えない速度での連射だった。しかも、<怪物>がもうすぐ目の前に迫っているというのに。

そして三本目の矢もドムグの額に命中。

と、今度の矢は明らかに先の二本よりも深く刺さった。

瞬間、ドムグの足が乱れ、前のめりに崩れ落ちていく。

どどどおっっ!! と、やはり巨大な岩が転がるように巨体が倒れた。ウルイのすぐ眼前で。

毒の矢が刺さったことで恐慌状態に陥ったがゆえだっただろう。

そうでなければ、額に矢が命中した時点で左右に体を振って狙いを付けさせないようにしたに違いない。ウルイとイティラが木の上に逃げた時には、狙われないように距離を取るくらい頭の働く奴だったのだから。

しかし正常な思考ができず真っ直ぐに突っ込んできたことで、二本の矢が頭蓋の強度を下げ、三本目で遂に突き破ったのだ。

実を言うと三本目の矢も、後頭部側で止まり、矢の先端が潰れてしまっていたという。

だが、それでも、倒せたことは事実だった。

もっとも、イティラは肉体的に、ウルイは精神的に疲労困憊となり、しばらく動くこともできなかったが。

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